『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』
5. Cスティックでお月見を
- 岩田
- 大岩さん、新しい
Newニンテンドー3DSが出ると聞いたのは
どのようなタイミングだったんですか? - 大岩
- 開発はすでに後半に入っていまして、
一通りの移植作業を終わらせ、
挑戦状要素をゲーム最初から入れ込んでる最中でした。
それで、打ち合わせはいつも
東京のグレッゾでやっていたのですが、
あるとき突然「たまには京都でやりませんか」と言われたんです。 - 岩田
- なんだか怪しい言いかたですね(笑)。
- 大岩
- ええ(笑)。でも、自分たちとしても、
「たまには京都でやるのもいいかな」
ということで、おじゃますることにしました。 - 岩田
- 「ひさしぶりの京都だ!」という感じだったんですね。
そこに大仕事が待っているのも知らずに(笑)。 - 大岩
- そうなんです(笑)。
そしたら、いきなり新しい3DSを見せられまして。 - 山村
- まだ外に持ち出せないときでしたから、
わざわざ京都にお越しいただきました。 - 青沼
- で、僕が「Cスティック(※18)でカメラを回したい」
とか言いはじめるんです。
Cスティック=Newニンテンドー3DSで新しくA・B・X・Yボタンの左上に追加されたアナログスティックのこと。
- 大岩
- 「えっ、このタイミングで?」と思いましたけど(笑)。
- 青沼
- すみません。でも、僕としては
どうしてもカメラを動かしたかったんです。
自分の好きなようにカメラが動かせるようなことは
『風のタクト』(※19)で初めてやって、
その気持ちよさがすごくわかっていましたし。
『風のタクト』=『ゼルダの伝説 風のタクト』。2002年12月に、ゲームキューブ用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャー。
- 大岩
- それで、青沼さんから託された大仕事を
会社に持ち帰ったんですけど、
Newニンテンドー3DSが非公開の時期でしたから、
スタッフみんなに話をすることができなかったんです。
そこで担当プログラマーなど、ごく一部の人だけに話をして、
コソコソと作業をはじめました。
- 岩田
- コソコソと(笑)。
- 大岩
- でも、それをやったおかげで、
リンクを移動させながら、このゲームの象徴の
月が見られるようになりましたし。 - 青沼
- N64版では、それができなかったんです。
月が頭のすぐ上まで落ちてきてるということが
なんとなくわかりながらも、見えなかったりしましたし。 - 佐野
- 3日目になって、月が大きくなってるはずなのに、
「月はどこ?」という感じでしたからね。
でも、今回は好きなときにお月見ができます(笑)。 - 青沼
- うれしいですよね(笑)。
- 岩田
- でも、開発の終盤になってから
カメラを回すようにするのは
かんたんな仕事ではないですよね。 - 大岩
- はい。そもそも『ムジュラの仮面』には、
カメラを制御するプログラムの種類が
ものすごくたくさんありますので。 - 岩田
- シーンによって、いろんなカメラプログラムが
使い分けられるようなシステムになってるんですよね。 - 山村
- そうなんです。ハシゴを登ったり、
デクナッツリンクで空を飛んだりと、
いろんなシーンでカメラプログラムが切り替わりますし、
『時のオカリナ』と比べてもかなりの数になっています。 - 大岩
- ですから、たくさんあるカメラプログラムと
Cスティックのカメラとの切り替えがうまくいくのか、
膨大な組み合わせを精査する必要がありました。 - 山村
- しかも、今回はリンクが変身しますから。
普通のリンクとゴロンリンクは背の高さが違うので
カメラの高さも変わるんですね。 - 大岩
- それに、カメラを自由に動かせるということは、
見えちゃいけないものが、見えてしまったりとか・・・。 - 岩田
- そういう問題も起こるんですよね。
- 大岩
- ですから、予期せぬ問題が次々と出てきて、
一筋縄ではいきませんでした。 - 岩田
- なるほど。開発に時間がかかった理由が、
またひとつわかった気がします(笑)。 - 青沼
- でも、徹底的にやっただけあって
効果は絶大でしたね。 - 大岩
- 絶大です。
- 青沼
- Cスティックでカメラが動かせるようになったことで、
『ムジュラの仮面』が生まれ変わったということが、
ものすごくハッキリ出せるようになりましたしね。 - 岩田
- たいへんだけど、努力のしがいがあって、
ゲームの魅力にすごく影響するポイントだったんですね。 - 大岩
- そう思います。
- 岩田
- ちなみに、Newニンテンドー3DSには
「3Dブレ防止機能」(※20)がついていますけど、
『ムジュラの仮面 3D』との相性はどうですか?
