『マリオカート7』
社内スタッフ 篇
1. 「いっしょなんだ」
- 岩田
- 第2部は「社内スタッフ篇」ということで、
第1部で話題に挙がった矢吹さんにも来てもらいました。
紺野さんにも引き続き同席してもらいます。
では、お隣の矢吹さんから自己紹介をお願いします。 - 矢吹
- 情報開発本部制作部の矢吹です。
『マリオカート7』のディレクターを担当しました。
- 白岩
- 同じく制作部の白岩です。
プログラムディレクターを担当しました。
- 永田
- 同じく制作部の永田です。
音楽を担当しました。
- 岩田
- みなさん、今日はよろしくお願いします。
- 一同
- よろしくお願いします。
- 岩田
- まずはじめに、矢吹さん。
前回、レトロスタジオ(※1)のみなさんが、
「任天堂のスタッフたちと初顔合わせをしたとき、
矢吹さんの乾杯がすごく印象的だった」
という話をしていたんですが、
どんな話をしたのか、訊いてもいいですか?
レトロスタジオ=米国テキサス州オースティンにあるゲームソフト開発会社。1998年に設立され、『メトロイドプライム』シリーズや『ドンキーコング リターンズ』などの開発を手がけてきた。
- 矢吹
- (首をかしげながら)
いや、正直・・・あまり記憶にないんですが(笑)。
でも、「レトロと情報開発は、1つのチームになります!」
ということを言った覚えはあります。 - 岩田
- それが印象的だったんじゃないですか?
- 矢吹
- そうなんですかね。
- 紺野
- もしかすると、
矢吹さんの髪型にインパクトがあったんじゃないかな・・・?
というのは冗談で(笑)。
『マリオカート7』はどういうことを目指すゲームなのか、
矢吹さんがその場でプレゼンをしてくれたんですよ。
「『マリオカート』シリーズ(※2)は、
みんなでわいわい楽しむゲームなんです」ってところを
とくに強調して話していました。
一見、当たり前に思えることなんですけど、
「こういうコンセプトなんだ」って
きちんと最初に説明したんです。
そういうところが印象的だったんじゃないですかね。
『マリオカート』シリーズ=『マリオ』シリーズの世界を舞台にしたレースゲーム。1作目『スーパーマリオカート』は1992年8月、スーパーファミコン用ソフトとして発売された。今作はその7作目にあたる。
- 岩田
- ははあ、なるほど・・・。
矢吹さんは「『マリオカート』とは何ですか?」
と問われたら、どのように答えますか? - 矢吹
- “みんなでいっしょに遊ぶための、コミュニケーションのひとつ”
と答えます。
単なるゲームソフトというだけでなく、
日常のコミュニケーションのひとつになってほしいんです。 - 岩田
- これは先日のニンテンドーダイレクト(※3)の
動画「社長が訊く」インタビューで、
紺野さんが『マリオカート』を“対戦コミュニケーションツール”
と言っていたんですが、それと共通していますね。
ニンテンドーダイレクト=任天堂のゲームに関する新しい情報を、インターネット中継をご覧のみなさんに直接お届けする新しい試み。2011年10月21日に実施された。
- 矢吹
- はい。みんなが気持ちよく走れて、
誰でも1勝できる、3勝できる、優勝もできる・・・
そういうゲームにしておかなくちゃいけない。
そこが、ほかのゲームとは違うところかなと思います。 - 岩田
- 確かに、うまい人と下手な人がいっしょに遊んでも、
必ずうまい人が勝つわけじゃないのが
『マリオカート』なので、参加した人みんなが
それぞれの技量に合わせて楽しめなきゃいけないんですよね。
とはいえ、レースの結果は
アイテムの出方などの運・不運だけじゃなくて、
「自分がカートを走らせた結果」
と思えないといけないという、
そのバランス感覚が独特なゲームだと思いますね。
- 矢吹
- そうなんです。
たとえ負けたとしても
「楽しかった!」と思える何かを
得られるようにしてきたつもりです。 - 岩田
- 今回はデザインの半分くらいを
レトロさんといっしょにつくってきましたが、
プログラマーの白岩さんや音楽担当の永田さんは、
それについてどのように思いましたか? - 白岩
