『新・光神話 パルテナの鏡』
2. それぞれの“分解と再構築”
- 岩田
- 社長が訊く『スマブラX』で
そういう話をしましたね。 - 桜井
- 格闘ゲームというと、どうしても
通りいっぺんのコンボを決めて、
という感じがあって・・・。 - 岩田
- だから、コンボをうまく発動できる人が
どんどん強くなる、みたいなかたちで
格闘ゲームは発展してきたんですよね。 - 桜井
- でも、自分は学習までには至らない、
格闘ゲームならではのアドリブ性みたいなものが、
わりと好きなんです。 - 岩田
- でも、プレイヤーとしての桜井さんは、
コンボを発動するような遊びも
すごく上手に遊んでいたじゃないですか。 - 桜井
- いえ、自分は簡単なコンボしか出せないんです。
もし、岩田さんに自分がうまいと見えていたとしたら、
それは相手との読み合いに勝っていただけなんです。 - 岩田
- あ、そうなんだ。
- 桜井
- 最近も、新作の格闘ゲームを遊んでみたんですが、
そのなかにコンボのプラクティスモードが入っていて、
いくら練習しても、16くらいあるうちの
5つくらいしかできませんでした。
これ、本当の話で、
「いまの格闘、無理!」って思いましたから。
まあ、自分がもう若くないということもありますが。 - 岩田
- (笑)
- 桜井
- でも、それは昔から感じていたことで、
そのように特定のコンボを綱渡りのように
決めることを求めるよりも、
アドリブ性を出すためにはどうしたらいいか、
ということを考えるようになったんです。
- 岩田
- そのアドリブ性こそが、桜井さんにとっての
格闘ゲームの“面白いものの核”だったんですね。 - 桜井
- そうです。ですから、毎回戦うたびに、
敵のリアクションが異なるようにし、
お決まりのコンボより、そのときの状況を重視する。
それが「
蓄積ダメージ」のアイデアの元になっています。
- 岩田
- 「蓄積ダメージ」がたまって、
相手をふっとばすことができるアイデアの元には
そういう理由があったんですか? - 桜井
- あれっ? これ前に話しませんでしたっけ?
でもじつは、すごく単純なことなんです。
格闘ゲームというと、特定のコンボを決めていく
イメージがありますけれど、
アドリブ性が好きな自分はむしろリアクションが
毎回変わったほうが楽しいのでは、と考えました。
その考えが「蓄積ダメージ」の根っこになっています。 - 岩田
- それは、そうすることによって、
局面が変われば最適な答えが変わるから、
それを考えてアドリブを効かせたり、
上手じゃない人もガチャガチャするときの
偶発性を含めて、アドリブ感が増して、
局面の変化が大きくなっていく、
ということですか? - 桜井
- そうです。
- 岩田
- いまはきっと、
みんなが体験したあとだから、
「『スマブラ』はそういうゲームです」
と言われると、わかってもらえると思うんです。 - 桜井
- はい。
- 岩田
- だけど、体験する前にこの話を聞いて、
「わあ、面白そう!」
とはなかなか言ってもらえないんですよね。
- 桜井
- まあ、そうですね(笑)。
- 岩田
- 『カービィのエアライド』をつくったときは、
どのような“分解と再構築”があったんですか? - 桜井
- やっぱりアクセルの概念とか、
ドリフトの概念とか、
まずはそういうことから考えました。 - 岩田
- レースゲームですからね。
- 桜井
- そうです。
なぜドリフトが気持ちがいいか、とか。 - 岩田
- そのとき、どういう結論になったんですか?
