『New スーパーマリオブラザーズ 2』
6. “ライブ感”
- 岩田
- 今回は通信機能を使って、
いくつかの新しい取り組みをしていますよね。 - 天野
- はい。すれちがい通信(※13)を使って、
「コインラッシュ」モードのデータを
やりとりできるようにしました。
そもそも「コインラッシュ」モードって、
短い時間に繰り返し遊ぶことができて、
コースの内容を知れば知るほど、
どんどんコインを稼げるようになるという、
まさに『マリオ』の遊びの要素を
凝縮したようなところがあるんです。
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。
- 岩田
- そこで、『マリオカート』でタイムを競うように、
集めたコインの枚数を競えるようにしたんですね。 - 天野
- はい。ですから、
すれちがった人のコースの記録に挑戦し、
もしその人の記録を上回ることができれば、
自分で得たコインのほかに、ボーナスの
「
Winコイン」がもらえるようになっています。
- 岩田
- もし負けたらどうなるんですか?
- 天野
- 負けても3コースをクリアさえすれば、
相手の記録のコイン枚数が一度だけ
自分のコイン枚数に加算されます。
つまり、すれちがいのデータを遊ぶだけで
自分のコイン集めにプラスになるようにつくってあります。
あまりマリオが得意ではない人でも、上手な人とすれちがえれば、
大量にコインを獲得することが可能です。 - 岩田
- だから、すれちがい通信も、
コイン100万枚を集めるための
仕組みになっているんですね。 - 天野
- そうなんです。
あと、いつの間に通信(※14)で、
コインをみんなが何枚集めているのか、
ということがわかるようになっています。
いつの間に通信=ニンテンドー3DSが、インターネット無線アクセスポイントを探して自動的に通信を行い、さまざまな情報を受信する機能。
- 手塚
- なので、地域や国ごとに、
競い合うようなこともできれば面白いと思います。 - 岩田
- 「アメリカはこんなに集めてる! 日本も負けるな!」
みたいなこともできるわけですか? - 天野
- はい。実際にどういうかたちで
見られるようにするかは、
これから決めていくんですが、
また手塚さんと相談して、
「ぜひとも実現してみたい」と思っています。 - 岩田
- これからの部分で言うと、
「今回は通信機能を使って追加コースを配信しよう」
という話もありますよね。
- 天野
- そうですね。
- 岩田
- じつは、宮本さんとは、ずいぶん以前から、
「パッケージソフトに有料で追加コンテンツを
配信することについて、任天堂は、どのように考えるべきか」
という話を、繰り返し議論していたんです。
「クリエイティブの対価としてお金をいただく構造に
なっているのであれば、ご提案してもいいのでは?」
というのが、わたしたちの結論で、
宮本さん自身、昨年の時点で、社内の会議で、
マリオゲームの追加コースのダウンロード配信を
その一例として挙げたこともあったんです。
わたしも公の場で、基本的な考えかたをお話ししたこともあります。
ただ、天野さんから見ると、その流れとは別に、
追加コースを実現したい動機があったんですよね?
- 天野
- じつは『マリオ』で追加コースというのは、
今回がはじめてのことではないんです。
僕自身がスタッフとして関わった、
『マリオアドバンス4』(※15)のときに、
コースを追加できる仕組みを入れたことがあるんです。 - 岩田
- 『マリオアドバンス4』のときは、
カードeリーダー(※16)を使って、
追加のコースが遊べたりしましたよね。
『マリオアドバンス4』=『スーパーマリオアドバンス4』。2003年7月に、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
カードeリーダー=ゲームボーイアドバンスの周辺機器。カードeに印刷された二次元バーコードを読みこむことによって、ミニゲームが楽しめたり、新しいデータを追加することができた。
- 天野
- はい。なぜそのような仕組みをつくったかというと、
そもそも『スーパーマリオ』というゲームは、
よりたくさんのお客さんに遊んでいただくために、
コースがどうしても万人向けになってしまうんです。 - 岩田
- そうなると、とくに腕に自信のある人たちからは
「今度の『マリオ』はぬるいんじゃないか」
と言われてしまうこともあるわけですね。 - 天野
- そうなんです。
そこで『マリオアドバンス4』のときは、
とても尖った、難度の高いコースをつくって、
あとから追加できるようにしたんです。
で、自分でも遊んでみたんですけど、
