『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』
はじめに
- 岩田
- みなさん、こんにちは。任天堂の岩田です。
昨年は一度も「社長が訊く」を公開しませんでしたので、
みなさんにお届けするのは、本当にひさしぶりになります。
昨年、わたしは病気をして手術をしましたので、
そのことが「社長が訊く」が新しく公開されていない理由だと
感じておられたみなさんも多いかもしれません。
ただ、実際のところ、わたしは、自分の病気のことを知る前から、
「少しお休みをいただいて充電しよう」と思っていたんです。
昨年の終わりごろから、「そろそろ再開させてもらおう」と考え、
「最初にどのソフトではじめたらいいのか?」と考えていたときに
『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』のリメイクを発表したときの
とても大きな反響に、わたし自身もビックリして、
このソフトで再開しようと決心しました。
多くの人の心に刺さったこのゲームの秘密の一端を
うまくお伝えできるとよいのですが・・・。
長文で読みごたえたっぷりになりましたが、よろしくお願いいたします。
1. 「1年でつくれ」
- 岩田
- ようやく長い開発が終わりましたね。
- 青沼
- はい。とても長い開発でした。
- 岩田
- N64版の『ムジュラの仮面』(※1)は
ちょうど15年前に発売されたソフトですので、
青沼さんも、ちょっと忘れてるんじゃないかと思うんですけど・・・。
N64版の『ムジュラの仮面』=『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』。2000年4月に、NINTENDO64用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャー。本作のリメイク元になった。
- 青沼
- ちょっと、どころか、
そうとう忘れてます(笑)。
- 岩田
- まずはN64版の話をお訊きしようと思います。
たしか『ムジュラの仮面』は
「1年で『ゼルダ』をつくれ」
という話からはじまったんですよね。 - 青沼
- そうです。
『時のオカリナ』(※2)をつくったときに、
長い時間をかけて開発した3Dモデルがありましたので、
それを再利用して、違うものにアレンジすれば
「1年でつくれるんじゃないの?」
という宮本(茂)さんの話からはじまりました。
ただ、その前に、64DD(※3)で
『裏ゼルダ』(※4)をつくろうという動きがあったんです。
『時のオカリナ』=『ゼルダの伝説 時のオカリナ』。1998年11月21日に、NINTENDO64用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャー。『ムジュラの仮面』は、『時のオカリナ』から数か月後のストーリーであり、ゲームシステムやグラフィックを引き継いで制作されている。
64DD=株式会社ランドネットディディが発売したNINTENDO64の周辺機器。磁気ディスクドライブを本体の下に取り付けることで、大容量の書き換え領域の活用を可能にした。サービスは1999年にはじまり、2001年に終了。
『裏ゼルダ』=通常の『ゼルダの伝説』をクリアしたプレイヤー向けに用意された高難易度モードのこと。『時のオカリナ』の裏ゼルダは、当初64DD用に開発されていたが、最終的に『風のタクト』(ニンテンドー ゲームキューブ用ソフトとして2002年12月に発売)を予約するともらえた「限定キャンペーンディスク」に収録された。
- 岩田
- 当初は、『時のオカリナ』が発売されたあとに
64DDで『裏ゼルダ』が遊べるということが、
企画として議論されていたんですよね。 - 青沼
- はい。そこで『時のオカリナ』のダンジョンを
アレンジして何かをつくりなさいと言われていて、
僕がそれをやらなければいけなかったんです。 - 岩田
- はい。
- 青沼
- でも、『時のオカリナ』を開発したときに、
ダンジョンをとことんチューニングして、
自分にとっては、これ以上のダンジョンはない
というものをつくったつもりだったんです。
そこで、宮本さんから「つくりなおして」と言われたので
しぶしぶはじめたんですけど・・・
・・・なんか気が乗らないんですよね。 - 岩田
- 青沼さんにとっては
最高のダンジョンに仕上げたつもりなので
それ以上、触りたくなかったんですね。 - 青沼
- そうなんです。そこで、こっそり
『時のオカリナ』にはなかった
新しいダンジョンをつくりはじめたりしたんですけど、
そっちの仕事のほうが何十倍も楽しいわけです。
それで、宮本さんに思い切って
「僕、新しいものをつくりたいんですけど・・・」
という話をすると
「1年でつくれるんだったらいいよ」と。 - 岩田
- そもそも『時のオカリナ』の開発は
3年かかりましたよね。 - 青沼
- はい。
- 岩田
- あのころのことは、わたしもよく覚えています。