- 桜井
- ドリフトが気持ちがいいのは、
「そこにリスクがあるから」と考えました。
普通にグリップ走行しているほうが、
タイヤが滑らずマシンも安定して
リスク少なく走れるんですよね。
しかし制御が効かなかったり、
それによりコースアウトする危険があっても、
そこをあえてドリフト走行することで、
きれいに乗り切ったときは、すごく気持ちがいいと。 - 岩田
- あえてリスクを冒しても気持ちいいとか、
速く走れるというリターンがあるんですね。 - 桜井
- そうです。
『エアライド』の発想は、
まずドリフトが根っこにあります。 - 岩田
- アクセルのボタンのない、
『エアライド』操作の仕組みは
とてもユニークでした。 - 桜井
- Aボタンがアクセルではなく、ブレーキ。
ユニークだから理解されにくい
ところもありましたが(笑)。
- 岩田
- レースゲームというのはずっと、
アクセルとブレーキとハンドルで成立していたものを、
そうじゃなくしたわけですからね。 - 桜井
- でも、何も奇をてらって、
アクセルとブレーキの仕組みを
逆にしたわけではないんです。
これは宮本(茂)さん的な考え方なのかもしれないですけど、
そもそも宮本さんは、
自分で操作してみて気持ちがいいから、
ということで、ボタンを割り振られますよね。 - 岩田
- はい、宮本さんが操作方法を決めるときは、
自分で触ったときに、操作と感覚が一致するかどうかを
とても大事にしていますよね。 - 桜井
- 『エアライド』では、
ブレーキは単にブレーキではありません。
普段浮いているマシンに対し、
身を縮めて床にこすりつけるようになっています。
これは「プッシュ」と言うのですが、
ボタンをグッと押すと減速します。
しかし同時にパワーがチャージされるようになっていて、
ボタンをパッと放すと、
力が解放されて、
一気にダッシュするようにしたんです。
- 岩田
- カーブでプッシュすると、
気持ちよくドリフトを決めることもできましたよね。 - 桜井
- そうです。一般的なレースゲームとは
真逆の操作方法にしたんですけど、
どうしてそうしたかというと、
それが「押し込む」感覚に合っていたからなんです。
ただ、それがお客さんに最初からうまく伝わったかというと、
そうではないかもしれないです。 - 岩田
- そこはやっぱり、体験した人と、そうじゃない人とで、
受け止め方に大きな違いがあったということですか? - 桜井
- ハマる人はすごく喜んでくれます。
でも、体験した人でも、
最初に触って「いつもと逆だからやりにくい」と
思った人もいるかもしれません。 - 岩田
- 自分の遊んできたゲームとは、
明らかに操作性が反対ということになりますからね。 - 桜井
- でもその一方で、
「次回作をぜひつくってほしい!」という声も多くて、
とことん楽しんでくださった
ファンの方も多いんです。 - 岩田
- だから、桜井さんの“作風”でもある、
「最初のハードル」をうまく越えることができれば、
その面白さにどっぷり浸かることができる、
ということなんですね。
- 桜井
- 同ジャンルのゲームの枠で見ると
違和感があるかもしれませんが、
すべて意図しているものだし、それによって
生まれる楽しみもあるのですよね。 - 岩田
- 『メテオス』のときはどうでしたか?
- 桜井
- これもまた“リスクとリターン”の話になるんですけど、
「パズルゲームのリスクとは何か?」ということを
考えてつくられています。
一般的にパズルゲームって、
上からどんどんブロックが落ちてきて、
大きく積み上がったものを
一気に消すと気持ちいいわけですよね。 - 岩田
- はい。
- 桜井
- ブロックが積もっている状態は
ゲームオーバーの一歩手前で
リスクが大きい状態だから、
それをまとめて消せれば気持ちいいと。
で、そのとき着目したのは、
積み上がったブロックを消す方法だったんです。
そもそも「消さないとダメなのか?」という
疑いからスタートしています。 - 岩田
- それまでのパズルゲームは
長い棒をはめて消すとか、
色をそろえて消すというのが一般的でしたが、
そうじゃない方法もあるんじゃないか?
ということですね。 - 桜井
- そうです。積み上がったものを
その場で消すのではなく、
打ち上げてしまおうと。 - 岩田
- どうして打ち上げになったんですか?
- 桜井
- そのときに考えたのは、反力でした。
- 岩田
- 反発する力ですか?
- 桜井
- はい。つまり、相手の押し込む方向に対して
自分が逆の方向に押し込んで抵抗するということは、
パズルゲームにも使えるのではないか、
ということを考えたんです。
最初の頃は爆弾で消すようなことも
考えたんですけど、
よりまとめて消すには
いっしょに持ち上げる・・・
つまり打ち上げたほうがいいだろうと思って、
そうやって『メテオス』をつくりました。