『マリオカート7』
社内スタッフ 篇
2. すぐ楽しめるけど、奥は深い
- 岩田
- 紺野さんと矢吹さんは、
どれくらいの頻度でやりとりしていたんですか?
わたしは、今回はもともと矢吹さんにゴールのイメージがあり、
そこに向かって着実に進んでいった印象を感じていたんですが。 - 紺野
- そうですね。
基本的にはディレクターである矢吹さんに任せていました。
おたがい目標に対するブレもなかったですから。
わたしも常にプロトタイプをプレイしていましたし、
細かな部分は話し合いながら制作していきました。 - 矢吹
- やはり新しい要素がいくつかあるので、
いままでのシリーズの要素をすべて引き継ごうとすると
データがあふれてしまうんです。
だから過去の要素をいくつか入れずに進めるんですが、
紺野さんに、たとえばジャンプアクション(※5)や
コンピューターの強さなど、
「これは入れたほうがいい」と
アドバイスをいただきました。
ジャンプアクション=『マリオカート』シリーズのレース中のアクションのひとつ。ジャンプ時のアクション操作で、着地時にダッシュできる。
- 紺野
- 遊んでないとわからないこともありますし、
内容を理解していなければ話し合うこともできないので、
完成するまで何千回とプレイするんです。
遊びながら、彼らの話に聞き耳を立てている・・・。
そんなイメージでした(笑)。
- 岩田
- ふだんは一歩離れて見ているけれど、
気持ちとしては当事者のままで、
『マリオカート』と接していた感じですかね。 - 紺野
- そうですね。
宮本(茂)さんからも、
「プロデューサーという立場といえども、
ディレクターと同じレベルで商品を見なければならない」
と言われていますし、ただ任せるというだけではなくて、
きちんとサポートしたいと思っていました。 - 岩田
- さっき矢吹さんが、
「過去シリーズの要素を全部引き継いだら
新しいことが入らない」と言ってましたけど、
引き継げてないことが見当たらないくらい網羅されているし、
新しい要素もたくさん加えられている印象ですよね。
「よくこの時間の中でこれだけ入ったなぁ・・・」
と感心するくらいなんです。
過去のシリーズから引き継がれたもののほかに、
今回はどのような要素が新しく足されたんですか? - 矢吹
- すぐ楽しめるけど、奥は深いものにしたくて、
結果的にできたのが、“空を飛ぶ” “水中にもぐる”、
“コイン” “マシンのカスタマイズ”・・・などですね。 - 岩田
- 今回の『マリオカート』は
グライダーを使って空も飛べるし、
水中も走れるんですよね。
このアイデアは、早くからあったんですか? - 矢吹
- はい、最初からありました。
むしろ、チーム結成前からそういうことを考えていたので。
はじめに『マリオカートWii』(※6)を改造して、
ふわふわ走ったり飛んだりするカートを用意してから
プレゼンをした覚えがあります。
『マリオカートWii』=2008年4月、Wii用ソフトとして発売されたアクションレースゲーム。
- 紺野
- カートがゆらゆら揺れているものを持ってきて、
「これ、水中みたいじゃないですか?」
「水中走ったら楽しそうですよね?」と
実際に動かして見せてくれたんです。 - 岩田
- ああ、そうだったんですね。
いままで水は障害物としてとらえられていたので、
今回みたいな活かし方は画期的ですよね。
これは誰でも遊べば「楽しい!」と思えるし、
楽しいコミュニケーションが成立しそうです。
「コイン」と「カスタマイズ」は、
どのような要素なんですか? - 紺野
- 今回の『マリオカート7』では、
コインという概念を復活させています。
初代『マリオカート』では、コース中のコインをとると
少しずつマシンが加速していくんです。
クラッシュするととったコインがバラバラ落ちるんです。
じつは、コインについては宮本さんが
以前からこだわっていたところだったんですが、
あるとき、その仕様がはずれてしまったんです。
- 岩田
- どうしてですか?
- 紺野
- 優先順位の関係でどうしても入らなかったんです。
けれど今回は、処理が厳しいにもかかわらず、
コインを出す、という設計をしました。 - 矢吹
- はじめから入れておけば、
(プログラマーの)白岩さんたちも大丈夫だろうと・・・。 - 白岩
- 僕もコインは復活させたかったんですが、
過去のシリーズでは開発の終盤に入れたいという相談が来て、
ほかの作業との兼ね合いで入れられなくなってしまっていました。
だから今回は最初からプログラマーに、
「実験がてらコインをつくっちゃって!」
と置いてもらいました。 - 岩田
- 「最初から入れておけば大丈夫」という
矢吹さんの読みと、白岩さんのアプローチが
パチッとはまったんですね。 - 矢吹
- そうですね。いま振り返れば
必要不可欠な要素になっていると思います。
空中や水中は障害物が少ないので、
「退屈な時間が生まれてしまうかもしれない」
と心配していたんです。
でも、コインが浮いていることで、
それをとる楽しみができました。
- 紺野
- 加えて「
カスタマイズ」ですね。
今回は、「カスタムパーツ」の組み合わせで
マシンの性能が変化します。
カスタムパーツは、コインを集めていくと
手に入れられるんです。
- 岩田
- なるほど、コインはそこにつながっていくんですね。
やはりカスタムパーツの組み合わせで、
レースの有利さが変わりますよね。
みなさんはその辺りを工夫するものなのでしょうか? - 紺野
- 好みによるみたいです。多少の性能はさておき、
「自分はこの組み合わせで走りたい」
ということもありますし、とことん理詰めで考えて
「これが速いに違いない」と遊んでいる人もいますね。 - 矢吹
- この組み合わせは、陸上では確実に速いけれども、
水中に入ると少し不利になる、
ということもありますので、
工夫のしがいがあると思います。 - 岩田
- カスタマイズは、
すれちがい通信(※7)とも関係があるんですよね。
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。
- 白岩
- そうです。すれちがい通信をした人に
自分の好みのカスタマイズを見せられるんです。
僕は雲のカートにジュゲムを乗せて走るのがすごく好きで、
ずっとそれに設定してみんなに振りまいているんですよ。
この組み合わせが速いというわけではないんですけれど、
「これいいでしょ!? かっこいいでしょ!?」という感じで(笑)。 - 紺野
- 逆に、相手のパーツがほしいと思ったら、
戦って勝てばいいんです。
このすれちがい通信については、
またあとで詳しくお話ししたいと思います。 - 白岩
- ただ速いだけではなくて、
似合う組み合わせ、かっこいい組み合わせがあるので、
それを探してほしいですね。 - 矢吹
- みんな、ファッション感覚で
パーツを使うんじゃないかな、と思っています。 - 岩田
- つまり、対戦コミュニケーションツールとしての
自己表現方法のひとつ、というわけですね。 - 紺野
- はい、そうです。