『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』
3. 「フタを開けたくなかった」
- 岩田
- みなさん、たいへんお待たせしました。
まずは自己紹介からお願いします。 - 大岩
- 株式会社グレッゾ(※13)の大岩幹治です。
『ムジュラの仮面 3D』では、
最初から、というわけではなかったんですけど、
流れでディレクターを担当しました。
株式会社グレッゾ=2006年に設立されたゲーム開発会社。本社・東京。前作『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』に引き続き、開発を担当。前作についてくわしくは、社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』開発スタッフ篇を参照。
- 岩田
- 「流れで」というのは、どういうことですか?
- 青沼
- 僕が「ディレクターを立ててください」とお願いしたんです。
途中までは、要らないかなと思っていたんですけど。 - 岩田
- ああ、なるほど。
最初は、「移植だからディレクターがいなくても大丈夫」
と思ってたんですね。 - 青沼
- 『時のオカリナ 3D』のときは
ディレクターはいませんでしたから。
でも、いざ今作の開発をはじめてみると、
そうは問屋が卸さなかったんです(笑)。 - 大岩
- そうですね(笑)。
- 岩田
- 青沼さんの自己紹介は・・・十分だと思いますので(笑)。
山村さん、お願いします。 - 山村
- 企画開発部の山村知弘です。
ソフト開発の窓口を担当しました。
青沼さんの「こうしたい」という気持ちを、
わかりやすく整理して、
グレッゾの大岩さんにお伝えし、
また一方で大岩さんからあがってきたものが、
「本当にこれでいいのか」ということを検証して、
青沼さんに伝えるという仕事をしていました。
- 岩田
- 日本語同士の“通訳”みたいなことをしてたんですね?
- 山村
- はい(笑)。まさに“通訳”でした。
- 佐野
- 同じく企画開発部の佐野友美です。
わたしは山村さんと同じく
ソフト開発の窓口をしていましたが、
開発の後半からの参加です。
そのころにはだいたいの部分はできあがっていたので
マリオクラブ(※14)さんから出てきた問題点を洗い出し、
先ほどの話にありました“挑戦状”をたたきつけたかのような
不親切さがあるところをプレイヤー視点に立って確認しなおして
「なおすべきなのか、歯ごたえとしてそのままにしておくのか」
というところを調整する仕事をしていました。
マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。
- 青沼
- プレイヤー視点に立って、という話ですけど、
かつて佐野さんは、お客さんとして
N64版を遊んでいたんです。
だから、「当時のファンから見てどうなの?」ということは、
いつも佐野さんに聞くようにしていました。 - 佐野
- もともと、わたしはN64版のファンで、
発売された当時ももちろん遊びましたけど、
“挑戦状”に・・・負けてしまった側で(笑)。 - 岩田
- クリアできなかったんですね?
- 佐野
- ええ、残念ながら。
- 岩田
- さて、そんな“挑戦状”のような
『ムジュラの仮面』のリメイクは
どうやってはじまったのですか?
- 青沼
- またまた宮本さんから話がくるんです。
「3DSで『ムジュラの仮面』を出そうよ」って。
佐野さんが「“挑戦状”に負けた」と言いましたけど、
同じようにN64版を途中であきらめた人たちが
けっこう多かったという印象が
宮本さんのなかにも強く残っていて、
「せっかくいろんなものを詰め込んだのに、
それを見てもらえないのはもったいないだろう」と。
でも、そもそも僕らは、“挑戦状”をたたきつけて、
「この謎が解けるか?」という気持ちで
つくったわけですけど・・・(笑)。 - 岩田
- “おもてなし”から“挑戦状”に豹変したわけですからね(笑)。
- 青沼
- でも、宮本さんからそう言われると
「そのとおりです」と答えるしかなかったんです。
それに、ニンテンドー3DSで出せば
謎解きに詰まったときでも、パタッと閉じて、
スリープモード(※15)にできるのも利点だし、
だから『ムジュラの仮面』をぜひやりなさい、
という話だったんです。
ところが、すぐに「やります」とは言えなかったんです。
スリープモード=電源がONの状態で本体を閉じるとスリープモードとなって、消費電力を抑えることができ、本体を開くと続きからすぐに遊ぶことができる。
- 岩田
- それはどうしてですか?
- 青沼
- さっきも言いましたけど、若い勢いだけで
いろいろやっちゃった感のあるゲームですので・・・。 - 岩田
- はい。
- 青沼
- だから、フタを開けたくなかったんです(笑)。
- 岩田
- フタを開けたくないって(笑)。
- 青沼
- フタを開けたら、冷や汗が
どばーっと出てくるに違いないと思いましたから(笑)。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- 青沼さんとしては
ずっと封印しておきたかったんですか? - 青沼
- 「なかったことにしてほしい」みたいな(笑)。
もちろん「なかったことに」というのは許されませんけど、
リメイクするのはかんべんしてほしいとは思ったんです。
ところが宮本さんは「あかん」と。 - 岩田
- N64版のときは「1年でつくれ」と言い、
3DS版では「逃げるのはあかん」と言い、
宮本さんもつくづく厳しい人ですね(笑)。 - 青沼
- 宮本さんはさらに、
「自分自身でもう一度、すべてを遊びなおして、
本当にこれでいいのか、ということをしっかり検証して、
そこをちゃんと修正したうえで、
いまの人が満足できるようなものに仕上げろ」
と言うんです。 - 岩田
- 傷口に塩をすり込むような話ですね(笑)。
- 青沼
- 15年前の古傷です(笑)。
それで、思い切ってすべてを遊びなおすことにしたんです。 - 岩田
- 冷や汗をどばーっとかきながら?(笑)
- 青沼
- はい(笑)。
そしたら「なんじゃこれは」というものが
いっぱい見つかりました。 - 岩田
- 「なんじゃこれは」って(笑)。
自分でつくっておきながら
普通は言えることじゃないですよね。 - 青沼
- もともと『ゼルダ』というゲームは、
「これはこうかな?」と気づけるような
ちょっとしたヒントがあれば、
その先にたいへんなことがあっても、
頑張ろうと思えるんです。
ところがN64版『ムジュラの仮面』の場合、
「ここかな?」と思って、その先に行っても、
そこには何も答えがなかったりしたんです。
- 岩田
- その時点で「ああダメだ」と
お手上げになりますよね。 - 青沼
- はい。さらに
まったくヒントがないものがあって、
誰にも見つけられない要素も
たくさんあったんです。 - 岩田
- せっかくアイデアのピースを
たくさん詰め込んだのに、体験してもらえないというのは、
宮本さんが言うように、すごくもったいないですよね。 - 青沼
- そうなんです。だから、あの当時は、
憑きものが憑いていたとしか思えなかったんです。 - 岩田
- 佐野さん、当時のプレイヤー代表として、
そういうところがあったんでしょうか? - 佐野
- けっこうあったと思いました。
たとえば失敗したときに、
自分の腕のせいで失敗したときは
納得できるんですけど、どうして失敗したのか、
いまいちわからなくて納得できないところもありましたし。 - 岩田
- うまくいかなかったときは
「自分が悪い」とお客さんに思ってもらうのが、
ゲームのあるべき姿の基本で、
それが任天堂の開発哲学のはずなんですけど。 - 青沼
- そうですね、はい。
ところが、N64版は必ずしもそうではありませんでした。
だから、いまの人たちに同じものをそのまま渡したら
とんでもないことになると思いました。
そこで“なんじゃこれはリスト”をつくることにしたんです。 - 岩田
- 青沼さんが「なんじゃこれは!」と感じたことを
リスト化することにしたんですね。 - 青沼
- はい。