『カルドセプト』
1. 生まれたきっかけ
- 岩田
- ようやく、完成が見えてきましたね。
- 鈴木
- はい・・・!
- 武重
- (小声で)あとちょっと、です(笑)。
- 岩田
- 本日は『カルドセプト』の
企画・開発を担当されている大宮ソフトさんと、
プロデュースを担当されたジャムズワークスさんに
お越しいただきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。 - 一同
- よろしくお願いします。
- 岩田
- 今回のニンテンドー3DS版は、
匠(たくみ)の集団、大宮ソフトさんが
歴史ある『カルドセプト』シリーズの中でも
満を持して出す『カルドセプト』ということで、
本日はその手ごたえを、お訊きしたいと思います。
それでは、自己紹介をお願いします。 - 鈴木
- 大宮ソフトの鈴木と申します。
かれこれ20年以上、ゲーム業界におりまして、
いちばん最初のキャリアとしては、
現在のインテリジェントシステムズ(※1)さんの
前身の会社に、アルバイトで入ったのがはじまりでした。
インテリジェントシステムズ=株式会社インテリジェントシステムズ。『ファイアーエムブレム』シリーズなどの任天堂ソフトや、歴代ハードの開発支援ツールの開発をしている会社。1986年設立。
- 岩田
- あぁ、その頃でしたら、
きっとわたしとニアミスしていますね。 - 鈴木
- そうですね、ときどきお見かけしていました。
そのときも少しお話を伺った記憶はあるんですが、
またこのようにお会いできるのは、感無量です。 - 岩田
- 25年以上経っているでしょうか(笑)。
のちほどくわしく、『カルドセプト』が
生まれたきっかけなどをお訊きしたいと思います。
では武重さん、お願いします。 - 武重
- ジャムズワークスの武重です。
僕はシリーズ2作目から12~3年、
『カルドセプト』のプロデュースをさせていただいています。
今回ははじめての任天堂さん発売ということで、
とても楽しみにしていました。
- 岩田
- はい。くわしくはこのあと、お訊きしますね。
では、齋藤さん。 - 齋藤
- 任天堂 企画開発部の齋藤です。
今回は、任天堂側の窓口としてかかわっています。
社内にも『カルドセプト』ファンは多くて、
その期待を一身に背負って、がんばりました。
- 岩田
- それでは鈴木さん、まず最初に、
大宮ソフトがどのようにできたかというところから
お訊きしてもよいですか? - 鈴木
- はい。大宮ソフトはもともと、
メサイヤ(※2)というゲームブランドの
同僚が集まってつくった開発会社なんです。
当時、埼玉県に住んでいる者が多くて、それで・・・。
メサイヤ=1980年設立のソフトウェア会社、日本コンピュータシステム株式会社のゲームブランド。1994年のリリースを最後に現在ゲームの販売は行っていない。
- 岩田
- 大宮市(現さいたま市大宮区)が、社名の由来なんですね。
会社ができたのはいつ頃なんですか? - 鈴木
- たしか93年頃です。
会社をつくった直後は、仕事のあてもなく、
わりと行き当たりばったりで・・・。 - 岩田
- ソフト会社のはじめの頃って、
振り返ってみると行き当たりばったりだった、
という会社はめずらしくないんじゃないでしょうか。
わたしがアルバイトからそのまま転がり込んだときの
ハル研究所(※3)創立直後も
いま振り返るとそうだったと思います(笑)。
ハル研究所=株式会社ハル研究所。『星のカービィ』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズなどを手がけてきたソフトメーカー。岩田は、ハル研究所に在籍経験がある。
- 鈴木
- (笑)。まぁ、そこから19年、
なんとか、みなさんにお仕事をいただいて、
ギリギリやってきています。 - 岩田
- 大宮ソフトさんといえば、
『カルドセプト』シリーズを長くつくってきた
イメージが多くの方にあると思うのですが、
