『マリオカート7』
レトロスタジオとの共同開発 篇
2. まずはクラシックコースから
- 岩田
- 実際にレトロのみなさんにお会いして
森本さんの印象は変わりましたか? - 森本
- 変わりました。
実際にお会いしてみたら
「なんて陽気な方たちなんだ・・・!」
ってまずは安心しました(笑)。 - 岩田
- 『マリオカート』のことも
最初からすごく詳しかったんじゃないですか?
何しろ、任天堂のゲームをずっと好きで、
遊んできている方たちですからね。 - 紺野
- はい。本当に、めちゃめちゃ詳しかったです(笑)。
- 森本
- と、同時に『ドンキーコング リターンズ』と
『メトロイドプライム』シリーズ(※9)を
つくられていたということもあり、
「あのグラフィックはすごい!」
と僕は常々思っていたので、
本当に尊敬の念を持ってお会いしました。
『メトロイドプライム』シリーズ=『メトロイドプライム』(2003年・ゲームキューブ)、『メトロイドプライム2 ダークエコーズ』(2005年・ゲームキューブ)、『メトロイドプライム3 コラプション』(2008年・Wii)の3作。なお、『メトロイドプライム』と『メトロイドプライム2 ダークエコーズ』は、2009年にWiiでも発売されている。
- 岩田
- 石川さんはどうですか?
- 石川
- 最初、レトロさんにキャラクターやカートのデザインを
どうつくっているかを説明する機会があったとき、
「ここはこうしたほうがいいですか?」
という具体的な質問がその場で早速きたので、
ものすごい情熱を感じたんです。
「この方たちとならやっていけるな」って確信しました。 - 岩田
- 最初はレトロさんから任天堂に来ていただいて、
そのあとレトロさんへごあいさつに行ったんですよね。 - 紺野
- そうです。開発がはじまったのが
『ドンキーコング リターンズ』がおわったあとで、
ちょうどクリスマスムードが漂う12月ごろでした。 - 岩田
- 本当はリラックスしているはずだったのにね(笑)。
- ライアン
- はい・・・とっても“よい”タイミングでした(笑)。
- 岩田
- ライアンさんは、そのときはじめて
日本に来たんですか? - ライアン
- そうです。
とっても楽しい経験でした。 - 岩田
- はじめての日本は、どんな印象でした?
- ライアン
- 緊張したんですが、すごくワクワクしました!
日本に行くのは長いあいだの夢でしたし、
とくに任天堂ゲームの長年のファンだったんです。
また、長年ゲームをつくりつづけている
任天堂の方々にお会いできたこともうれしかったです。
ゲーム開発に対する情熱をみなさんと話し合えたし、
わたしたちのモチベーションもどんどん高まっていったので、
本当によい出張だったと思います。 - 岩田
- 『マリオカート』は、
レースゲームとしての面白さを追求したコースデザインと、
いまの時代に満足できるようなビジュアルづくりと、
1秒60フレーム(※10)という限られた中で
バラエティ豊かな感じを表現するという、
すべてのバランスをとらなければならないところに
難しさがありますよね。
1秒60フレーム=1秒あたり、60コマの画像を使って動画を動かすこと。コマ数がふえるほど、映像がなめらかになる。
- 紺野
- そのとおりです。
- 岩田
- でもビジュアルをキレイに見せることと、
1秒60フレームで見せることは、矛盾することなんですよね。
これをどのように解いて、実現していったんでしょうか?
森本さんとトムさん、いかがですか? - 森本
- はい。その難しい課題を実現するために、
どのようにレトロさんとアプローチしていったかですが、
コースに関しては任天堂とレトロさんとで
半分くらいずつ制作したのですが、
まずは新コースをつくる前に
「
クラシックコース」(※11)という過去の16コースを
再現してもらうことからお願いしました。
その際、今回は
空中や海中を走るという
新要素が盛り込まれているので、
ただ再現するだけでなく、
「『マリオカート7』ならではの特徴を入れてください」
とお願いしたと思うんですが・・・そうでしたよね?
