『新・光神話 パルテナの鏡』
1. わたしの“作風”
- 岩田
- まず、完成おめでとう。
- 桜井
- ありがとうございます。
- 岩田
- このインタビューの前に、
製品版を遊ばせてもらったんですけど、
以前に『スマブラDX』や『スマブラX』(※1)を
初めて遊んだときと同じように、
圧倒的な豪華さと物量感が伝わってきました。 - 桜井
- はい。
『スマブラDX』や『スマブラX』=『大乱闘スマッシュブラザーズDX』(ゲームキューブ用 2001年発売)と、『大乱闘スマッシュブラザーズX』(Wii用 2008年発売)のこと。『スマブラ』とは、『大乱闘スマッシュブラザーズ』のことで、1作目の『ニンテンドウオールスター! 大乱闘スマッシュブラザーズ』は、1999年に、NINTENDO64用ソフトとして発売され、これまで全3作が発売されている。
- 岩田
- 今回の『パルテナ』は、
大きく分けて2通りのモードがあるんですよね。 - 桜井
- そうです。
1人用のストーリーモードと、
最大6人までの対戦モードが入っています。 - 岩田
- その対戦モードの映像を見て、
「『スマブラ』を3Dにしたらこうなるのか」
というふうにも感じました。
展開がスピーディに変わるところとか、いろんな意味で。 - 桜井
- そういう人も少なくないですね。
今回の「ニンテンドーダイレクト」(※2)に用意した
対戦の映像を初めて見た人のなかには、
めまぐるしさに面食らった人もいるのではないかと思います。
今回の「ニンテンドーダイレクト」=2012年2月22日放映の「Nintendo Direct」。「Nintendo Direct」とは、任天堂の新情報を直接お届けする、インターネットプレゼンテーションのこと。
- 岩田
- 実際、『スマブラ』というゲームも、
どのような遊びなのか、いまでこそ多くの人に
理解してもらえるようになりましたけど、
最初にNINTENDO64で発表したときから、
すぐに伝わったわけではなかったですよね。 - 桜井
- 似て非なるものは、誤解を受けがちです。
だから、今回の『パルテナ』の対戦も、
同じように誤解されるのが心配です。
FPS(※3)のようなルールですが、
標準的なFPSの操作系が10を超えるのに対し、
本作は3つしかないわけですし。
FPS(ファーストパーソンシューター)=3D空間を自分(一人称)視点でプレイするシューティングゲーム。
- 岩田
- 今回の『パルテナ』は、スライドパッドとLボタン、
それにタッチペンだけで操作できるんですよね。 - 桜井
- はい。
スライドパッドで移動、
タッチペンで照準、Lボタンで攻撃です。
照準が出ていることはFPSと共通していますが、
本質はもっと異なるものです。
プレイしてみれば、「理にかなった操作だ」と
感じていただけると思います。
- 岩田
- 『スマブラ』が出た当時も、
独特の駆け引きがあるにもかかわらず
それまでの格闘ゲームの文脈で比較されて、
「取っつきはいいけど大味で浅い」
という声もありましたよね。
だから、なんとか本質を理解してもらいたいと思って、
ゲームが発売されてからも、粘り強く魅力をお伝えしようと、
「スマブラ拳!!」(※4)をはじめたり、
理解してもらえそうなゲームメディアの記者の方を訪ねて
説明したりしていたのが、
わたしが任天堂に移籍する前の1999年・・・。 - 桜井
- もう10年以上も前になります。
「スマブラ拳!!」=ディレクターの桜井政博さんが自ら、『スマブラ』の操作方法や楽しみ方、さらにステージやキャラクター紹介などを解説していた公式サイト。
- 岩田
- あの当時は、ネットを通じてお伝えするということが
いまのようには広がりをみせていませんでしたし、
しかも『スマブラ』というソフトが
それまでのゲームの文法に一見似ているようで、
そうじゃなかったから、
それを伝えることの難しさがあったわけで。 - 桜井
- そうなんですよね。
- 岩田
- だから、『スマブラ』が
多くのお客さんたちに広がっていくまでに
かかった時間とエネルギーというのは、
けっこう大きいものでしたよね。 - 桜井
- はい。まあ、その代わりに、
裾野が広がったのでよかったんですけど。 - 岩田
- 確かにね。
- 桜井
- でも、これもわたしの“作風”なので、
そろそろ理解してくださる方も
増えてきているんじゃないかな、
とは思うんですけど・・・。 - 岩田
- わたしの“作風”というのは?
- 桜井
- 『スマブラ』だけじゃなく、
『カービィのエアライド』(※5)や『メテオス』(※6)なども
みんなそうでしたから。
『カービィのエアライド』=2003年7月に、ゲームキューブ用ソフトとして発売されたアクションレースゲーム。
『メテオス』=2005年3月にニンテンドーDS用ソフトとして、バンダイ(現バンダイナムコゲームス)から発売されたパズルゲーム。
- 岩田
- 噛めば噛むほど、
いろいろ出てくるみたいなことですか? - 桜井
- いえ、それよりもまず、
ルールが既存のものと変わっているので、
とくにゲームに詳しい人が
最初に違和感を覚える場合があるようです。 - 岩田
- ちょっと触っただけでは、
面白さがすぐに理解してもらいにくい、
ということですか? - 桜井
- はい。
自分ではぜんぜんそんなつもりはないんですけど、
最初のハードルが1個あるみたいなんです。
もちろん、人によって受け取り方とか
好みはあると思うんですけど。 - 岩田
- それは、桜井さんがゲームの仕組みを考えるとき、
既存のゲームの流れをそのまま使うのではなく、
ひねりや変化を加えたりするからですか? - 桜井
- ひねりや変化というよりも、
自分では“分解と再構築”のつもりなんです。 - 岩田
- “分解と再構築”ですか・・・。
つまり、既存のゲームの要素をバラバラに分解して、
桜井さんのなかで再構築する、ということですね。 - 桜井
- そうです。
たとえば格闘ゲームやパズルゲームなど、
ゲームにはいろいろなジャンルがありますけど、
それぞれに“面白いものの核”があると思うんです。
そこで、その“面白いものの核”の周りにある、
要らないものをまず取っぱらってみるんです。
- 岩田
- それが“分解”。
- 桜井
- はい。そしてそのあと、
“面白いものの核”を別のところに置いて、
また周りをつくっていくという感じに近いです。 - 岩田
- “再構築”するんですね。
- 桜井
- そうです。
- 岩田
- では、今回の『パルテナ』をつくるにあたって、
どんな“分解と再構築”があったんですか? - 桜井
- それを説明するのは難しいです。
というのも、いくら言葉を並べても、
実際に触ってみないと
わからないところがありますから。 - 岩田
- そうですか・・・。
じゃあ、みんなが知ってるゲームということで、
あえて『スマブラ』や『エアライド』、
『メテオス』を例にとったら、
“分解と再構築”を説明できますか? - 桜井
- ものすごーく、たくさんあることなので、
たぶん『スマブラ』の意図を説明しはじめたら、
本1冊、2冊はできるかなと。 - 岩田
- ああ、それはそうでしょうね(笑)。
- 桜井
- ・・・でも、とくに目立った要素を引っ張ってきて、
シンプルに話をすることはできるかなと思いますけど。 - 岩田
- そうそう、その方向でお願いします。
- 桜井
- あの・・・そもそも『スマブラ』をつくったのは、
2Dの格闘ゲームに対するアンチテーゼだった、
ということは、以前お話ししましたよね?