『スーパーポケモンスクランブル』
はじめに
任天堂の岩田です。
社長が訊く『スーパーポケモンスクランブル』を
お読みいただく前に、
本ソフトの発売日が急きょ延期となり、
お客様や関係者の皆様に
大変なご迷惑おかけしましたことを
謹んでお詫び申しあげます。
このインタビューは、
発売延期を決定する前に行ったものです。
あらかじめご了承のうえ、お読みください。
1. 「うちの家内も」
- 岩田
- 『ポケモン立体図鑑BW』に続きまして、
『スーパーポケモンスクランブル』について
お訊きしたいと思います。
みなさん、よろしくお願いします。 - 小澤・松村
- よろしくお願いします。
- 岩田
- まずは、石原さんから。
今回、『スーパーポケモンスクランブル』で何をされたのか、
お話してもらえますか? - 石原
- はい。Wiiウェア(※1)で発売した
前作の『乱戦!ポケモンスクランブル』(※2)は
おかげさまで、とても長く楽しんでいただけましたし、
僕としても、大きな手ごたえを感じていましたので、
「なんとかこのタイトルを3DSで出したい」という思いが強くなったんです。
それを実現できるのはアンブレラ(※3)さんだけですから、
「ぜひ3DSにしてほしい!」と言ったのが、僕の仕事でした(笑)。
Wiiウェア=店頭で販売されていないWii専用の新作ソフトを、インターネットを通じてWiiで配信するサービス。2008年3月からサービス開始。
『乱戦!ポケモンスクランブル』=2009年6月に配信された、WiiショッピングチャンネルからWiiウェアとしてダウンロード購入できるアクションゲーム。
有限会社アンブレラ=1996年に、東京で設立されたゲームソフト開発会社。『乱戦!ポケモンスクランブル』のほか、『ピカチュウげんきでちゅう』(N64)、『ポケモンチャンネル~ピカチュウといっしょ!~』(GC)、『ポケモンダッシュ』(DS)などを制作。
- 岩田
- はい(笑)。
それを受けて、アンブレラさんのお2人です。
どちらからお話しされますか? - 松村
- では、僕、松村から。
- 岩田
- はい。お願いします。
- 松村
- 僕は今回、ディレクターという立場でかかわらせていただきました。
前作の『乱戦!ポケモンスクランブル』のときは、
社内のコンセンサスが十分とれていないような状態から
つくりはじめましたので、とても大変だったんですが、
今回の3DS版は、前作がすでにありましたので、
迷うことなく集中して開発できました(笑)。
- 岩田
- 『乱戦!ポケモンスクランブル』という土台があって、
「どういうことが遊びになるのか」ということが
はっきり見えていた状態からのスタートだったので、
そのぶん、今回はやりやすかったんですね。 - 松村
- はい。
- 小澤
- アンブレラの小澤です。
今回は、Wiiウェアソフトだった
『乱戦!ポケモンスクランブル』が
3DSのパッケージソフトになるということで、
「迫力あるものをつくらなきゃいけない」というのが、
アンブレラとしての目標でした。
当然のように規模も大きくなっていきましたので、
石原さんや任天堂さんとのやりとりが増えて、
わたしはアンブレラのスタッフの意見を聞きながら、
調整役のようなことをしていました。
- 岩田
- 松村さん、これを読んでいる人のなかには、
このゲームのことを知らない人もいらっしゃるでしょうから、
「『ポケモンスクランブル』はこんなゲームです」ということを、
少し説明していただけますか? - 松村
- はい。ポケモンはバトルをする生き物ですよね。
『ポケットモンスター』本編のRPGはコマンドを使って戦うスタイルですが、
『ポケモンスクランブル』はリアルタイムで戦うゲームなんです。
ポケモンがおもちゃになって登場して・・・
まあ、ひとことで言うと、
“リアルタイムでどつきあい”をすると。 - 岩田
- “どつきあい”ですか(笑)。
- 松村
- はい。でも、アクションゲームと銘打っているんですが、
難しいアクションを要求するゲームではないんです。 - 岩田
- いわゆる超絶な指ワザを使うゲームではないんですよね。
- 松村
- そうです。
「十字ボタンやスライドパッドで移動。
AボタンとBボタンで技がでる。以上。」
みたいな感じです。 - 岩田
- はい(笑)。
- 松村
- ホントにそれくらいシンプルに遊べるんです。
ですから、操作系に関して言うと、
「ファミコン時代からあるオーソドックスなスタイル」
になっていますので、
「安心して遊べるアクションゲーム」と言えると思います。 - 岩田
- 「ファミコン時代からあるスタイル」とは言っても、
ハードのパワーは活かされているんですよね。 - 松村
- はい。Wiiウェアの『乱戦!ポケモンスクランブル』では
200匹以上のポケモンが登場しますし、
たくさんのポケモンが入り乱れて戦います。
そういった点はとくにWiiならではの表現になっています。
プレイヤーが使えるポケモンは最初は1匹なんですけど、
出会ったポケモンと“どつきあい”をして、
その相手を倒すと仲間になるんです。 - 岩田
- で、新しく仲間になったポケモンが
どんどん使えるようになるわけですね。 - 松村
