『ポケットサッカーリーグ カルチョビット』
4. 強い相手と対戦を
- 岩田
- 最初の『カルチョビット』(※18)は
ゲームボーイアドバンスで出ましたが、
目が離せないサッカー観戦の面白さを
表現しようと思ったんですね。
最初の『カルチョビット』=2006年5月に、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売されたサッカーチーム育成シミュレーションゲーム。
- 薗部
- そうです。ピッチ全体を
選手がちょこまかとリアルに動いて・・・。
そのリアルというのは
見た目のリアルさではないんですけど、
まるで本物のサッカーの試合のように、
シュートをはずして「ああ、おしい!」と思ったら、
逆に攻められたりとか、そのようなせめぎあいや、
サッカー特有のハラハラ感を
うまく表現できればと思ってつくりました。 - 岩田
- つまり、サッカーの試合で
“本当に起こりそうなことが起こる”わけですね。 - 薗部
- はい。
- 岩田
- それも密度濃く。
- 薗部
- そうです。
サッカーの試合は90分ですけど、
それをそのまま再現しても
ゲームにはなりませんから、
ひと試合、8分くらいにぐっと圧縮して、
密度を上げました。 - 岩田
- 実際にできあがった、
最初の『カルチョビット』は、
薗部さんにとって
どのような手ごたえがありましたか? - 薗部
- 最初の『カルチョビット』は、
僕がプログラムを組まずに
初めてできあがったソフトなんですが、
担当してくれたプログラマーが
すごく一生懸命にやってくれて、
試合のシーンに関しても、
かなり満足いくものができたと思っています。 - 岩田
- それは、“試合を見続ける”ということに関して、
サッカーの面白さがうまく表現できた、
という確かな手ごたえがあったんですね。 - 薗部
- そうです。
でも、このソフトの楽しみは
試合を観ることだけではありませんから、
その周辺の部分でどこにゲーム性を求めるか、
というポイントが重要になりました。 - 岩田
- はい。
- 薗部
- たとえば球団経営のソフトにしてしまうと、
お金もうけが目的の経営シミュレーションになって、
サッカーの試合を楽しむという方向とは
直接関係のないゲームになってしまうんです。
- 岩田
- お金をたくさんもうけて、
いい選手を獲得するという方向性は
「なんか違うぞ」ということですか。 - 薗部
- はい。そこで、選手を育てるような
育成ゲームにすることも考えたんですけど、
そういうものはそれまでにもありましたし、
それもちょっと違うのかなと・・・。
そこで最終的に「課題をもらう」
というかたちに落ち着きました。 - 岩田
- 「課題をもらう」というのは、
「特訓」で鍛えることですね。
- 薗部
- そうです。すると、
次の試合をまたやりたくなるんです。 - 岩田
- どうしてそのようなシステムを採用したんですか?
- 薗部
- たとえば人と対戦して、
勝てないとやっぱり悔しいじゃないですか。 - 岩田
- 確かにそうです(笑)。
- 薗部
- だから、自分よりも弱そうな相手を選んで
対戦したほうが楽しいんでしょうけど、
そうすると対戦する相手が限られてしまうと思うんです。
そこで、あえて強いチームと対戦すると、
課題がいっぱいもらえる、
というシステムを採用しました。 - 岩田
- たとえ勝てなくても、
たくさんのものが得られるようにしたんですね。 - 薗部
- ええ。そうすると、勝っても負けても
人との対戦が楽しくなるんじゃないかと。
しかも、試合で負けても課題をもらえて、
そこを訓練で強化していけば・・・。 - 岩田
- より強いチームにすることができるんですね。
- 薗部
- はい。そのようなシステムをメインにして、
最初の『カルチョビット』をつくりました。 - 岩田
- ちなみに・・・、
今回の『カルチョビット』は、
じつはもともとニンテンドーDSで
開発がスタートしたんですよね。 - 薗部
- はい。僕のゲームづくりは
いつも、そのパターンです(苦笑)。
そもそも前回の『カルチョビット』が出たのも、
ゲームボーイアドバンスが終わりかけの頃で・・・。 - 岩田
- そうでした。
前作が出たのは2006年5月でしたから、
その前々年の年末にはニンテンドーDSが
すでに発売されていたんですよね。 - 薗部
- それで、前作の開発中に、
「DSでつくりなおしたほうがいいんじゃないか?」
という話もあったんですけど、
とにかくアドバンスで出すことを優先しました。
でも、いざ出してみると
「やっぱりDS用につくりなおしたほうがいい」
ということになったんです。 - 岩田
- ところが、そのDSも
いつの間にかプラットホーム末期になり・・・(苦笑)。 - 薗部
- すみません。そのへんは何というか、
そんなはずじゃあなかったんですけど!(笑) - 一同
- (笑)
- 薗部
- 自分のゲームづくりは
とにかく時間がかかってしまうので、
本当に申し訳ないと思っています。 - 岩田
- 今回、長い時間をかけながら、
DS、そして3DSでつくっていくときに、
どんなことを新しく加えたり、
何を強化しようと思われましたか?