「3Dブレ防止機能」=Newニンテンドー3DSの新機能のひとつで、ゲーム中に本体や顔が大きく動いても3D映像を安定して見られるように、本体の内側カメラで顔の位置を認識して自動調整する。
- 青沼
- そもそも『ゼルダ』というゲームは
遊んでいると、身体が揺れてしまうんです。 - 岩田
- おもしろいアクションゲームで遊ぶと
身体が揺れますからね。 - 青沼
- だからどうしても
立体視がずれてしまうんです。
だから、Newニンテンドー3DSに
「3Dブレ防止機能」が搭載されるという話を聞いて
「待ってました!」という感じでした。
『時のオカリナ 3D』のときは、
どうしても視点がずれてしまうことがあったんですけど、
新しい3DSではそれがまったくなくて、
立体視でもストレスなく遊べるのがうれしいですよね。 - 岩田
- そのNewニンテンドー3DSで、
すでに発売されているタイトルを
もう1回遊びなおすと、別のゲームになりませんか? - 青沼
- そうなんです。
- 岩田
- Newニンテンドー3DSが手元にきてから
『ルイージマンション2』(※21)をまず遊びなおしてみて、
「ああ、まったく別のゲームだ」と感じましたし、
ほかにも、『パルテナの鏡』(※22)や『時のオカリナ 3D』、
『マリオカート7』(※23)、『スーパーマリオ 3Dランド』(※24)など、
多くの3Dゲームの魅力が大きく変化すると実感しました。
「最初から3DSをこの形でご提案できなくて、すみません」
と言いたい気持ちにもなりました。
もちろん最初に3DSを出したときは、
このような技術はまだ存在していなかったので、
当時は絶対に実現不可能だったのですが、
「3D表示とはこういうものだ」という固定概念を捨てて、
過去に遊んでいただいた3DSのゲームを
もう一度体験いただきたいと思うほどです。
『ルイージマンション2』=2013年3月に、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャー。
『パルテナの鏡』=『新・光神話 パルテナの鏡』。2012年3月に、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたアクションシューティング。
『マリオカート7』=2011年12月に、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたアクションレースゲーム。
『スーパーマリオ 3Dランド』=2011年11月にニンテンドー3DS用ソフトとして発売された3Dアクション。
- 青沼
- それくらいの違いがありますよね。
それで『ムジュラの仮面 3D』の話に戻しますと、
開発にこれほど長い時間をかけたというのは、
じつは新しい3DSの登場を待っていた、
みたいなところもあったのかなあって(笑)。 - 岩田
- ああ、時間がかかった理由をそう説明しますか(笑)。
Newニンテンドー3DSの誕生を待つために、
時間をかけて開発したと。 - 青沼
- というのも、カメラを回転させても、
まったくぶれませんし、
ちょっと窮屈な感じだった『ムジュラの仮面』の世界を、
パーッと広がったものにできたという手ごたえもありますので、
長い時間をかけてつくったからこそ
うれしい出会いが生まれたんだなあと思いました。 - 岩田
- あと、立体視でよくなったことはありますか?
- 山村
- もともと『ムジュラの仮面』の世界は
とても複雑な構造をしているんです。
町のなかの建物をはじめ、ダンジョンもそうですけど、
それが立体視できるようになったことで、
前後関係とか上下関係がすごくわかりやすくなったので、
行くべき場所はどこなのか、の把握に、
すごく貢献していると思います。
- 青沼
- たとえば、デクナッツリンクが飛んだりしますけど、
立体視になることで、降りるべき場所の位置が
とてもわかりやすくなったと思います。
だから、立体視ができるようになったことが、
いろんな意味ですごくプラスになっていますね。 - 大岩
- それに、ジャイロ(※25)を使った
操作もすごくいいですよね。
青沼さんが先日公開されたプレイ動画で
ミニゲームの射的場を遊んでいたじゃないですか。
ジャイロ=ニンテンドー3DSやNewニンテンドー3DSに内蔵されている、傾きの角度や回転速度を認識する機能のこと。
- 青沼
- あー、はい。
「タルミナ探訪」(※26)ですね(笑)。
「タルミナ探訪」=「青沼英二のタルミナ探訪」。YouTubeの公式チャンネルで公開中のプレイ動画。青沼が同ソフトに収録されたミニゲームに挑戦する様子をシリーズで公開している。
- 大岩
- たった3回目でパーフェクトを出したでしょう。
そのとき「よしっ!」って叫びましたから(笑)。 - 青沼
- あれは自分でやっててもビックリしました。
そもそもN64版のときは
パーフェクトなんか出せなかったですから。 - 岩田
- ジャイロとの相性もいいんですね?
- 青沼
- そう思います。
3DSのジャイロ操作はとても安定していますし、
グレッゾさんのタイミング調整の見事さが、
3回目でのパーフェクトに結びついたと思います。 - 大岩
- 弓矢の調整もかなりやりましたからね。
なので「調整がうまくいったぞ」という意味での
「よしっ!」でもあったんです(笑)。