『新・光神話 パルテナの鏡』
3. ゲーマーが喜んでくれるゲームを
- 岩田
- 桜井さんと「ゲームとは何か」という話をすると、
そのなかに共通して、
“リスクとリターン”の話が出てきますよね。 - 桜井
- そうですね。
- 岩田
- これはすごく昔のことなんですけど、
まだ山梨にいた頃(※7)、桜井さんが、
“リスクとリターン”の考え方について
社内で説明してくれたときのことは、
そのときの景色も含めて、
自分のなかで、すごく強い印象として残っているんです。 - 桜井
- あ、はい。
山梨にいた頃=岩田と桜井政博さんは、共に株式会社ハル研究所に在籍経験があり、山梨開発センターにて『星のカービィ』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』などのタイトルを制作。
- 岩田
- ホワイトボードに『インベーダー』ゲーム(※8)の絵を描いて、
『インベーダー』というゲームは
インベーダーの下に砲台を持っていって撃たないと、
相手をやっつけられない。
でも、相手の下に行くということは、
相手が撃つミサイルにやられるかもしれないリスクがある。
でも、リスクがあるからリターンもあるので、
この“リスクとリターン”の関係をどうするかで、
ゲームの駆け引きはだいたい説明できる、
という主旨の話をしてくれて。
そのとき、ものすごく納得したのを覚えています。
『インベーダー』ゲーム=『スペースインベーダー』。1978年に登場したアーケードゲーム。
- 桜井
- まぁ・・・いわゆるゲーム性と
“リスクとリターン”というのを、
わたしはよく結びつけるんですけど、
ゲームの楽しさはそれだけではない、ということも、
じつは自覚しているんです。
多くの人というのは、ゲーム性というのを
求めていないのではないか、とか。
そこはよく考えないといけないなあと、思っています。
- 岩田
- でも、いまでもいろんなことを考えるときに、
あのときの話は自分がゲームについて考える、
ひとつの基準になっています。 - 桜井
- そうなんですね。
ありがとうございます。 - 岩田
- ところで、
初代『パルテナ』(※9)
ディスクシステムで発売された当時、
桜井さんは自分で遊んでいたんですか?
初代『パルテナ』=『光神話 パルテナの鏡』。1986年12月に、ディスクシステム用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
- 桜井
- もちろん言うまでもなく(笑)。
- 岩田
- ですよね(笑)。
その当時、学生だった桜井さんにとって、
『パルテナ』はどういう位置づけのゲームでしたか? - 桜井
- 『パルテナ』って、やっぱり、
あんまりマジメじゃないんですよね。 - 岩田
- はい(笑)。
- 桜井
- あの年は『ゼルダの伝説』が出て、
『ドラクエ』が出て、
『メトロイド』が出てという・・・。 - 岩田
- 1986年は豊作の年でした。
- 桜井
- わたしのようなゲーマーにとっては、
まさに夢のような年だったんです。
そんななか、1986年の年末に
初代の『パルテナ』が登場してきたんですけど、
やっぱり特殊でした。
他のゲームがかなりマジメに悪と戦っている印象があるなかで、
とても人を食っているような感じがしたんです。
ギリシャ神話を舞台にしているのに、
クレジットカードが出たりとか(笑)。 - 岩田
- ナスビが出てきたりとか(笑)。
- 桜井
- そうです。そういう、いいかげんなところが
『パルテナ』の筋なんだなあと思いまして、
そのような要素は本作でも
いろんなところに盛り込んでいます。
ただ、単純に
ナスビ使いが出るから
ナスビをどんどん入れようという
オマージュ的な感じではなくて、
話の筋を大事にしながらも、
あまりシリアスになりすぎないようにしています。
たとえば主人公が「自分探し」をしない、とか。
- 岩田
- はい(笑)。
- 桜井
- 登場する敵も味方も明るく快活にしましたし、
ゲーム内は『スマブラ』に似たドタバタ感とか、
そういう雰囲気も出そうとしてつくりました。 - 岩田
- なぜ今回、『パルテナ』をテーマに選んだんですか?
