『新・光神話 パルテナの鏡』
4. 「お客さんに選んでもらいたい」
- 岩田
- いま、桜井さんは
「ガチで遊んでほしい」とのことでしたけど、
そのために、どんな要素を入れたんですか? - 桜井
- 「悪魔の釜」が、
そのための工夫だと言えると思います。 - 岩田
- 「
悪魔の釜」というのは、
1人用で遊ぶときの難易度を
自分好みに調整できるシステムのことですよね。
それって、どういうふうに生まれたんですか?
- 桜井
- これもまた、“リスクとリターン”そのものという・・・。
- 岩田
- ああ、確かに「悪魔の釜」も、
“リスクとリターン”のシステム
そのものと言えますよね。 - 桜井
- まぁ、自分に対する賭け、ですね。
自分の腕前や「神器」の能力と難易度を
てんびんにかけて、
賭けをするような遊びなんです。 - 岩田
- 「神器」というのは、
このゲームのなかの武器のことですよね。 - 桜井
- はい。ただ、通常の武器とは違って、
キャラクターそのものなんです。 - 岩田
- 「神器」がキャラクターそのもの、なんですか?
- 桜井
- はい。たとえば『スマブラ』で、
マリオやリンクを選ぶのと同じようなものです。
つまり、戦闘スタイルに合わせて、
自分好みの「神器」を選ぶことができて、
しかも個別にスキルによる個性がついています。
- 岩田
- つまり、
どの「神器」を持つかによって、
それがプレイヤーの個性になるということですね。
- 桜井
- そうです。
で、「神器」にはたくさんの種類があるのですが、
より良い「神器」を得ようとすると、
「悪魔の釜」が重要になります。
このゲームでは難易度のことを
「ホンキ度」と呼んでいるのですが、
0.0から9.0まで選べるようになっています。
- 岩田
- 難易度を複数の段階から選べるゲームはよくありますけど、
このゲームは、その設定段階がちょっとアナログっぽいですね。 - 桜井
- 基本は2.0なんですけど、
そこからホンキ度を上げたり、
下げたりしようとすると、
お金がかかってしまうんです。 - 岩田
- え? お金がかかるんですか?(笑)
- 桜井
- いや、現実のお金ではなくって、
この世界では「ハート」と呼んでいまして、
敵をやっつけたりすると
もらえるようになっています。 - 岩田
- でも、普通は難易度を上げるのに、
ゲーム内のお金にあたるものを賭けることなんて、
めったにないですよね。 - 桜井
- わざわざハートを賭けるのは、
自らにリスクを課すという遊びですね。
そのかわり、ホンキ度を上げれば
賭けたぶん以上にもうかります。
より強い「神器」が手に入るので、
さらに高いホンキ度をクリアしやすくなっていきます。 - 岩田
- つまりハートをたくさん賭けると、
そのぶんリターンも大きくなるというわけですね。
でも、チャレンジに失敗するとどうなるんですか? - 桜井
- ミスをするたびに、
賭けたハートが「悪魔の釜」からこぼれてしまい、
ホンキ度が少し下がってしまいます。 - 岩田
- すると、リターンも小さくなるわけですね。
- 桜井
- はい。ただし、少しずつカンタンにもなるので
難しすぎて何度コンティニューしてもクリアできない、
という状況に陥りにくいです。
一方で、そういうリスクを冒したくないとか、
腕に自信のない人は
ホンキ度を2.0以下にすることで、
敵の攻撃がゆるくなるので、
どんどん先に進めます。
ホンキ度を0.0に下げればほぼ無敵。
たぶんどんな人でも操作さえできれば
最後までクリアできるようになると思います。 - 岩田
- つまり、ホンキ度を調整することで、
出てくる敵とか、
攻撃の強さが変化するんですね。 - 桜井
- そうです。
もちろん、ホンキ度を下げると、
手に入る「神器」の強さやハートは少なくなってしまいます。 - 岩田
- 自分の腕前と「神器」の能力をてんびんにかける
というのはそういうことなんですね。
でも、どうして「悪魔の釜」のシステムを
採用したんですか?