- 薗部
- 新しい要素のひとつはネットワーク関係です。
- 岩田
- ゲームボーイアドバンスのときは
通信ケーブルを使ったネットワークしか
ありませんでしたが、3DSになると、
「すれちがい通信」(※19)や
「いつの間に通信」(※20)で、
ほかの人とやりとりして遊ぶことの幅が
飛躍的に拡がりますからね。
「すれちがい通信」=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。
「いつの間に通信」=ニンテンドー3DSが、インターネット無線アクセスポイントを探して自動的に通信を行い、さまざまな情報やコンテンツを受信する機能。
- 薗部
- そうです。なので、
その部分をどう活用し、強化するか、
というところにいちばん時間をかけて考えました。 - 岩田
- 3DSでつくりなおすことで、
コンピューターだけでなく、
人の育てたチームとの対戦が増えて、
その試合を観て楽しむ機会が拡がる、
ということですね。 - 薗部
- そうです。
事前にチームのデータを送りあっておけば、
リアルタイムに通信する必要がありませんし。 - 岩田
- 相手の都合に合わせることなく、
自分の好きなときに
対戦を楽しむことができますね。 - 薗部
- はい。『ダビスタ』でも
ほかの人が育てた馬とレースをする
ブリーダーズカップというのがあって、
それがものすごく盛り上がったんです。
ですから『カルチョビット』でも
同じようなことをしたいと思いました。 - 岩田
- そういった人との対戦だけでなく、
今回はリーグ戦の仕組みも面白いですよね。
まず最初に、市町村の代表になるために
本拠地をどこにするかを決めるところから
ゲームになっていますし。 - 薗部
- DS版の『ダビスタ』(※21)のときにも
県対抗的な要素を入れたりしていたものですから、
今回もそういう要素が欲しいと思って
全国1720の市町村から
ホームタウンを選べるようにしました。
なので、まったく無名の田舎のチームでも・・・。 - 岩田
- どんどん勝ち上がっていくと、
全国ランキングに挑めるわけですね(笑)。 - 薗部
- そうです。
DS版の『ダビスタ』=『ダービースタリオンDS』。2008年6月に、ニンテンドーDS用ソフトとしてエンターブレインから発売された競馬シミュレーションゲーム。
- 岩田
- もともとサッカーは地域密着型のスポーツですけど、
そういうところも意識されたんですか? - 薗部
- はい。ネットワークを使えば
いろんなことができますし、
たとえばすれちがい通信で日本列島の北から南まで、
どんどんつながったら面白いなぁ、とか。 - 岩田
- はいはい。
- 薗部
- そこで、壮大なことも考えたんです。
日本列島をひとつのサッカー場にして、
壮大なサッカーができないだろうかと。
たとえば、すれちがい通信を使って、
「ボールはいまどこだ?」「いま岐阜県!」とか、
そんなやりとりをしてみたかったんですけど・・・
ちょっと壮大すぎました(笑)。 - 岩田
- 収拾がつかなくなったんですか?(笑)
- 薗部
- そうなんです。
それに、それってもう、
サッカーじゃなくなっていたんです(笑)。
- 岩田
- (笑)