『カルドセプト』が生まれたきっかけは
何だったんですか? - 鈴木
- さかのぼると、当時スーパーファミコンで
スクウェア(現スクウェア・エニックス)さんの
タイトルを開発したあと、
「さて次はどうしよう?」
というところからです。第一に
「今度はもう少し簡単につくれるものにしたいなぁ」
という思いがありまして・・・。 - 岩田
- え? 「簡単につくれるもの」ですか?(笑)
そこから『カルドセプト』がはじまったんですか? - 鈴木
- そうですね、当時は。
- 岩田
- いや、でも、
ぜんぜん簡単につくれてないじゃないですか(笑)。 - 鈴木
- まぁ、結果的にはそうなります(笑)。
あの頃、ステージ数とか、スクロールの量とか、
ゲームのボリューム的なものが、
どんどん増えてきていた時期でした。
それがちょっとしんどくて、
「ボードゲームなら物量より中身で勝負できるんじゃないか?」
と思ったんです。 - 岩田
- 逆に言うと、しっかりと練りこむために、
「現実的にボリュームが見える範囲でつくったほうがいい」
と思われたわけですね。 - 鈴木
- そうです。それで最初は
わりとコンパクトにできたと思います。
ただ、つくっている途中から、
「カードを1枚1枚きっちり練りこんで、
矛盾が起こらないようにしなきゃいけないのは
とても大変なんだ」
と気づいたんです(笑)。 - 岩田
- そうそう簡単にはいかないですよね。
でも大宮ソフトさんは、
そうやってゲームをしっかりとつくり込む
職人さんたちの集まりのような印象があります。
ゲームづくりの中で、チームのみなさんが
大切にされていることって何ですか? - 鈴木
- 自分たちの中では、これ、という
特別な意識はないんです。
ただ、商品としてこだわるポイントや、
クオリティラインのみんなの考え方が
けっこう近いのかもしれません。 - 岩田
- “大事に思っているところが、みんな近い”
ということですか? - 鈴木
- はい。ただ、それは善かれ悪しかれあって、
過去のソフトにおいて
全方位的にクオリティが高いわけではなく、
部分的に低いところもありました。
そういう意味で『カルドセプト』は、
ボードゲームとして僕らがいちばん気にして
磨きあげた部分を、遊んだ方が気に入ってくださって、
高く評価していただけた、と感じています。 - 岩田
- 自分たちが大事にしたところと、
お客さんが大事にしてほしかったところが
響きあったわけですね。
- 鈴木
- きっと、そうなんだと思います。
- 岩田
- ちなみに、大宮ソフトさんは
設立当初から現在まで、
社員は何人くらいおられるんですか? - 鈴木
- えーと・・・
スタート時に3人で・・・いまは5人ですね。 - 岩田
- いまの時代、その規模でこれだけのものをつくるというのは、
非常に稀(まれ)な存在になっていますよね。
でも少人数だからできる、磨きの品位というのも
確実にあると思うんです。
しかも“全員知らないことがない”っていう感覚も、
またちがう味を生んでいるんじゃないですか? - 鈴木
- 単純に、連絡効率はすごくいいです。
ただ、さすがにいまは5人ですべては無理なので、
パートごとに多くの協力会社さんに
手伝ってもらっています。 - 岩田
- その5人のコアメンバーが、
ずっと一緒に仕事をして、価値観を同じくして
ものをつくり込めるという環境は、
大宮ソフトさんならではのおもしろい、
ユニークな強みですよね。 - 鈴木
- 我々にとっては
大人数のチームを管理するよりも、
少人数でつくるほうが楽なんです(笑)。
そんな理由で4~5人体制を続けていますが、
それがいいことなのか、悪いことなのかは・・・。 - 岩田
- でも、そういうチームだからこそ、
『カルドセプト』は『カルドセプト』なんだと
強く思うところはありますよ。 - 鈴木
- はい。自分たちの空気というか、においというか、
そういったものはいまのチームだからこそ、
かもしだされている部分はあるかもしれません。