『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』
2. “おもてなし”から“挑戦状”へ
- 岩田
- ところで、どうして
「仮面」や「お面」だったんですか? - 青沼
- 『時のオカリナ』の開発は長かったこともあり、
いろんな要素をたくさん詰め込んだんですけど、
そのなかで、消化不良になったり、
十分に活かしきれなかったものもあったんです。
そのひとつがお面屋さん(※8)で・・・。
お面屋さん=『ムジュラの仮面』の物語では、ムジュラの仮面の元の持ち主として、スタルキッドに襲われてしまった仮面をリンクに奪い返すように依頼してくる人物。物腰は穏やかだが、得体の知れない怖さがある。『ゼルダの伝説』総合Twitter「@ZeldaOfficialJP」では案内役もつとめている。『時のオカリナ』では、城下町にある「しあわせのお面屋」の店主として登場するが、同一人物かどうかは不明。
- 岩田
- リンクが手に入れたお面をかぶると、
相手の反応が違ったりしましたよね。 - 青沼
- はい。そこで、『ムジュラの仮面』では
仮面をかぶると、リンク自身が
変身できるようになるとおもしろいよね、
という話になりました。 - 岩田
- それまでのリンクは
変身するようなことは一度もなかったですよね。 - 青沼
- そうなんです。もともと『ゼルダ』は
アイテムを使っていろんなことができるようになる
ということが基本にあったんですけど、
仮面やお面を使って、リンクが違うことができるようになれば
遊びの幅が広がっておもしろいと考えました。
そこで、空を飛ぶデクナッツリンク、
陸を爆走するゴロンリンク、
そして海を泳ぐゾーラリンクに変身できるようにして、
それぞれに物語的なエピソードをもたせるようにしました。 - 岩田
- 陸海空を制覇ですね(笑)。
- 青沼
- はい。ですから、
お面を使うということが決まってからは
いろんなことがタタタタッと
決まっていくような感じでしたね。 - 岩田
- ピースがパチパチとはまる感じだったんですね。
- 青沼
- まさにそうです。
- 岩田
- そんなふうに、はまっていくときは
すごく気持ちがよかったでしょうね。 - 青沼
- いやあ、とにかく時間がありませんから、
はめるしかない、という感じでしたけど(笑)。 - 岩田
- たしかに(笑)。
でもやっぱり、締め切りって大事ですよね。 - 青沼
- そうですね(苦笑)。
「窮鼠(きゅうそ)猫を噛む」じゃないですけど、
決まったからには、もうやるしかない、
という感じでつくっていましたから。 - 岩田
- わたしは、時間がないからという理由で
急いで仕上げて、その結果、
うまくいかなかった例はたくさん知ってるんです。
だけど『ムジュラの仮面』に関しては、
「時間がないから」ということが、
逆にいい方向に転がった印象があるんです。 - 青沼
- はい。
- 岩田
- それって一体、どういうことなんでしょう?
- 青沼
- そもそも『時のオカリナ』も
3年もの長い時間をかけて
つくろうとは思っていなかったんです、本当は。
ですけど、いろいろとこだわりが出てきて・・・。
- 岩田
- だから、聞くたびに発売日が延びて、
宮本さんもコンビニで怒られたりするわけですよね(笑)。 - 青沼
- はい(笑)。当時の自分たちは、
満を持して「これが3Dの『ゼルダ』だ!」
ということを、世の中にドーンと出したいと、
そんな強い気持ちでつくっていましたので、
時間がかかっても、自分たちでできるすべてのものを
詰め込もうとしていたんです。 - 岩田
- その結果、
「おいしいおかずができたのに、お皿に並べられない」
みたいなことが起こったんですね。 - 青沼
- そうなんです。だから、スタッフのなかに、
「あのネタはもっとこうしたかった」とか、
「『時のオカリナ』ではできなかったことをやりたい」
という気持ちがとても強く残ったんだと思います。
もし、新しいスタッフを集めていたとしたら
1年でつくるということは
絶対に不可能だったでしょうし。 - 岩田
- だから、つくったけど活かせなかった
という悔しさがバネになって、
“3日間システム”というベースの上に
いろんなアイデアのピースが
スパスパとはまっていったので、
わずか1年であの密度のものができたんでしょうね。 - 青沼
- そうですね。
あと・・・若かったんです、僕が。 - 岩田
- なにしろ15年前のことですからね。
- 青沼
- なので「1年でつくれ」と言われて、
できないのも悔しいし、できたらすごいよな、
という気持ちがすごく強かったんです。
そんな勢いで最初はつくりはじめたんですけど、
開発の終盤になってから
すっかりゆとりがなくなってしまったんです。
すると宮本さんから
「発売は延ばしてもいいんだよ」
と言われまして、そのとき僕は・・・。 - 岩田
- 怒りました?
