『マリオカート7』
レトロスタジオとの共同開発 篇
3. 「意識をつなぐ」
- 岩田
- では今度はキャラクターの視点からお訊きします。
石川さんは、どんなやりとりをレトロさんとしたんですか? - 石川
- まず、さまざまな体型のキャラクターが
すべてのカートに乗れるように、
仕組みづくりからはじめました。
さらに今回、「空を飛ぶ」という新機能があって、
カートの上にグライダーが付くんですが、
グライダーにキャラクターの頭を
ぶつけないようにしなければいけないんですね。
それに加えて、キャラクターが生き生きと動く必要があります。
コースの走り具合や、アイテムを投げたときの手ごたえ、
クラッシュしたときの動作など、制限のある中で、
キャラクターをどうやって生き生きとさせるかを、
レトロさんにアニメーションをつくってもらいながら
ディスカッションを重ねて進めていきました。
- 岩田
- それ・・・なかなかの無理難題に思うんですが、
ヴィンスさんはこの問題にどう立ち向かったんですか? - ヴィンス
- はい(笑)。
確かに大きなチャレンジでした。
いろんな大きさのキャラクターがいるから、
動作を大きくしすぎると
グライダー部分から頭が突き出てしまったりするので・・・。
でも、石川さんと調整していく作業は
とても楽しかったです。 - 岩田
- 結果的にはものすごく自然に、
キャラクターたちが生き生きと動いているんですが、
それを実現するためには
いろいろな問題を乗り越えていたんですね。 - 石川
- はい。さらに今回も
ジャンプアクション(※14)の仕様を
入れることになって、
それを実現するときは流石に頭を抱えました(笑)。
ジャンプアクションは、通常よりも
より派手な動きをさせる必要があるんですが、
その時点ですでに、グライダーに頭がつきそうなほど、
ギリギリの動きだったんです。
ジャンプアクション=『マリオカート』シリーズのレース中のアクションのひとつ。ジャンプ時のアクション操作で、着地時にダッシュできる。
- ヴィンス
- 石川さんには、細部にわたるディテールまで
指摘してもらって本当に感謝しています。
キャラクター制作についても同様で、
キャラデザイナーと一緒に調整をして
完璧だと思ったものを石川さんに最終確認してもらうと、
「ひとつ、ここを直してください」と
チェックが戻ってくるんです。
そのたびに「ああ、ひとつ逃したか!」と
そのキャラデザイナーと言っていました。
- 岩田
- まるで情報開発チームの出張所が
テキサスにできたかのように、
最終的にものすごく一体感があるように感じますね。
一条さん、それが今回できたのはなぜだと思いますか? - 一条
- たぶん・・・最初の焼肉パーティーのお蔭だと思います(笑)。
- 一同
- (笑)
- 一条
- それに、レトロさんも『マリオカート』が大好きで、
熱い思いがあったことが、互いに同じ方向を向いて
進めていけた理由かなと思います。
- 岩田
- 一条さん、それって『ドンキーコング リターンズ』が
うまくつくれたときと、よく似ていますね。 - 一条
- あ、そうですね。まったく同じですね。
- トム
- ただ、一条さんがいなければ、このプロジェクトは
これほどうまく進められなかったと思います。
まだ3DSのツール説明が日本語しかないときも
画面写真を撮って、ていねいにボタン説明をしてくれたり、
一条さんは、ただ通訳するだけではなく
われわれの気持ちや目指しているところを
適切に汲み取ってくれました。
わたしが途中でプロジェクトを離れたあとも、
新たに加わったビルさんも同じ印象でした。 - 一条
- あ、はい、ありがとうございます!
- 岩田
- 一般的には
「言葉を言葉に翻訳するものが通訳」
と思われがちですが、本当のところは
「意識をつなぐ」ことが大切なんですよね。
もともとレトロさんが『マリオカート』の面白さを理解し、
仕事にやりがいを感じてくれたこと、
焼肉パーティーで互いの不安が解けたこと、
そして毎週キャッチボールをしながら意識を共有していき、
共に問題を解決できたことが
うまくいった理由なんでしょうね。 - 一同
- (一同、うなずく)うん、うん。
- 紺野
- それからもうひとつ、うまくいった理由として
レトロさんにはレベルデザイン、
アートデザイン、アニメーションデザインという
3つのセクションがあるのですが、
そのバランスがとてもよかったと思います。
今回、レトロさんにはデザインパートをお願いしましたが、
一般的にアメリカのレベルデザイナーの方々は、
3Dツールを熟知されていて高いレベルで使いこなして、
コースを組み上げていく印象があります。
よく宮本さんが「箱や箱庭のようなものでもいいから、
まず動かして面白いか? を見極めよう」と言われますが、
それを実際につくるスタッフが
レトロさんにもちゃんといらっしゃるんです。
そしていろいろと考えながらアイデアを盛り込んでコースを制作します。
今回もつくっては壊しをくり返しながら、
本当に前向きに取り組んでもらえました。
- 岩田
- いまの話を訊いていると、
レトロさんと『マリオカート7』のチームが
ガッチリかみ合った要因は、レトロさんが過去に
『メトロイド』や『ドンキーコング』を
つくってきた経験がすごく活きているという感じがします。
トムさんはどう思いますか? - トム
- 確かに、任天堂の“遊びの哲学”を過去の経験で学んだことが、
今回の関係性を結ぶためのいいキッカケになったと思います。
情報開発さんが持つ哲学が、いままで仕事をしてきた
企画開発さんの哲学と同じだってことに気づいたとき、
まるで以前にも、情報開発さんとは
仕事をしたことがあるように感じられましたから。 - 岩田
- 田邊さんと紺野さんの“師匠”は同じ宮本さんですから、
ゲームのつくり方や考え方が共通していたんでしょうね。
レトロのみなさんとは、
ますます近い距離になったなぁという感じがしました。
日本のみなさんは打ち合わせで何回、
テキサスに行ったんですか? - 紺野
- 僕は1回、森本さんは2回、石川さんは1回です。
- 岩田
- それぞれ、テキサスの印象を訊いてみましょうか。
ちなみに一条さんは以前からよく知っているんですよね。 - 一条
- そうですね。
前からおつき合いがあるので
ここにおられる3名とは親しい仲ですが、
今回は現場の人たちと深く交流できたので
レトロさんと、より親密になる機会があってよかったです。 - 石川
- 僕は、情報開発チームの開発風景とはまた違って、
レトロさんのスタジオは、
ひとりひとりのスタッフの部屋がとても広いなあと感じました。
その中に趣味のものがいっぱい詰められていて、
とても楽しそうな開発スタジオでした。 - 森本
- 僕はステーキがとにかくおいしかったので、
「ここで暮らしていけるかも・・・!」って思いました。 - 岩田
- はい(笑)。
- 紺野
- わたしは、カラッとした気候で
気持ちよく仕事ができました。
ただ・・・田邊さんから「アルマジロがいるよ!」って
言われていたので探したんですけど、
残念ながら見つけることはできませんでした(笑)。