『カルドセプト』
4. 「2回つくるとおもしろい」
- 岩田
- じつは今回の3DS版『カルドセプト』は、
ニンテンドーDSの2作目として、
最初はつくられていたんですよね。
かなり開発が進んでいて、
まぁいわば、船が出る直前で呼び戻されて、
全面改修になったと言ってもいい状態でした。
ちょっと、そのお話をしましょうか。 - 武重
- はい。前作の『カルドセプトDS』が、
非常に評価が高かったこともあり、
さきほど鈴木さんも言っていた、
新規ファンの開拓というテーマに
再チャレンジするため、
『カルドセプトDS 2』の開発を行っていました。
『セカンド エキスパンション』をベースに、
ダウンロードプレイ(※13)を取り入れようというのが
大きなポイントでした。
ダウンロードプレイ=1枚のゲームカードがあれば、ほかのプレイヤーの本体にソフトをダウンロードして、通信プレイを楽しむことができる機能。
- 岩田
- それは、
「ソフトをお持ちではないみなさんに対して、
このソフトの魅力をご存じのみなさんから
魅力を伝えていただく手段を用意したい」
という考えだったんですよね。 - 武重
- はい(笑)。
「新しくお客さんに遊んでもらうために有効だろう」
と、考えたんです。
ただ、それがかなり難航しまして・・・。 - 岩田
- DSのメモリサイズの中で、
『カルドセプト』のプログラムを
ほかの人に配って遊ぶっていうハードルが
すごく高かったんですよね。 - 武重
- そうです。それでも何とか
実装できるレベルを模索している中で、
任天堂さんとお話したとき、
「新しいハードでつくりませんか?」と、
当時まだ発表されてなかった
3DSでの提案をいただきました。 - 岩田
- ちなみに鈴木さん、
『カルドセプトDS 2』ができかけていたのに、
突然「ちがうハードにしましょう」と言われたとき、
まちがいなく絶句したと思うんですけど、
はじめてその話を聞いたとき、
どう思いましたか? - 鈴木
- そうですね・・・。
天をあおぐような・・・そんな気持ちでした(笑)。
いちばん最初の印象としては、
「また同じプラットフォームで2回つくれない呪いかぁ~」
と思いました。 - 岩田
- “呪い”とまで言いますか・・・!(笑)
- 鈴木
- ええ。じつは『カルドセプト』は
これまで同じハードで出たことがなかったんです。
それに、そのときの開発は
すでに1年近く進行していましたし、
ある程度の手ごたえがありましたから、
最初はやっぱり、抵抗はありました。 - 岩田
- そうですよね。
わたしは3DSを勧めた側ではあるので・・・。
そんな状態の中、最初に
ニンテンドー3DSを見た印象はどうでしたか? - 鈴木
- DSの正統な進化型でありつつも、
立体視という“積み増し”がされていたので、
開発者としてほっとした記憶があります。
単に性能が上がっただけではなく、
そこからちょっと角度を変えた上昇感がありましたし、
プラットフォームとしての魅力をすごく感じました。
ただ、それまでつくってきたものを捨てて、
またそこにつくり直すというのは・・・。 - 岩田
- 複雑でしたよね。
そういう複雑な感じのオーラが、
たしかに鈴木さんから出ていました(笑)。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- 「新しいハードにしましょう」っていうのは、
ある意味、売る側の都合なわけですからね。
もし、あそこですぐ「はい、わかりました」
って言われてしまったら、正直、
「未練なさすぎるかな」と思います。
つくっているものにこだわりがあったら、
それは当然ですから。 - 鈴木
- まぁ結果的に・・・っていうと変なんですけど、
最初、「立体視は僕らにはあんまり関係ないんじゃないか」
って思っていたんです。でもやってみたら、
意外にいい感じだったんです。 - 岩田
- はじめて立体視になった映像を見たとき、
うれしくなりませんでしたか? - 鈴木
- ええ、うれしかったですね。
それと、『カルドセプト』の場合、
盤面上のいろんな情報を取り扱うので、
一見、画面がごちゃごちゃに見えるんですが、
立体視をつかうとそこに盤面があるがごとくに見えて、
表示される情報の整理ができて見やすいんです。 - 岩田
- あぁ、なるほど。
- 鈴木
- もともとぎゅっと押し込められていた、
平面の上の情報に奥行きが出たことで、
全体が把握しやすくなったんです。
それは良い意味での“おっ?”っていう感覚だったんですけど、
もうひとつ、“あれ?”っていう感覚もありました。 - 岩田
- それはどういうことですか?
- 鈴木
- それはいままで、いかに、
2Dの画づくりの中でウソをついていたか、
っていうことでした。 - 岩田
- あぁ、わかります、それは。
いろんな方がおっしゃっていますから。 - 鈴木
- たとえば、スコア表示が一番手前で、
奥にゲーム画面が広がっているのが
ウソだったわけです。
わたしのゲームづくりの経験の中では、
「ウソをつくと絶対あとで苦労するから、
極力ウソはつかない」
という意識があったんですが、
これまでの画面を立体視に置き換えてみたら、
「あー、ここでウソをついてた!」って、
気づかされたんです。 - 岩田
- 無自覚に、やってしまっていたわけですね。
- 鈴木
- はい。とにかく立体視というのは、
想像よりも手数のかかる作業でした。
ただ、さきほど申し上げたように、
立体視が『カルドセプト』に与える恩恵は
想像以上に大きな収穫でした。 - 岩田
- 3DSでの開発、という意味ではどうでしたか?
- 鈴木
- DSとくらべると、
メモリーの苦労とかも段違いになくなって、
のびのびつくれたと思います。
3D表現も60フレーム(※14)で表示できて、
当初やりたかったことは、ほぼすべて入りました。 - 岩田
- 60フレームで表現できると、
かなりリッチな印象になりますからね。
60フレーム=1秒あたり、60コマの画像を使って動画を動かすこと。1秒あたりのコマ数がふえるほど、映像の動きがなめらかになる。
- 鈴木
- はい。あと、さきほど
「2回つくるといいゲームになる」
っていう話がありましたよね。
今回は実際に2回以上、
ゲームのコアとなるルールとバランスの部分を
つくっているんです。
最初『カルドセプトDS 2』として調整を行い、
そこからさらに3DSへの移行の中で、
ものすごく多くのスタッフにチェックしてもらえましたから。 - 岩田
- 本当に言葉どおりに2回、
つくっているんですね(笑)。
- 鈴木
- だから、そこで磨かれたまろやかなチューニングは、
3DSのプロジェクトがこんな風にスタートしなければ、
達成できなかったレベルになっていると思います。 - 岩田
- そういう意味でやっぱり、わたしは今回、
「いままでの『カルドセプト』の歴史の中で、
いちばんしっかりと磨きこめたんじゃないか」
と期待しているんです。 - 鈴木
- プログラマーはその間、
ヒィヒィ言ってましたけど(笑)。
ゲームデザイナーのほうはわりとおおらかに、
いろんな方に意見をうかがって、
細かいところまで手当てができて、
そこは本当に、過去にない経験になったと思います。