- 桜井
- いちばん最初に岩田さんから依頼があったのは、
「オリジナルゲームをつくってほしい」
ということでしたよね。 - 岩田
- はい。Wiiの『スマブラX』が出たあとで、
同じシリーズをそのまま、すぐにつくることが、
わたしには正しいことだとは思えなかったんです。
それで「何かちょっと違うことをしようよ」
と言いました。それともうひとつ、
「今回はニンテンドー3DSという新しいハードができるので、
任天堂社内の開発チームがつくるものとは違うような、
何かお客さんにアピールできるものをつくってほしい」
という2つのリクエストを出しました。 - 桜井
- リクエストやさまざまな背景を考えた結果、
今回は
空中戦と地上戦が楽しめる、
シューティングゲームを企画しました。
同時に、いままでの任天堂のラインナップのなかで、
止まっているようなシリーズタイトルを
復活させることはできないか、とも思いました。
そこで、効果的なタイトルを考えたとき、
もともと主人公のピットは飛べない天使ですし、
魔法のような力で飛べるようになって、
地上に向かうというのが、
面白いんじゃないかと考えたんです。
- 岩田
- 空中戦と地上戦が、初代の『パルテナ』と
うまく結びついたんですね。 - 桜井
- そうです。
それに『スマブラX』でピットを復活させてから、
「新作は出さないの?」という声も多かったですし。 - 岩田
- E3(※10)のときなどにゲームメディアの取材を受けると、
「『パルテナ』の新作は?」と、
毎年のように聞かれていたんですよ。
E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、年に1度、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。
- 桜井
- で、わたしはしょっちゅう岩田さんに
ニンテンドー3DSで他に開発されている
ラインナップのことを聞いてましたよね。 - 岩田
- はい、しつこいくらいに何度も聞かれてました(笑)。
- 桜井
- もし仮に、自分が
今回つくろうとしているものに近い企画が
進行中であったり、
遊びが同じようなものが出てくるようであれば、
方向転換してもいいと思っていました。
- 岩田
- それくらい、桜井さんは
他とは違う役割を果たそうと考えていたんですね。 - 桜井
- わたしは最初、
ニンテンドー3DSではタッチジェネレーションズ(※11)のような
ライトユーザー向けの軽めのソフトが
たくさん出てくると思っていたんです。
だからわたしはゲーマーもしっかり遊べるような
ゲームをつくろうと思ったんです。
タッチジェネレーションズ=『脳を鍛える大人のDSトレーニング』や『英語が苦手な大人のDSトレーニング えいご漬け』などのゲームの知識や経験を問わないタイトル群のこと。
- 岩田
- ゲーマーがしっかりと遊びこんで、喜んでくれるゲームを。
- 桜井
- あと、対戦ゲームについては、
『スマブラ』もそうなんですけど、
わたしは駆け引きに対して
あまりウソをつきたくないんです。 - 岩田
- ゲーム全体ではドタバタ感を出しつつも、
対戦の駆け引きはマジメにつくるということですか? - 桜井
- そうです。
たとえば『マリオカート』だと、
トップで走っている人が、後ろの人から
いろいろなものを食らうことになりますよね。 - 岩田
- そのことによって、
「最後まで誰が勝つかわからない」という、
遊びになっていますね。 - 桜井
- それは方向性として、
とても正しいと思いますし、
自分がレースゲームをつくれと言われたら、
そうするかもしれないです。
けれども、『スマブラ』や、
今回の『パルテナ』の対戦では、
コンピューターが勝っている者を不利にするとか、
逆に負けている者を優遇するとか、
そういう要素はほとんどないんです。 - 岩田
- 確かに『スマブラ』も
相手にダメージがたまっていたりすれば、
弱い人でも強い人を
やっつけられることはありますけど、
長いレンジで見たら
強い人はちゃんと必ず結果を出しますからね。 - 桜井
- もちろん偶発性において、
弱かったキャラクターのたまたま近くに
強力なアイテムがあった、
ということは起こりえるのですが、
弱いキャラクターのそばに、
どんどん強いアイテムを意図的に
送り込むようなことはしていません。 - 岩田
- 誰もが平等に戦えるように、
公平な舞台を用意している、
ということなんですね。 - 桜井
- そうです。
でもなぜか初心者も上級者もいっしょに遊べるし、
腕の差にかかわらずいろんな対戦結果が出ます。 - 岩田
- それはどっちが正しいか、
ということではなくて、
どっちを選ぶかという、
選択肢の問題なんですよね。
- 桜井
- はい。『マリオカート』があのような遊びなので、
自分のところではこうする、というのに近いです。
上級者が初心者を
めった打ちにすることは避けたいですが、
コンピューターで上からハンデを与えるのではなく、
大きな変化の幅で補いたいです。
遊びの本質としては、
ガチで遊んでほしいと思っています。