- 最初は少し心配したんです。
というのも、開発中にプログラマーとデザイナーは、
データを同時に変えなきゃいけないことがあって、
そこがかみ合わないと、作業が進められなくなるんです。
「データを直してほしい」とこちらが思ったとき、
レトロさんたちは寝ているわけで、
逆に向こうから質問があってもこっちは寝ています(笑)。
「本当に、いままでと同じサイクルでつくれるのか?」
と思っていました。 - 岩田
- おたがい物理的に離れた場所にいて、
しかも、はじめていっしょに仕事をする相手で、
ともなれば、はじめは不安になりますよね。 - 白岩
- でも、その点は向こうのエンジニアの方々が
しっかりサポートしてくれたんです。
プログラムやデータがおかしくなったときは
レトロさん側で作業がストップしないように
バックアップをしてくれたりとか。
いつもレトロさんと仕事をしている日本の任天堂スタッフにも、
データをどうやりとりすればいいのかを相談したりして、
結果的にはトラブルなく進めることができました。 - 岩田
- レトロさんと仕事をしてみて
新鮮な発見はありましたか? - 白岩
- もちろん発見もあったんですけれど、
「僕たちもレトロさんもいっしょなんだな・・・」
と感じることが多かったです。
国や文化の異なるアメリカの方々なので、
もっと僕たちとは感覚が違うと思っていたんですが。 - 岩田
- レトロさんは長年、
田邊(賢輔)さん(※4)たちと仕事をしてきたので、
任天堂が大事にしていることを
理解していただいているのも大きいでしょうね。
田邊賢輔=企画開発本部 企画開発部所属。これまで『メトロイドプライム』シリーズ(ゲームキューブ / Wii)、『ドンキーコング リターンズ』(Wii)などを担当。過去、社長が訊く『ドンキーコング リターンズ』に登場。
- 白岩
- そうですね。『マリオカート』の面白い部分や、
残しておきたい部分をレトロの方々がわかっていて、
「こうしたい!」というレトロさんからの提案も
「ああ、なるほど」と思えるものでした。 - 岩田
- 永田さんは海の向こうでつくられたデータがやってきて、
どういう気持ちでしたか? - 永田
- レトロさんが考えたコースについては、
定期的に開いていたテレビ会議に参加させてもらって、
「ここはどういうつもりでつくったのか」
という共通認識を持つようにしていたんですが、
それがすごく役に立ちました。 - 紺野
- 『マリオカート』の場合、
サウンドコンポーザーは、デザイナーやプランナーと
コースのイメージや世界観を話し合いながら
作曲をすることが多いんです。
今回は、アメリカの方々との共同作業だったので、
大変だったと思います。 - 岩田
- 社内スタッフと違って、
気軽に席まで聞きに行けませんからね。 - 永田
- あと、過去の『マリオカート』シリーズから
選りすぐりのコースを集めた「クラシックコース」ですが、
そこはプレイヤーとして、
BGMも昔のままのものを聞きたかったんです。
ですから、クラシックコースのBGMは
オリジナルの再現を第一に考えてつくりました。
コース自体もかつての雰囲気を大切にしつつ、
新しいものができたので、
そこが共感できてよかったなと思います。 - 岩田
- いろいろと新鮮な感じがあったんじゃないですか?
- 永田
- はい。いや・・・でも、
どちらかというとわたしも白岩さんと同じで・・・。 - 岩田
- 思っていたより同じ感覚だった、ということですか?
- 永田
- そうなんです。
新しいコースを遊んだときに、
どんな曲にしようか考えてからミーティングに行くんですが、
たいてい自分の考えと同じようなことを言われるんです。
「あっ、同じことを考えているんだ・・・」
と安心しましたから(笑)。 - 岩田
- 紺野さん、このゲームを何の前情報もなく遊んだとき、
「じつははじめて日米合作でつくったんです」
ということに、誰も気づかないでしょうね。 - 紺野
- そう思います。
本当にがっちり手を組んで作業をした感じですね。
たがいに制作したコースを遊ぶことで
いい刺激になったと思いますし、
本当によかったと思います。