『カルドセプト』
2. 「わかっていなかった」
- 岩田
- 『カルドセプト』シリーズは、
今回のニンテンドー3DS版で
何作目になるんですか? - 鈴木
- 移植作も数えて、7作目です。
- 岩田
- これまでの『カルドセプト』シリーズの
開発の歴史の変遷を、
簡単にお話いただけますか? - 鈴木
- はい。まず最初の『カルドセプト』(※4)は、
先ほども言いましたとおり、
とにかく、形にすることが第一でした。
当初の思惑より苦労はしましたが、
現場でヒィヒィ言いながら、
なんとかつくることができました。
最初の『カルドセプト』=1997年10月にセガよりセガサターン用ソフトとして発売。
- 岩田
- 簡単そうとは言っても、
フォーマットがないわけですから、
多大なエネルギーを費やしたんでしょうね。 - 鈴木
- そうですね。
それから、その第1作をベースに、
『エキスパンション』(※5)という発展型として、
プレイステーションへの移植を行いました。
これは、ボードとカードを組み合わせた、
ゲームのおもしろさの構造をより深くつかむ、
いい機会になりました。
『エキスパンション』=『カルドセプト エキスパンション』。1999年5月にメディアファクトリーよりプレイステーション用ソフトとして発売。マップの追加や対戦に主眼を置いたバージョンアップが施された。
- 岩田
- そこである程度のノウハウや、
フォーマットが構築されたわけですね。 - 鈴木
- そうですね。デザイナーの頭の中では
最初から完成型のイメージはあったんですが、
プログラムやビジュアルが
フォーマットとしてしっかり確立するには、
この『エキスパンション』という段階を
踏んだことが大きかったです。 - 岩田
- でも、その移植している間にも、
「もっとこんなことがしたい」
「あんなことができるぞ」っていう
新しいアイデアが生まれてきますよね? - 鈴木
- はい。そこでそういったアイデアを
新たなチャレンジとして盛り込んだのが
ドリームキャスト向けに出した
『セカンド』(※6)になります。
それで当時はこの『セカンド』が、
『カルドセプト』が目指すところの完成型、
という認識がありました。
その後、その発展型となる
『セカンド エキスパンション』(※7)を経て、
その約4年後にXbox360向けに『サーガ』(※8)が出ます。
『サーガ』は大宮ソフトの開発ではなく、
ゲームデザイン、ルールデザインという形で
参加しました。
『セカンド』=『カルドセプト セカンド』。2001年7月にメディアファクトリーより発売されたドリームキャスト用ソフト。
『セカンド エキスパンション』=『カルドセプト セカンド エキスパンション』。2002年9月にセガよりプレイステーション2用ソフトとして発売された、『カルドセプト セカンド』のバージョンアップ版。
『サーガ』=『カルドセプト サーガ』。2006年11月に、バンダイナムコゲームスより発売されたXbox360用ソフト。
- 岩田
- かかわりが少し、変わったんですね。
- 鈴木
- 『サーガ』は、ビジュアルやシナリオなど、
大宮ソフトが後回しにしていた部分の品質を
強化するのがひとつの狙いで、
その一定の成果は、出せたと思います。
そして『サーガ』の2年後にようやく・・・。 - 岩田
- ニンテンドーDSの
『カルドセプトDS』(※9)が登場、ですね。
『カルドセプトDS』=2008年10月に、ニンテンドーDS用ソフトとしてセガより発売。『カルドセプト エキスパンション』にバージョンアップが施され、ワイヤレス対戦、Wi-Fi対戦に対応している。
- 鈴木
- はい。ただ「DSで出そう」と決めたものの、
どのような形で出すかは、ちょっと迷いました。
理由は、『カルドセプト』自体がシリーズ5作を経て、
一応の完成形ができたと考えていたことと、
シリーズが進めば進むほど、
複雑になっていく傾向があったからなんです。 - 岩田
- 新たな追加をするほど、
どんどん狭くなっていきがちなんですよね。 - 鈴木
- そうです。でも新規要素の追加って、
実際はお客さんが求めているというよりも、
