『ペーパーマリオ スーパーシール』
6. 「みんな、ゲームやってる?」
- 岩田
- 開発中のゲームがおもしろくなるときって、
プロジェクト全体の進行が、あるタイミングから
加速する感じで表れることが多いんですけど、
この『ペーパーマリオ』でもそういった
グッと加速した感じがあった気がします。
中嶋さんはいろんなプロジェクトに関わって、
チームがあきらかにノリがよくなって加速する感覚を
何度も経験されていると思うんですけど、
今回はどうでしたか? - 中嶋
- そういう意味ではやっぱり、
工藤さんに出会えたことが最初のスイッチでしたね。
ある種、工藤さんの『マリオ』的なセンスが
いろんなところで刺激になって、
やっと最後が見えた気がしたんです。 - 岩田
- ゴールイメージが見えた、という意味ですか?
- 中嶋
- そうですね。
ゲームをつくっている過程においては、
「ここまでやったら完成だ」というのを、
誰かひとりでもよいので、
見えていることが大事だと思うんです。 - 田邊
- それでいうと、最初の混沌とした状況のときって、
会議でもみんなおとなしくて、
ぜんぜん話がはずまなかったんです。 - 岩田
- よく田邊さん言ってましたね、
「打ち合わせで、みんな元気がないんです・・・」って。 - 田邊
- 元気なのは大事なことです(笑)。
- 井方
- たしかに、自分の関わっているマップでいえば、
今回物量がかなりありましたし、
途中、何度か大きな変更もあったので、
たくさんつくっていっても
進んでいる感覚がいまいちなくて、
ずっと恐る恐るだった気がします。 - 中嶋
- でもそれが開発の最後のほうになると、
各マップをつくっている人が
「ここまでやれば完成だ」と自分の感覚で
判断できるようになっていったんです。 - 岩田
- OKラインを自分でつかめる人が
チームに増えてくると、
一気にスピードが上がりますよね。 - 中嶋
- はい。後半はイベントをつくる人と演出する人、
マップをつくる人、それぞれのゴールが見えているから
コミュニケーションも相当スムーズなんです。
ダメなところも簡単なやりとりで、
すぐ直ってくる感じでした。 - 井方
- あと、イズの社内ではたぶん工藤さんの声が
いちばん大きいんですけど、何の話をしてるかが
机が3列くらい離れていてもわかるんです(笑)。
それで「あっ、これは聞いておいたほうがいいな」
と思った話に聞き耳をたてていると、
あとから工藤さんが自分のところにやってきて、
「ということで、よろしく」とだけ言われたり(笑)。
そんなコミュニケーションもよくありました。 - 工藤
- するとその場で「わかりました!」って
即答してくれるんですよ。 - 岩田
- 説明不要なわけですね(笑)。
- 井方
- そういう、いい意味でみんなが
工藤さんに巻き込まれていく、
そんな現象も起きていましたね。 - 岩田
- 昔にくらべて、
わりとチームが大きくなってきた分、
「全体でいかに情報を共有していくか」って
とても大きな課題なんですよね。
そのときにわざわざ会議を開かなくても
自分に関係あることが聞こえてくる環境って、
大切だと思います。 - 工藤
- 僕からしても、今回は
週6くらいで現場にずっぽり入って、
ずっと一緒に仕事をさせていただけたことが
すごく大きかったと思います。
これが東京から月に1、2回やってきて、
まとめて話してそれの対応がまた後日・・・
みたいなやりかただったら、たぶん無理でした。
思いついたらすぐに会って話せるし、
試したものをその場で見せられるというのが
本当によかったですね。 - 中嶋
- もうひとつ、加速のきっかけを
思い出したんですけど、あるとき田邊さんから、
「みんな、ゲームやってる?」って聞かれたんです。
長い開発期間でみんな忙しさに追われて、
自分がつくったパートを細かく見ていても、
全体の通しプレイをほとんどしてなかったんです。 - 碧山
- そうでしたね、はい。
- 中嶋