- 青沼
- はい、怒りました・・・(激高した声で)
「いまからそんなこと、
できるわけないじゃないですかっ!」って。 - 岩田
- あははは(笑)。
- 青沼
- 「絶対にこれは1年でつくります!」と、
宮本さんに言った覚えがあります。
いま考えると、「上司に何を言ってるんだ」という話ですけど。 - 岩田
- やっぱり若かったんですね(笑)。
- 青沼
- はい。宮本さんも「1年でつくれ」とは言ったけれど、
終盤になると心配もあったと思うんです。 - 岩田
- 「みんな、バテてるんじゃないか?」
という心配もあったんでしょうね。 - 青沼
- そうですね。それに当時の僕は、何か変なものに
突き動かされてるような感覚があったんです。 - 岩田
- 何かのお面をかぶってたんでしょうか(笑)。
- 青沼
- そもそも夢に出てきたくらいですから。
- 岩田
- どんな夢だったんですか?
- 青沼
- デクナッツに追いかけられる夢なんです。
- 岩田
- えっ、追いかけられる夢ですか!?(笑)
- 青沼
- デクナッツのイベントを考えていまして、
家に帰っても「どうしようかな?」と
ずっと悩んでいたんです。
そしたら夢に出てきたんです、デクナッツが。
そこで「わーっ!」と叫びながらガバッと起きて、
会社に出社したら、
ムービーをつくってる河越(巧)さん(※9)が
「デクナッツの最初のシーンができました」
と言うので、見せてもらったんです。
すると・・・夢とまったくいっしょだったんです!
河越巧=企画開発本部企画開発部所属。N64版『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』では、シネマシーンディレクターを担当。過去、社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』オリジナルスタッフ篇その1に登場。
- 岩田
- (笑)
- 青沼
- 「なんで、おれが見た夢を知ってるの?」
と言ったくらいで(笑)。
それくらいおかしくなってましたね、あの当時は。 - 岩田
- やっぱり、何かが憑(つ)いてたんでしょうかね。
- 青沼
- きっと憑いてたと思います。
- 岩田
- ところで今回、『ムジュラの仮面 3D』を
発表したとき(※10)の反響がすごかったじゃないですか。
『ムジュラの仮面 3D』を発表したとき=2014年11月6日に世界同時放映された「Nintendo Direct 2014.11.6」のこと。
- 青沼
- そうですね。
- 岩田
- 『ムジュラの仮面』は一度もリメイクをしていないので、
もともと「反響はいただけるはずだ」とは思っていたんですけど、
正直な気持ちを言うと「こんなにも!」と驚いていまして・・・
それはどうしてだと思います?
- 青沼
- それは、お客さんに対して
“挑戦状”をたたきつけたような
ゲームだったからなんじゃないかと思うんです。 - 岩田
- お客さんへの“挑戦状”、ですか(笑)。
- 青沼
- 「社長が訊く」の『時のオカリナ 3D』(※11)のときに“おもてなし”という話が出ましたよね。
『時のオカリナ 3D』=『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』。2011年6月に、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャー。
- 岩田
- “襲いかかるおもてなし”(※12)の話ですね。
“襲いかかるおもてなし”=「社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』オリジナルスタッフ篇 その2」より。『時のオカリナ』をリメイクするにあたり、あらためてN64版を触ってみた感想を「おもてなしが全力で襲いかかってくるようだ」と語っている。
- 青沼
- でも、『ムジュラの仮面』はそうじゃなくって、
全部が“挑戦状”なんです。
「ここは解けるか!?」みたいな。 - 岩田
- “おもてなし”から“挑戦”に豹変したんですね。
- 青沼
- これまでは「いらっしゃい」と言われてたのが、
「根性のないやつは帰れ」と言われるみたいな(笑)。
それくらいガラッと変わったと思います。 - 岩田
- たしかに当時、遊ぼうとしたときに、
ゲームのなかから「お前に覚悟はあるのか」と
叫ばれてるような気持ちがしましたから。 - 青沼
- 「このゲームはこうやって遊んでくださいね」
的なものを入れてないわけです。
そもそも『時のオカリナ』のお客さんたちが
遊んでくださるんだから、
ていねいな説明は要らないと思っていましたし。 - 岩田
- 「解けるものなら解いてみろ」
みたいな感じなんですね。 - 青沼
- だから、そのような“挑戦状”的な要素が
発売から15年経ったいまも
お客さんのなかに色濃く残っていて、
それが、今回の反響につながったんじゃないでしょうか。 - 岩田
- なるほど。
では、N64版の昔話はこのへんで終わりにして、
そろそろ今作の話に入りましょうか。 - 青沼
- はい。