『New スーパーマリオブラザーズ 2』
3. 「今回はコインちゃうか?」
- 岩田
- さて、今作のテーマである
「“コイン100万枚”はどうやって生まれたのか?」
という話を訊いてみたいのですが。 - 天野
- はい。そもそものはじまりは、
開発初期の頃、コースを面白くするために、
ちょっとずつ構成を決めているときに、
中郷さんと手塚さんが、なぜかずっと
「コインコイン」と言っていたんです。 - 岩田
- あの2人がずっとささやいていたんですか?(笑)
- 天野
- はい。「今回はコインちゃうか?」と(笑)。
- 岩田
- あははは(笑)。
- 天野
- 「コインを取るのが気持ちええなぁ」
ということを、ずっと2人で言ってたんです。
ちょうど『3Dランド』が
終わるくらいの頃だったんですけど、
このゲームでは、マリオが
ハテナブロックをかぶることができましたよね。
- 岩田
- それで動き回ると、
コインがじゃんじゃん出てきましたね。 - 天野
- それを「『Newマリオ2』に移植してほしい」
と言われたんです。なので僕はそのとき、
「うーん、頭からコインが出るのか・・・」と。 - 岩田
- 天野さんはその話を聞いて、
すぐにピンとはこなかったんですね。
- 天野
- そうなんです。最初の段階では
コインはちょっとしか出ませんでしたし。
なので「これでは物足りないな」と思って、
ダッシュすると、コインがバーッと出るようにしたんです。
それを手塚さんに触ってもらったら、
「これ、すごくええやん!」
「これだけでコースをいくらでもつくれるやん!」と
喜んでもらえまして(笑)。
- 一同
- (笑)
- 天野
- そもそも『マリオ』でダッシュするというのは、
腕に自信のあるプレイヤーだけが、
駆け抜ける気持ちよさを味わえることが多いんですけど、
ダッシュでコインがバーッと出るようにすると、
ものすごく気持ちがいいですし、
駆け抜けたくなる人が増えると思ったんです。 - 岩田
- 確かにダッシュするだけで、
コインがたくさん出てくるとうれしいですよね。 - 天野
- ただ、その仕様は
『3Dランド』から持ってきたものなので、
そのまま使うのは自分としては
「ちょっと悔しいな」と・・・。
それで、ノコノコを踏んづけて、
ポイッと投げるとコインをばらまくような
金色のノコノコをつくってみたんです。 - 岩田
- はい。
- 天野
- そんななか、手塚さんと中郷さんが
いつものお昼ごはんに行かれたときに・・・。 - 岩田
- 恒例のお昼ごはん(※11)ですね(笑)。
恒例のお昼ごはん=宮本や手塚らが毎日の昼食時に情報交換しており、週に一度は岩田も参加。くわしくは、社長が訊く『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』特別篇「糸井さんとのクリエイティブの雑談。」を参照。
- 天野
- はい。そのお昼ごはんから戻ってきたら、
すごくうれしそうに言われたんです。
「今回はコイン100万枚ちゃうか!?」と(笑)。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- 最初は「コインコイン」とつぶやいていたのが、
いきなり100万枚に増えたんですか(笑)。 - 天野
- そうなんです。
- 手塚
- (ドアが開いて)
すみません、遅くなりました。 - 岩田
- お、なんともタイミングよく
「今回はコイン100万枚ちゃうか?」
の人が来られました。 - 一同
- (笑)
- 手塚
- え? なんですか?
- 岩田
- ちょうどいま、手塚さんが
「今回はコイン、100万枚ちゃうか?」
と言った話をしていたんです。 - 手塚
- あ・・・そうなんですね。
- 岩田
- 手塚さん、お昼ごはんから戻ってきて、
どうして100万枚にしたんですか? - 手塚
- それは・・・。
- 岩田
- あ、覚えてないんですか?
- 手塚
- あんまり覚えてないです。
- 岩田
- (笑)
- 手塚
- でも、「どうせ集めるんだったら、
とてつもない数がいいな」という・・・。 - 天野
- そうですね。
- 手塚
- 「10万枚とか1万枚というレベルじゃないほうが
いいんじゃないかな」ということです。 - 岩田
- 天野さんは、「100万枚」と聞いて、どう思いましたか?
「そんなバカな」とは思いませんでしたか? - 天野
- 「めざす数字としてはいいな」と思いました。
その時は、僕も
「なんとかなるやろ」と思っていましたし。 - 岩田
- そうなんですね(笑)。
- 天野
- 手塚さんも中郷さんも、
開発の現場にやってきて、
コースにコインをいっぱい置いたりしていましたので、
「100万枚くらいはいくかな?」と。
ある時点で目標をコイン100万枚に定めました。 - 岩田
- でもそうなると、コイン関係のものを
どんどんつくることが要求されるわけですよね。 - 石川
- はい、そうなりました。
- 天野
- さっき、ノコノコの話をしましたけど、
最初は金色になるのはノコノコだけだったんです。
ゴールドリングをくぐると
一定の時間、金色になるんですが、
僕はそれだけで満足していたんです。
ところがデザイナーさんのほうから、
「なんでこの敵も金色にならないんですか?」
と言われまして(笑)。 - 石川
- どうせやるんだったら・・・。
- 岩田
- 「クリボーも金色にしちゃえ!」ということですか?
- 石川
- はい。「ジュゲムも金色にしちゃえ」と(笑)。
- 天野
- キラーも金色にしちゃいました。
- 岩田
- だから今回は、
いろんなものが金色になるんですね。
- 石川
- すると画面が・・・。
- 岩田
- 金色だらけですねぇ。
- 一同
- (笑)
- 石川
- だから、デザイナーとしては、
「成金っぽい絵になってしまうかも・・・」
という心配があって。 - 岩田
- 「金色を押しすぎると、下品にならないか?」
みたいな心配があったわけですね。 - 石川
- はい。ところが、できあがった絵を見たとき、
華やかな印象になって、純粋にうれしかったですし、
自分としても「すごくいいなぁ」と思いました。
- 岩田
- 石川さんのデザイナー人生のなかで、
こんなにコインを描いたり、金色を表現したことは、
いままでなかったんじゃないですか? - 石川
- はい。それはもちろんそうです(笑)。
- 天野
- それからあとひとつ、
「
ゴールドマリオ」というものがあります。
- 岩田
- あの全身が金色になる、新しいマリオですね。
- 天野
- これはプログラマーさんから出てきたアイデアなのですが、
『マリオ』は昔から「Pスイッチ」を踏むことで
ブロックがコインに替わるという仕組みがあるので、
「これを使っていろんなものをコインに変えたら、
かんたんにコインを集めることのできる
変身マリオがつくれるんじゃないですか?」
という話をいただいたんです。
それを実際につくってみると気持ちがよかったので、
そこから、「変身マリオを新規でつくっていこう」
という話になりました。 - 岩田
- はい。
- 天野
- 今回は、けっこうプログラマーさんから、
ゲームを左右する大きなアイデアが出たのが
新鮮でした。 - 岩田
- それは「コインを集めること」をテーマにしたことで
みんながその方向で考えたから、
いろんなアイデアが出てきた、ということなんでしょうね。 - 天野
- はい、そのとおりだと思います。