『新 絵心教室』
4. “観察”が大事
- 岩田
- 今回、3D機能についても、
いろいろ検討したんでしょうね。 - タンク
- はい。このソフトを開発するときに
大きなチャレンジになったのが、
その3D機能をどのように有効活用するか、
ということでした。
そこで、2Dの下画面は
従来どおり、キャンバスとして使いつつ、
上画面では、絵を描く対象物を
立体的に見られるようにしました。
一般的に絵を描こうとすると、
静物や人物、それに風景など、
もともと立体なものを観察して
それを平面の絵に描くわけですよね。 - 岩田
- すると、3DSにピッタリですよね。
- タンク
- そうなんです。
そもそも、絵を描くときにとても重要になるのは、
手を動かして絵を描くよりも、
対象物を“じっくり観察すること”なんです。 - 岩田
- 対象物にしっかり向き合って、
それを理解することが大事なんですね。 - タンク
- そうです。
そこで3DSの上画面を使えば、
対象物をぐるっと回して観察できたり、
あるいは光の調子を変えてみたり、
まるで現実の絵描きさんたちが、
モデルや風景を前にして観察するのと
同じようなことができると思いました。 - ジェイソン
- いろんな角度から観察したり
光の角度を変えることで、
対象物への理解が深まって、
その結果、いい絵が描けるようになるんです。
- 寺崎
- ただ、レッスンに使うための
3D写真の調達がけっこう大変でしたよね。 - タンク
- そうですね。
3D写真はライセンス料を払えば使えるような
いわゆる素材集がほとんど存在していませんから、
自分たちで撮る必要がありました。 - 宮地
- そこでタンクさんは、わざわざ
撮影旅行(vacation for taking pictures)に行かれたんです。 - タンク
- いえ、バケーション(旅行)ではなかったです! (笑)
- 一同
- (笑)
- タンク
- まぁでも、同僚たちは
そう思っていたかもしれませんね(笑)。
英国の中で、ヨーロッパの典型的な風景が
撮れるような場所はどこだろうと考えて、
ウェールズに行くことにしました。 - 岩田
- ウェールズは、英国の南西部にあって、
とても豊かな自然が残っているエリアなんですよね。 - タンク
- そうです。
そこで、3Dの写真を撮るために
カメラマンを雇いまして、
4、5日間のツアーに出かけました。
すごくタイトなスケジュールだったんですけど、
あるときは川の中に入ったり、
あるときは崖からぶらさがったりしながら、
さまざまな写真を撮ることができました。 - 岩田
- とてもゲーム会社の
プロデューサーの仕事とは思えませんけど(笑)。 - タンク
- はい(笑)。
- ジェイソン
- じつはタンクさんはアウトドア派で、
もともと外に出たり、歩き回ったりするのが
大好きなんです。 - 岩田
- あ、そうなんですか。
- タンク
- ですから、とてもエキサイティングなツアーを
楽しむことができました。
クルマを走らせていたら「ポニー」に出会いまして、
すかさずクルマから降りてバシャッと撮ったりとか。 - 寺崎
- で、これが「
ポニー」です。
- 岩田
- しっぽが揺れて、顔も少し動いていますね。
- 寺崎
- 今回は、動画を見ながら
絵を描くレッスンもあるんです。 - 岩田
- 現実の世界で、実際に絵を描こうとすると、
対象物がじっとしていることは
ほとんどありませんからね。 - タンク
- そうなんです。
だから今回はあえて、
対象物に動きを入れようと思いました。
そもそも、実際に外に出て写生をしようとすると、
雲が動いていて、木はそよぎ、
光が刻々と変化をしますので、
戸惑ってしまう人も少なくないんですよね。 - 岩田
- だから、より現実に近いことを実現するために、
動画をレッスンに入れたということですね。 - タンク
- そうです。
- 寺崎
- あと、人物モデルの写真なんかも・・・
これがそうなんですが。 - 岩田
- ああ、
回転するようになってるんですね。
- 寺崎
- タンク先生、これは
回るイスに座らせて撮ったんでしょう? - タンク
- そうです。いままさに
わたしが座っているようなイスで
角度を調整しながら、こうやって・・・
(実際にイスを回転させながら)撮ったんです。 - 一同
- (笑)
- タンク
- なので、いろんな角度から
人物も観察できるようになりました。 - 岩田
- 人を回しているのもあれば、
ライティングを回すのもあるんですね。 - 宮地
- そうです。
- 岩田
- ライティングを回すと、
陰影から立体感がよりわかるんですね。 - タンク
- 光を調整できるというのは、
ふたつの意味があるんです。
ひとつは「お客さん自身が、
この光の当てかたでいちばん見栄えがいい」と
思えるような絵を描くことができます。
もうひとつは、光源を変えることによって、
対象物のフォルムや質感や形を
より深く認識することができるようになるんです。
なので、前作のように
平面的な写真を描き写すよりも、
今回は学べることがより多くなったと感じています。
- 岩田
- いままでは、平面の写真を見ながら
絵を描いていたわけですけど、
今度はまるで実際の世界を見るようにして
絵を描くということに変わったんですね。 - タンク
- はい。それができることによって、
美術教育の中で重要視されている“観察”というものを
より強化することができたと思いますし、
平面的な絵や写真をただ模写するのではなく、
“実際の世界を描く”というところに
今回は近づけたのではないかと思います。