『スターフォックス64 3D』
4. 幻の『スターフォックス2』
- 岩田
- では、
N64版の『スターフォックス』(※16)の話に入ります。
N64が出た当時、宮本さんからすれば、
機械の性能がどんどんあがって、
世の中は3Dポリゴン時代になっていき、
スーパーファミコンの『スターフォックス』では
やろうと思っていても、できなかったことが
N64ではかなりできそうな手ごたえがあって、
「よし、じゃあ、やるべし」となっていったんですよね。
- 宮本
- そうですね。
N64版の『スターフォックス』=『スターフォックス64』。1997年に、NINTENDO64用ソフトとして発売されたシューティングゲーム。『スターフォックス64 3D』の元となるソフト。
- 岩田
- その『スターフォックス64』で、
宮本さんがやろうとしたことは何だったんですか?
それは今回の3DS版の話につながっていくんですけど。 - 宮本
- やっぱり僕らはSF映画で育った世代ですから、
「SF映画のなかに自分が入って活躍してみたい」
と思うようなところがあったんです。
僕は、テレビの『スタートレック』(※17)で育って、
映画の『スター・ウォーズ』でブレイクした世代ですから。 - 岩田
- そうでしたね。
『スタートレック』=『宇宙大作戦』というタイトルで放映されたテレビシリーズ。アメリカで制作され、日本では1960年代後半に放送された。のちに、劇場用映画としても制作されている。
- 宮本
- あのテレビや映画のように、
宇宙空間にものすごくたくさんのものが飛んでいて、
その間を戦闘機でかいくぐったりとか、
向こうから飛行船団の大群が飛んでくるとか、
そういうシーンを
ゲームでも楽しめるようにしたいと思ったんです。 - 岩田
- 映像でSF的なシーンを楽しむのではなく、
インタラクティブに楽しめるようにしたいということですね。 - 宮本
- そうです。だから
「実際に経験できるスペースファンタジーをつくろう!」
みたいなことなんですよね。
そういうことを、ゲームで経験してみたかったんです。
だから、初代を出したあと、『スターフォックス2』で
戦略をたてて遊ぶとかいろんなことを試していました。 - ディラン
- 『スターフォックス2』のときも
けっこういろんな実験をしましたね。
- 宮本
- そう。『スターフォックス2』は
たくさんスクリプトを入れて動かしたり、
ロボットにモーフィングして走るだとか、
360度、自由に飛び回ることのできる
オールレンジモードにもチャレンジしましたし・・・。 - 天野
- あのう・・・『スターフォックス2』って何ですか?
- 宮本
- えっ、『2』を知らない?
- 天野
- はい、初耳です。
- 宮本
- え!! 誰も教えてくれなかった?
幻の『スターフォックス』なんですよ。 - 岩田
- だから発売されなかったんです。
- 天野
- はあ・・・。
- 宮本
- FXチップのメモリを増設して、
スーパーFXチップ2というのをつくって・・・。 - ディラン
- メモリが倍になったんですよね。
- 宮本
- それで処理速度も速くなって。
- 高野
- そのときのアイデアがそのまま・・・。
- 宮本
- そう、それがN64の『スターフォックス』の元なんです。
360度の空間を自由に飛び回って、
端っこに行ったら、機体を強制的に戻すような
アウトオブレンジのような処理も
じつは『2』のときにつくっていたんです。
- ディラン
- そうでしたね。
- 岩田
- 戦車が出てくるのも
『2』のときのアイデアなんですよね。 - 宮本
- そうです。
戦車がボワーッと飛びながら、基地のなかに入ると、
そこでロボットに変身する、みたいなものもつくっていました。 - ディラン
- あのロボットは、けっこう面白かったですよね。
- 岩田
- それほど面白いという手ごたえを感じながら、
しかも新しいチップまでつくって、
どうして『2』は世に出なかったんですか? - 宮本
- よくあるパターンなんですけど・・・