つくり手とか売り手の恐怖心のような気がするんです。 - 岩田
- そこは、シリーズを手がけるクリエーター共通の悩みですね。
- 鈴木
- DSの場合、お客さんの年齢も幅広いですし、
『カルドセプト』シリーズを知らない方も多いわけで、
そうするとやっぱり、シンプルでいくべきだろうと。
ある意味、ビジネス的な見地から、
最初の『カルドセプト』をバージョンアップした
『カルドセプト エキスパンション』を
リメイクすることに決めました。 - 岩田
- 原点に立ち戻ったわけですね。
- 鈴木
- はい。
「継ぎ足すのではなく、
原点の本質的な魅力を研ぎ澄まそう」と。
それで、いざつくりはじめるとおもしろいもので、
とても新鮮に感じたんです。
ヘタをすると、
「我々は『カルドセプト』のことを
わかっていなかった」と言ってもいいくらい・・・。 - 岩田
- えっ? 鈴木さん自ら
そんなことを言いますか?(笑)
- 鈴木
- はい(笑)。でもそれくらい、
新鮮な驚きがありました。 - 岩田
- まぁ、たしかに、再整理することで
あらためて見えてくるものはありますよね。
以前、宮本(茂)さん(※10)も、
「ゲームは2回つくると面白くなる」って
言ってましたから。
宮本 茂=任天堂専務取締役 情報開発本部長。『スーパーマリオ』『ゼルダの伝説』シリーズの生みの親。
- 鈴木
- 本当に、そう思います。
それに、とても意外だったのは、
携帯ゲーム機と『カルドセプト』が・・・。 - 岩田
- 合っていた、でしょう?
- 鈴木
- あ、はい、すごく(笑)。
最初はそれほど想定してなかったんですが、
まずプレイヤーごとに専用の画面が持てましたし、
2画面の使い勝手が、いい具合なんです。
無線インターネット通信の環境も整っているし、
これはかなり『カルドセプト』向きであると思いました。 - 岩田
- ニンテンドーDSは
ゲーム人口を拡大するということと、
従来のゲームファンのみなさんにも新たな提案をするという、
異なるふたつの構造があったんですけど、
それは実際、どんな手ごたえでしたか? - 鈴木
- ネットなどでの反響を見るかぎり、
昔からのコアなファンの方々には、
がっつり満足していただけた手ごたえはあります。
ただ、DSから入った新規のお客さんの声というのは
形としては見えにくくて・・・。 - 岩田
- たしかに見えにくいですよね。
- 鈴木
- たとえばメディアの方々とお話ししても、
コアなファンの方たちのネットの掲示板などを見て、
「対戦が熱いですねぇ」って話はよくあります。
でも、
「ひとりでじっくり遊ばれるタイプの方にも
しっかり届けられているんだろうか?」
っていう思いが、強く出てきたんです。 - 岩田
- DSという、
『カルドセプト』と相性のよいハードですから、
それまで遊んだことのなかった方たちも
必ず入ってきているはずなんですよね。 - 鈴木
- そうなんです。
どうしてもコアのファンの方が語る、
戦略とか駆け引きという部分だけが
クローズアップされて、もちろん
それは魅力のひとつではあるんですが、
『カルドセプト』の根本はボードゲームなので、
むずかしい思考や知識がなくても、
もっと気軽に楽しめるものなんです。
- 岩田
- まぁ、『人生ゲーム』(※11)や
『モノポリー』(※12)といった、
誰でも体験したことのある
バラエティーゲームの仲間なんですよね。
『人生ゲーム』=1968年、タカラ(現タカラトミー)から発売された人生のイベントをシミュレートしたボードゲームシリーズ。
『モノポリー』=20世紀初頭にアメリカで生まれ、いまなお世界中で愛好者を持つボードゲーム。プレイヤーは双六のように盤上を周回しながら、ほかのプレイヤーと不動産を取引することによって、自分の資産を増やし、最終的にほかのプレイヤーをすべて破産させることを目指す。
- 鈴木
- そうです。
それが『カルドセプト』のおもしろさの
大きな柱なんです。
ですから、そういった部分をつくり手側から
つねにアピールし続けていかないと、
「ますます誤解されてしまう可能性があるなぁ」と。
DS版をつくって、発売した経験の中で、
思いを新たにしました。