1998年の11月21日に『時のオカリナ』が出て、
わたしはそのころ、翌年の1月に出すことになる
『スマブラ』(※5)を仕上げていたんですけど、
その打ち合わせのために任天堂に来ていて、
そのときに『時のオカリナ』を買って帰りましたから。
『スマブラ』=『ニンテンドウオールスター! 大乱闘スマッシュブラザーズ』。1999年1月に、NINTENDO64用ソフトとして発売された対戦格闘アクション。開発はハル研究所で、当時、岩田が社長として在籍しており、プログラム開発にかかわっている。
- 青沼
- ありがとうございます(笑)。
- 岩田
- だから、同時期にやってた感がすごくあって、
よく覚えているんです。
で、『時のオカリナ』はある意味、
3Dゲームの金字塔のようなゲームになって、
世界的にもすごく話題になりましたけど、
その一方で、「3年に1度しか出ないのはどうなの?」
という声もありましたよね。 - 青沼
- はい。何度も発売延期をしましたし。
- 岩田
- 発売延期で思い出しましたけど、
『時のオカリナ』の開発中に、
宮本さんが、母校のある金沢に行ったときに、
コンビニに入ったそうなんです。
すると、店員さんが宮本さんを発見して、
「宮本さん、ここで、こんなことをしていていいんですか!」
って、叱られたそうです(笑)。 - 青沼
- あははは(笑)。
発売をすごく待ってくださってたんですね、
その店員さんは。 - 岩田
- そんな伝説もあるくらい
『時のオカリナ』は、発売延期につぐ発売延期を経て
やっと世に出たわけですけど、
時間がかかりすぎたという反省もあって、
宮本さんとしても
「ここはなんとか1年でつくらなきゃ」
という思いに、きっとなったんでしょうね。 - 青沼
- そうですね。
- 岩田
- ところで、「1年でつくれ」と言われて、
すんなり「やります」と答えたんですか? - 青沼
- いえ、頭を抱え込んでしまいました。
- 岩田
- ですよね(笑)。
- 青沼
- 「どんなものをつくればいいわけ?」
と、ずいぶん悩んだんですけど、
小泉(歓晃)さん(※6)に会ったときに
「手伝ってよ」と頼み込んだんです。
彼は、ちょうどそのころ
コンパクトな世界を何度も繰り返して遊ぶような、
別のゲームの企画を考えていたところだったんです。
もともと『時のオカリナ』には、
時間で制御できるシステムが入っていまして・・・。
小泉歓晃=N64版『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』では、青沼と共にディレクターを担当。『ムジュラの仮面』以降は、『スーパーマリオサンシャイン』(2002年)や『スーパーマリオギャラクシー』(2007年)をはじめとする、3Dマリオのゲーム開発や『うごくメモ帳』(2008年)などにかかわる。東京制作部所属。過去、
社長が訊く『スーパーマリオ 3Dワールド』に登場。
- 岩田
- 太陽が昇ったり、夜になったりと、
あの世界には時間が流れていましたよね。 - 青沼
- ええ。そこで小泉さんが
「その時間が流れるシステムを使えば、
何度も繰り返して遊ぶゲームができるじゃないですか。
それをやらせてくれるんだったら、
いっしょにやってもいいですよ」と。 - 岩田
- なんだか・・・
会社のなかで取引してる感じですね(笑)。 - 青沼
- (笑)。そこで生まれたのが
3日間を何度も繰り返して遊ぶという
“3日間システム”(※7)だったんです。
“3日間システム”=ゲーム中の時間で3日が過ぎると、月が地上に落下して世界が滅んでしまうため、その時間をプレイヤーが操り、3日間を繰り返しながらゲームを進めるシステム。
- 岩田
- 1年という短期間でつくるには
とてつもなく新しいアイデアが必要になりますけど、
それが“3日間システム”だったわけですね。 - 青沼
- そうです。
でも最初は、1週間のつもりだったんです。 - 岩田
- 3日はもともと1週間だったんですか?
- 青沼
- はい。ところが、最初の日に戻ったときに
「また1週間もやり直すのか・・・」
という話になりまして、
「じゃあ、ちょうどいいのは3日かな?」と。 - 岩田
- ええっ、そんなふうに決まるものなんですか?(笑)
- 青沼
- (笑)。このゲームでは、
町の住人が毎日異なる動きをして
いろんなイベントが発生したりしますけど、
それが1週間もの長い期間になると、
何日目に、誰がどこにいて、何をしたかなんて
覚えていられないんですよね。 - 岩田
- それに、密度の濃いものを1週間分つくっていたら
1年では開発できなかったでしょうしね。 - 青沼
- はい。絶対できなかったです。
そこで、3段階にするのがいちばんいい、
ということで、1週間分で考えたいろんな要素を
3日間に圧縮することにしました。 - 岩田
- だから、あの密度感につながったんですね。
1週間の枠で考えたいろんなネタを
3日にぎゅっと凝縮したことで。 - 青沼
- そうですね。