『ルイージマンション2』
3. ちゃぶ台返し
- 岩田
- ところで、宮本さんは
ネクストレベルゲームズさんを訪問されましたよね?
たしか2回だったでしょうか? - 宮本
- そうですね。
- 岩田
- その宮本さんのカナダ訪問は
どんな感じだったんですか? - ブライアン
- その時だけ、
みんながスーツを着込んでいたことを
よく覚えています(笑)。 - 池端
- ポリシー的に、一年中、
短パンしかはかないような人まで、
その日だけは長いズボンをはいてきていました。 - 岩田
- そうなんですね(笑)。
- ブライアン
- それに「宮本さんがカナダに来ている」
という噂を聞きつけた、よその開発会社の人たちも
うちの会社の周りをうろついていたんです。
宮本さんとすれちがい通信(※8)をするために、
頭上にニンテンドー3DSを掲げながら(笑)。
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやり取りができる通信機能。
- 一同
- (笑)
- チャド
- 本当にあの時は
みんなが興奮していましたよねぇ。 - 岩田
- 実際に宮本さんに会うと、
それまでのイメージが変わりましたか? - 宮本
- そこは本音で
語ってもらったほうがいいですね(笑)。 - ブライアン
- はい(笑)。最初の印象なんですが、
すごく謙虚な人柄に、まず、驚きました。
それと同時に、われわれが開発しているものを
評価するときの、鋭い指摘にも感心しました。
その時、
スパイダーのボスを見てもらったんですけど、
すぐに自分で攻略して、しかもプレイしながら、
次々とコメントを返されていたことに、
とてもビックリしました。
- チャド
- あと、他社とコラボレーションして
ゲームをつくるというのは
すごく緊張する経験なんですけど、
宮本さんが、周りをリラックスさせて、
自由に発言できるような場をつくられていたことに、
すごく感心しました。 - 宮本
- あの、なんだか「宮本を持ち上げる回」、
みたいな展開になってきましたけど・・・。 - 岩田
- はい(笑)。
- 宮本
- 今回の主役はルイージなので。
- 岩田
- そうですね(笑)。
- 宮本
- そこで、『ルイージマンション2』の
プレイヤー操作の話をしますと、
じつは10回以上はつくり直しているんです。 - 岩田
- 10回もですか?
- 池端
- はい。最初の頃は打ち合わせをするたびに、
「違う操作系を試してみよう」という感じでした。 - ブライス
- (うなずきながら)そうでした。
- 宮本
- それで、操作感覚が変わってくると、
「そこのデータはどう組んでいるの?」みたいに、
たまに内部まで立ち入ったりして、
そこに関しては今回、僕自身も
けっこうかかわった感があるんです。 - 池端
- そうですね。
この件についてはかなりやり取りをした記憶があります。 - 宮本
- あとは、たいしたことしてないんですけど。
- 池端
- いやいやいや、そんなことないですよ(笑)。
- 宮本
- オバケ屋敷のゲームなので、
「オバケ屋敷映画のパロディ的なものを
どんどんふくらませていこう」と、
どうしてもなるんです。
けど、『ルイージマンション』というのは
独自な世界観であるべきなんですよね。
なので「もっと自由につくろう」と。
- 岩田
- いわゆるオバケ屋敷映画に縛られずに、
ということですか? - 宮本
- そうです。
ありそうなオバケのパロディーだと、どうしても
「あれをやらなきゃ」
「これもやらなきゃ」という、
積み上げていくようなつくりになるんです。
でも、そういう枠からはずれて、
「もっと楽しみながら、自由につくれば、
できあがった時、きっと面白くなるから」と。 - 岩田
- 既成の枠にとらわれずに、
「自由にものづくりをしよう」
ということなんですね。 - 宮本
- それに楽しんでつくっていけば、
「まあ、なんとかなるから」とも言いました。
でも僕がそのように楽観的なことを言うと、
「そんな、無責任なことを言われても」
みたいなところまでいったんですけど(笑)。 - 池端
- はい。
そのへんはちょっと困りました(笑)。 - 宮本
- たとえば、大樹をはさんでふたつの洋館が建つ
「ノロワ~レ大樹」というステージで、
「そこのボスをどうしようか?」という話になって、
「階段をボスにしたらいいやん」と僕が言ったら、
「階段をどうやってボスにするんですか?」
というところで、延々とやり取りしまして・・・
その時はもう、いっしょにネタを考えたり。 - 岩田
- 宮本さん、ネタも考えたんですか?
- 宮本
- はい。
- 岩田
- ついさっき「たいしたことはしてない」
と話されていましたけど。 - 宮本
- はい(笑)。
- 岩田
- ブライスさん、
宮本さんのアイデアはどうでしたか?
- ブライス
- その階段のボスというのは、
最初のちゃぶ台返しだったと思います。 - 岩田
- (笑)
- ブライス
- じつは最初、
植物のボスを考案していたんです。 - 池端
- 大樹があるステージですからね。
- ブライス
- でも、宮本さんから
「それでは普通すぎる」
と言われてしまったんです。 - 宮本
- 最初のステージに出てくるボスは
スパイダーなんです。
すると、たとえば「ジゴ~クロック工場」では
砂がテーマになっているので、
まずピラミッドをつくって、
そこにミイラのボスが出てくるとか、
スフィンクスのボスが出てくるとか、
誰でも思いつきそうなネタを考えて、
その結果、このままでは普通の
アクションアドベンチャーゲームになるんですね。
だから、今回の舞台はせっかくマンションですし、
この建物は階段がボス、この建物では時計がボス、
というふうに、まず先に決めるようにしたんです。
するとみんな、困ってしまったみたいで。 - 岩田
- 困ったんですか?
- 池端
- はい、困りました(笑)。
- 宮本
- 最初につくってくれたのは
階段の形をしたボスだったんですけど、
ただ口がバクバクするだけで
あんまり面白くならなかったんです。 - ブライス
- そこで、階段をのぼること自体を
ゲームの目的にするようにして、
とても長い階段を、3列に並べまして
そこをあみだくじのようにのぼっていくんですが、
ハズレがあると、落っこちてしまうんです。
- 岩田
- 階段にトラップがあるんですね。
- 宮本
- そうです。そこで速く走ると、
なんとなくヒントが見えるので、
がんばって駆け上がっていくうちに、
クリアできるんです。
で、ようやくのぼりきって、ホッとしたところに
短い階段の姿をしたボスが
ダンダダーンと出てくるんですけど、
じつはそれ、見かけ倒しで(笑)。 - 岩田
- そのボス、弱いんですか?
- 宮本
- ええ、わりとかんたんに倒せます。
- ブライス
- 何段も階段を駆け上がったあとで、
とても強いボスが出てくると、
それだけでストレスを感じてしまいますので、
そこではボスと対面することが、
階段をうまく駆け上がることができたことへの特典、
という扱いにしたんです。 - 宮本
- で、あとから振り返ったときに、
「あの建物のボスは階段やったなあ」という
思い出をつくりたいんです。(笑)。