- そうです。
新しいポケモンに取り替えて、試しに使ってみると、
「お? こんな技が使えるんだ」という
楽しみが拡がるようになっています。 - 岩田
- それにしても、200匹以上というのは
相当な数ですよね。 - 松村
- だから調整が大変でした。
『ポケットモンスター』本編のRPGを遊んでいる人にとっても、
このゲームで出会ったポケモンを見て、
「こんな技も使える!」みたいに新しい発見があったりします。
だから、ある種「『ポケモン』の入門編のようなソフトになるといいな」
とも思っています。
- 岩田
- なるほど。
- 石原
- さっき松村さんは
「安心して遊べるアクションゲーム」と言いましたけど、
もともとは、ポケモンを題材にしたアクションゲームは
つくろうにもつくれないと思っていたんです。 - 岩田
- 直接操作するアクションゲームにポケモンは向いてない、
ということですよね。 - 石原
- そうです。
でも、Wiiウェアで『乱戦!ポケモンスクランブル』をつくるときに、
「ネジで動くおもちゃのポケモン」という新しい設定が生まれて、
それで実現できたわけなんですけど、
その結果、万人が触って遊べるものができたと感じました。 - 岩田
- 操作がシンプルなアクションゲームなので、
万人が遊べると感じられたんですね。 - 石原
- はい。平面のフィールド上でポケモンを動かして、
敵を叩いて前に進むというレベルですから。
自分としても、じつはこのレベルの
アクションゲームがいちばん好きなんです。
で・・・身内の話をするのも恐縮なんですが、
うちの家内は「アクションゲームは嫌い!」
と言うくらいアクションゲームが苦手で、
『マリオ』とか『ゼルダ』とかは絶対にやらないんです。
岩田さんには申し訳ないんですけど(笑)。 - 岩田
- え・・・・・・。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- すごいことを言われちゃいました(笑)。
- 石原
- まず最初に「わたしにはできない」と言うんですよ。
- 岩田
- 確かに世の中には、アクションゲームと聞いただけで、
腰がひけちゃう人はたくさんいますからね。
そういうお客さんも含めて、
わたしたちのゲームのお客さんなんですけど。 - 石原
- でも、Wiiウェアの
『乱戦!ポケモンスクランブル』だけはできたんです。 - 岩田
- おお、そうなんですね。
- 石原
- 『乱戦!ポケモンスクランブル』だけは遊ぶことができて、
毎日少しずつポケモンを仲間にしては、次のステージに行って、
「もっと強いのが出ないかな~」とか言いながら、
ずっと遊び続けているんです。
- 岩田
- その、ずっと遊び続けられる、
というのはどうしてなんでしょうか? - 石原
- どうやら、うちの家内は
アクションゲームを遊ぶというよりも、
「プチプチつぶし」をするような感覚で、
このゲームを遊んでいるようなんです。 - 岩田
- 「プチプチつぶし」ですか。
- 石原
- はい。前作で遊べたモードは
「バトルロイヤル」だったんですけど、
ポケモンが1画面にたくさん出て、
最後の1匹になるまでバトルロイヤルする遊びを
家内はずっと遊んでいたんです。 - 岩田
- つまりガチャガチャプレイをしていたら、
何とかなるし、それが楽しいということなんですね。 - 石原
- そうです。
- 岩田
- でも、ガチャガチャプレイだけを続けていると、
いずれつまらなくなってしまうものなんですが、
石原さんの奥さんが長い間、遊び続けられるのは
松村さん、どうしてだと思いますか? - 松村
- そうですね・・・。
実は、最初にWiiウェアの
『乱戦!ポケモンスクランブル』をつくりはじめたとき、
技のバランスをきっちりとっていなくて、
社内の評判があまりよろしくない期間が
わりと長く続いたことがあったんです。 - 岩田
- どうして技のバランスをとらなかったんですか?
- 松村
- まあ・・・いつでもできると思っていて、
「あとでいいや」と思っていたんです(笑)。
とはいえ、あまりにも評判がよろしくないので、
週末にこっそり会社に行って、
しこしことバランスの調整をしたんです。 - 岩田
- ひとりでこっそりですか(笑)。
- 松村
- はい(笑)。
すると劇的に評判がよくなりました。 - 小澤
- 僕も触ってみて、調整前と調整後では
如実によくなったことがわかりました。 - 松村
- “リズム感”や“テンポ感”がグッとよくなったんです。
そうしたことが長く遊び続けられる、
ひとつの理由なんじゃないかと思います。 - 石原
- それと、深みがあるソフトなんですよ。
最初はガチャガチャプレイで遊んでいても、
次第にたくさんのポケモンの技が
はっきり見極められるようになっていって、
その結果、ちょっとでもいいおもちゃのポケモンを
探していくような“旅”になっていくんです。
そこに夢中になることができたら、
ずっと長くプレイしてしまうんじゃないかと思います。 - 岩田
- そうか、石原さんの奥さんは、
まさにそんな“旅”を続けているんですね。 - 石原
- そう、“旅の途中”なんです(笑)。