「クラシックコース」=過去の『マリオカート』シリーズに登場するコースの中から今作の遊びに合ったコースを、新たに再現したもの。
- トム
- ええ、そうでした。
過去のコースの再現からはじめたので、
後々の作業にすごく役立ちました。
というのも、われわれはニンテンドー3DSの開発経験がなかったので、
過去のコースをつくりながらツールや開発手法を学べたんです。
それにクラシックコースは
どれもいままで遊んできた経験があったので、
コースについての知識がありましたし。
また過去のコースをつくりながら
「どんなコースがレースゲームとして魅力的か?」
という勉強もできたので、ひいては新コースの
デザインにも役立ったかなと思います。
- 岩田
- クラシックコースからはじめたことで、
『マリオカート』の開発がはじめての方にも
慣れてもらうことができて、コースについても勉強できたし、
ニンテンドー3DSのある種のクセなども学んでもらえたので、
非常に効率がよかった、ということですね。 - 森本
- はい。トムさんはすごく理解が早かったんです。
わずか2カ月足らずで、
アイテムボックスの置き方やコースの設計に関しても
「ここはこうしなくていいですか?」って
僕がうっかりしていたところを
逆に指摘してくれるぐらいでしたから。 - トム
- ありがとうございます(笑)。
わたしもプレイヤーとして面白いと感じることと、
デザイナーとして面白いと感じることを
どのようにすりあわせてつくり込んでいくか、
ということを情報開発のみなさんから学べて
すごく興味深かったです。 - 岩田
- 先ほどから話を訊いていると、
はじめて仕事をする相手・・・という感じは、
序盤ですぐに消えてしまっていますね。 - 森本
- そうなんです。
グラフィックについても同様で、
『ルイージマンション』(※12)の
クラシックコースをお願いしたときも、
短時間でびっくりするぐらいのクオリティのものを
ライアンさんがつくってくれたんです。
「ここまでやっちゃいましたけど、いいですか?」
「それはもう・・・ウェルカムです!」
って感じでした(笑)。
『ルイージマンション』=2001年9月、ニンテンドーゲームキューブ用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャーゲーム。
- 岩田
- もともと情報開発がつくった世界を
いまの時代に合わせて、より魅力的に提案するというのは、
ライアンさんにとってどんな感じでしたか? - ライアン
- 難しい課題だと思いました。
最初は『マリオカートDS』(※13)の
クラシックコースから取りかかったんですが、
われわれがとくに注意していたのは、
オリジナルの印象を変えずに3DS用に変えるということです。
じつはわたし、オリジナルの
ゲームキューブ版『ルイージマンション』の大ファンでしたので、
評価してもらえてすごくうれしかったんです(笑)。
最終的には『マリオカートDS』と
『ルイージマンション』を行ったり来たりしながら、
オリジナルの印象に近づけるように、
がんばってつくりました。
『マリオカートDS』=2005年12月、ニンテンドーDS用ソフトとして発売されたアクションレースゲーム。
- 岩田
- オリジナルの『ルイージマンション』と
『マリオカートDS』を往復しつつ、
「ルイージマンションが脳内でどう見えてほしいか?」
ということをイメージしながら、
それに近づけるようにつくっていったんですね。 - ライアン
- そうです。
それにはバランスが重要だと感じていました。
オリジナルのゲームキューブ版に登場する
ルイージマンションにイメージを近づけたいんですが、
『マリオカートDS』でコースとして登場した
ルイージマンションの印象を残すことが大切なので、
つねにいき過ぎてしまわないように、
ということを心がけていました。
- 岩田
- あくまで『マリオカートDS』に出てきた
ルイージマンションのクラシックコースなので、
『マリオカートDS』から離れすぎちゃいけない。
でも、時代に合わせてキレイにしなきゃいけないという、
バランスが重要なんですね。 - ライアン
- はい。実際の開発方法としては
各コースにひとりデザイナーをつけて、
わたしと共同作業をすることによって
オリジナルコースからイメージが離れすぎていないか、
話し合いながら進めました。
それから毎週、開発の進捗状況を送っていたんですが、
森本さんたちのフィードバックが
とても貴重なアドバイスで、随分助けられました。 - 森本
- ありがとうございます!
そう言ってもらえて、いま、ホッとしました(笑)。