ものすごく面白いんです。
なので、あのときは、
「もっとたくさんの人たちに楽しんでもらえたら」
と思ったんですけど・・・。 - 岩田
- あのときは別売のカードeリーダーを
お求めいただく必要がありましたからね。 - 天野
- だから、楽しんでくださったお客さんが
期待したよりも少なかったんですけど、
自分としては手ごたえがすごくよかったんです。
それはもう、9年くらい前の話なんですけど、
その後もずっと、「いつかまたやってみたい」
と思っていたんです。
- 岩田
- つまり、天野さんにとって、
追加コースは9年越しのテーマでもあるんですね。 - 天野
- そうです。ですから、今回、
3DSで『マリオ』をつくることになって、
「ぜひとも追加コースをやってみたい」と、
手塚さんに話したのがはじまりです。 - 岩田
- わたしも、「もし有料の追加コンテンツに取り組むなら、
『マリオ』のようなだれでも楽しめるソフトでやらないと
多くの方に経験していただけないのではないか?」と感じていたので、
以前から、「『マリオ』で追加コースの配信を考えてくれませんか?」と、
手塚さんにお願いしていたんですよね。 - 手塚
- そうですね。
2Dマリオのゲームは、新しいコースがあれば、
遊びの内容が大きく変えられますし、
今回は、幸い、「マリオ塾」のおかげで
コースづくりのスタッフがいつもの倍くらいいたので、
その意味でも、『マリオ』と追加コースの配信は、
相性がよいと思いました。
なので、スタッフに対しても、
「『マリオ』だから意味があることなので、
なんとか考えてみよう」
ということを、早いうちから話していました。 - 岩田
- だから、天野さんの
「いつかやりたい!」という気持ちと、
「やるなら『マリオ』からはじめてほしい」というわたしの考え、
そして、「マリオ塾」の存在で、体制的にそれが可能であったことが、
見事に噛み合ったんですよね。 - 天野
- そこで、あれこれ考えはじめたんですけど、
コースを追加するといっても、
いろんな方法があるんですね。
で、今回は「コインラッシュ」モードを
しっかりつくることができましたので、
そこで挑戦することにしました。 - 岩田
- なぜ、「コインラッシュ」モードが
追加コースにふさわしいんですか? - 石川
- やっぱり本編のコースだと、
ストーリーがありますので・・・。 - 岩田
- 毎度おなじみの、ですね(笑)。
- 石川
- はい。ピーチがさらわれて、
最後にクッパを倒してクリアすると。
そのようなところに追加でコースを詰め込むと、
世界観が壊れるというか・・・。 - 岩田
- おさまりがよくないんですね。
- 石川
- はい。でも、短時間で何度も遊べる
「コインラッシュ」モードだと、
すごくおさまりがいいと思いました。 - 天野
- そこでいま、
いろいろと考えているのですが、
まだ、ぜんぜんつくっていないので・・・。 - 岩田
- そう、まだつくっていないんですよね。
- 天野
- はい。これからつくります。
というのも、遊んでくださった
お客さんの感想を聞いてからつくってみたいんです。 - 手塚
- そうですね。本編のコースのなかで、
「どういうものを好まれるのか」とか、
そういう意見も聞きながら、
「追加コースをつくろう」と思っています。 - 岩田
- そこが今回、すごく重要なポイントで、
とくに宮本さんが、「追加コンテンツというのは
“ライブ感”が大事なんじゃないか」と
強く主張しているんです。
それが、「なんで最初から全部を入れないの?」
という違和感を生まないための方法だと
感じているんだと思います。 - 天野
- そうですよね。
- 岩田
- だから、今回のようにお客さんの反応を見て、
“ライブ感”あるかたちでリリースすることが、
「追加コンテンツというものが
いちばんうまく活かせる方法なんじゃないか」
ということですよね。
- 天野
- そうですね。
追加コースが実現すれば、
それを遊んだ人がすれちがい通信を使って、
知らない人と情報を共有できたりしますので、
そこで新たな拡がりも出てくると思っています。 - 岩田
- 9年前のときのようにはならない、
ということですか? - 天野
- はい、ならないと思います。
それに、声を大にして言いたいのは
いままで「難易度が低い」と言われていた方にも、
「手ごたえのあるコースで遊べますよ」
ということなんです。 - 岩田
- たぶん、全部を激ムズばっかりには
しないでしょうけど。 - 天野
- まあ、そうですね。
お客さんの声を聞きながら、
コースをいろいろ考えるだけでなく、
「みんなで参加できるようなイベントを
提案できればいいな」
と思っています。