- そこで「とにかくゲームをやろう」って、
チームの作業を3日ほど中断してプレイしたんです。
そしたら「あ、ちゃんとできてる」って、
みんな納得することができたんですね。
そこからあきらかに、テンションが変わりました。 - 岩田
- 今回、標準的なRPGの様式をくずして、
さらにはいままでイズさんがやってきた
『ペーパーマリオ』の様式をくずしたわけですよね。
過去に自分たちがやってきて、
「一定の成功をおさめたものをやめる」というのは
やっぱり不安であり、恐怖なわけですよね。 - 碧山
- 各パートの話をするときには、
比較対象がどうしてもこれまでの経験だったり、
類似するジャンルのゲームと比較していたんですけど、
そこだけ見て話しても、意味がなかったんですね。
完全に新しいチャレンジというところには、
切り替わってなかったんです。 - 岩田
- でもそのことに気がつけて、
全体の手ごたえが共有できたことは大きかったですね。 - 工藤
- あの3日間は、
いま思えばすごく意味がありました。 - 岩田
- はい。そうやっていろんな人が関わって
『ペーパーマリオ』はできたわけですが、
最後に、お客さんにつくった側から
お伝えしたいことやアピールしたいことを、
ひとことずつメッセージをお願いできますか?
イズさんから行きましょうか。 - 碧山
- では僕から。ゲームとしてのシステムは
これまでの『ペーパーマリオ』から
大きく変わっていますけど、
まちがいなく、今回も『ペーパーマリオ』として
仕上がりました。楽しみにしていてください。
- 井方
- マップ担当としてのメッセージですけど、
今回は本当に紙でつくられた世界をテーマに、
ぜんぶつくっていったので、
これまでに見たことのない世界で
現実にはありえない表現や出来事が
たくさん詰まっています。
ぜひそれを見て、驚いてもらえたらうれしいです。
- 中嶋
- わたしはいままでシリーズを通して
ずっと関わってきたんですけど、
今回、はじめてワールドマップがある仕組みで、
何回もそこのコースを遊べるようになっています。
どのタイミングでどこを遊んでも
楽しめることを目標としてつくりましたので、
ぜひ「遊び込んでもらえたら」と思います。
- 岩田
- 同じコースの再挑戦性があって、
やり込みが楽しめる、ということですね。
では、工藤さん。 - 工藤
- えー、今回はさっき話にもありましたけれど、
システムで新しい挑戦がありまして、
世界観も心機一転したものになっています。
これからの『ペーパーマリオ』の
スタンダードを目指してすごくがんばったので、
「たっぷり楽しんでいただけたら」と思います。
- 岩田
- はい。最後に、田邊さん。
- 田邊
- いろいろ先に言われてしまいましたが(笑)。
発売されたら、もうそれは
「おもしろい」か「おもしろくない」のどちらかです。
買って遊んでいただけたら、
感想を聞かせてほしいと思っています。
「おもしろい」と言っていただければ、
「また次もつくりたい」と思っています。
ぜひ、よろしくお願いします。
- 岩田
- なにより現場がおもしろそうですし、
今日訊いたエピソードの数々から
最後の加速を経て生まれたソフトが、
「おもしろくないはずがない」と思います。
やっぱり、新しく変えようというときは、
いろんな抵抗や不安、恐怖もあるし、
ゴールが見えるまでみんな心配しながら
恐る恐る進めていくわけですけれど、
そのゴールが見えたとき、
同じ人間が見ちがえるような勢いで
こんなにもエネルギーを発揮できるのかと、
お話を訊いて強く感じました。
この『ペーパーマリオ』が世に出るまで、
少し時間はかかってしまいましたが、
それだけ、さまざまな人の時間とエネルギーを
かけたものになっていると思います。
今日この場でお話しできなかった
いろんなおもしろい表現なども
まだまだたくさん隠されていると思いますから、
そこも楽しんでいただけるといいですね。
今日はありがとうございました。
- 一同
- ありがとうございました。