- 桜井
- 本質は上級者だけに喜んでもらうためのものではなくて、
うまい人でも、そうでない人でも、
誰でも遊べるようにしたかったからです。
人による腕の差はかなり広がっていますので。
やっぱりゲームって、チャレンジすることが
とても楽しいですよね。
なので、“リスクとリターン”というのは、
けっきょくのところ、
“チャレンジ”につながると思うんです。
お客さんに「どこに賭ける?」と問うことで、
自らに対するチャレンジを生んでいます。 - 岩田
- 大きなリスクにチャレンジすることで、
うまくいったときの喜びも
大きくなるということですね。 - 桜井
- はい。それが今作のいちばんのテーマで、
1人用でも、対戦でも、
チャレンジできる場をしっかり用意しようと。
ですからホンキ度を高められるようにしたのは、
初代の『パルテナ』が難しかったからではなく・・・。 - 岩田
- そうでした。
初代の『パルテナ』は、
難しさが半端ないゲームと言われていますよね。 - 桜井
- はい。
- 岩田
- 一般的にゲームというのは、
後半から難しくなっていくものなんですけど、
初代『パルテナ』は序盤からとんでもない難易度で、
ミスしたときに表示される
「ヤラレチャッタ」という文字を
序盤のステージから何度も何度も、
いっぱい見てる人がいるわけなんですよね(笑)。 - 桜井
- はい(笑)。
- 岩田
- でも、桜井さんのゲームづくりは
いつもそうなんですけど、
自分はゲームはやたらうまいのに、
初心者の人が最後まで行けるようにするためにはどうするか、
ということをすごく考えていますよね。
しかも、同時に上級者を満足させたいという気持ちも強い。
これ、いい意味で言うんだけど・・・本当に諦めが悪いんですよ。 - 桜井
- あ、そうですか。
- 岩田
- これ、他の人にない個性だと思っているんですよ、あんまり。
桜井さんは、この点については、どう考えているんですか? - 桜井
- たとえば宮本さんは、わたしと違って
お客さんが難易度を選べるようにすることに対しては、
反対派だったりしますよね。 - 岩田
- それは、「難易度については
ゲームのつくり手がベストを決めるべきもので、
お客さんに選んでもらうものじゃない」、
という意味ですか? - 桜井
- はい、キーコンフィグレーション(※12)なんかもそうです。
キーコンフィグレーション=操作するキーの割り当てを変更できる機能のこと。
- 岩田
- ああ、「キーコンフィグについては、
多くの人は初期状態で遊ぶはずなので、
ひとつ最も適切と思われる割り当てを作者が決めて、
責任をもってそれを押し出すべき」、
というのは宮本さんの思想としてあるかもしれないです。 - 桜井
- でも、わたしはお客さんが選べる自由度は、
もうちょっと高いほうがいいと思ってるんです。 - 岩田
- それはある種、
ゲームに対するある部分の考え方としては、
宮本さんと違う流派にいるのかもしれないですね。 - 桜井
- ゲームによって多様性があったほうがよいと思うので、
違う流派にいるのはよいことなのでは。
自分は、「なるべく多くの人が、
自分の好きなように遊んでほしい」、
というのが強いんだと思います。
- 岩田
- それは「お客さんに選んでもらいたい」
という気持ちが強いということなんですかね。 - 桜井
- そうです。
なので、今回の『パルテナ』も、
いろんな要素が入っていてかなり骨太に遊べますが、
1章から最後の章までサラッと遊ぶだけで
「ああ、よかった」で終わる人がいてもいいと思うんです。 - 岩田
- ホンキ度を下げて、ということですか?
- 桜井
- はい。敵をばんばん楽に倒しながら、
ピットとパルテナたちの掛け合いや、
いい音楽を聴いたりしながら、
「ああ、楽しいなぁ」という、
そんな楽しみ方もオススメしたいんですね。
でもその一方で、ホンキ度を変えながら、
同じ章を何度も遊んだり、
「神器」を換えたりしながら、
いろいろな攻略を楽しんでいくという、
そんなハードな遊び方をする人がいてもいいと思います。 - 岩田
- 「悪魔の釜」は、その意味で
幅広い遊び方ができることを目指して
つくりあげたシステムなんですね。 - 桜井
- でも、「悪魔の釜」というのは、
文字通り“悪魔のようなシステム”だったりもします。
自分で遊んでいても、ホンキ度をどうしても
上げたくなってしまいますから。 - 岩田
- それはリターンが大きいからですね。
- 桜井
- はい。ホンキ度を上げてうまく乗り越えると、
やっぱりうれしいんですよね。 - 岩田
- そこは“リスクとリターン”の関係が、
とてもうまく成立してるからなんでしょうね。
- 桜井
- 『モンスターハンター3(トライ)G』(※13)でも、
すごく難易度の高いG級とかに、
みんな果敢にチャレンジしてますよね。 - 岩田
- 今回の『パルテナ』でも、腕に自信のある人には、
ぜひ、ホンキ度9.0にチャレンジしてほしい、
ということですか? - 桜井
- いっしょではないですけど、
「難易度が高い=イヤだ」ということでは
ないということではないでしょうか。
ただしホンキ度9.0は理不尽すぎるような
難易度にまでは高めていません。
「神器」は強くし、「奇跡」のセットや攻略を
よく考える必要はありますが、
ぜひ挑戦してほしいと思っています。
『モンスターハンター3(トライ)G』=2011年12月にニンテンドー3DS用ソフトとして、カプコンから発売されたハンティングアクションゲーム。