開発がちょっと遅れて、1年ぐらいずれてくると、
その半年あとにはNINTENDO64が出てくるのに、
「今頃、高いお金を出して買ってもらってもいいのかな?」
みたいなことになりました。 - ディラン
- それに、FXチップ2の開発にも
ちょっと時間がかかったんですよね。 - 宮本
- そうでしたね。
それに他社さんのゲーム機では
どんどんポリゴンが使えるようになってくるなかで、
いまさら高価なチップをカセットに載せてつくっても、
ぜんぜん追いつかないという予想もあって
「ちょっと見直しかな?」ということにしたんです。 - 天野
- そうだったんですね。
- 宮本
- でも、わりとよかったんですけどね・・・。
- 岩田
- その『スターフォックス2』がけっきょく世に出ずに、
N64ソフトとして出ていくようになったのは
「N64でつくらない手はないでしょう」
ということになったからですか? - 宮本
- そうです。
オールレンジとスクロールを組み合わせて
ゲームをつくる仕組みはだいぶできていましたので、
その『2』の仕組みを使って
「もっとSFらしいシーンをつくってみたい」というのと、
それと前後して「アーウィンをもっと気持ちよく飛ばしたい」
という気持ちがあったところに、
SRDの森田(和明)さん(※18)が
N64でプログラム的な実験をしてくれたんです。
そのつくったものを見たときに、
「ああ、これならSF映画っぽくつくれるぞ」
と思ったんです。 - 岩田
- N64の実験段階で手ごたえを感じたんですね。
森田和明さん=SRDのプログラマーとして、現在も『マリオ』や『ゼルダ』シリーズなど、数多くの任天堂ソフトの開発にかかわる。株式会社SRDの取締役・京都支社長。
- 宮本
- そうです。
そこで、シューティングゲームでありながらも、
登場するいろんなキャラクターと会話をしながら、
それがドラマとして進んでいったりとか、
チームの仲間がいて、そのなかのひとりが
敵にやられて脱落すると、それがゲームに
ちゃんとシンクロするようにつくっていこうとか、
N64版の開発をはじめた時点から
いろいろ手ごたえを感じることができましたね。 - 岩田
- 高野さんは、いつチームに呼ばれたんですか?
- 高野
- 僕が呼ばれたときは
すでに開発がはじまっていて、今村さんから
「スクリプトを書けるスタッフが足りないから
手伝ってほしい」と言われたんです。
そのとき僕は、スーパーファミコン版のときの
楽しそうな印象がありましたので、
ふたつ返事で「うん、いいよ」と。
そしたら、まあ、騙されたというか(笑)。
- 岩田
- 「こんなはずじゃなかった」と?(笑)
- 高野
- はい。えらい目を見るはめになってしまいました。
初めての要素がたくさんありましたし、
すべてのことが試行錯誤だったんです。
そもそも、任天堂のつくるものは、
「まずストーリーありき」ではなくて・・・。 - 岩田
- いつも遊びをつくるほうが先ですよね。
そのことについては、『ゼルダ』をつくるときも、
高野さんは苦労したと思うんですけど。 - 高野
- そうです、そうなんです(笑)。
- 岩田
- そもそも、お話を書く人の都合で、
お話を書かせてもらえないじゃないですか。 - 高野
- そう、絶対にそうです。
- 岩田
- 遊びが先なので。
- 高野
- それに、先にお話を書いてしまうと絶対につまらなくて。
だから、ゲームのセリフを書くときも、
セリフをまず書いて、「これ使って」ではなくて、
ゲームがある程度できあがってから、
ヒント的なものもひっくるめて書く、と。 - 岩田
- 「このゲームのなかに、
“機能”として求められる言葉は何だ?」
みたいなことも考えるんですね。 - 宮本
- 操作説明であったりね。
- 高野
- そうです。なので、
後ろから敵の攻撃を受けるような場所では、
「ブレーキでやりすごせ! Cボタン下」
とか言わせてみたり(笑)。 - 岩田
- まさに“機能説明”ですね。
- 高野
- はい。僕はあのあと、
『ゼルダ』のスクリプトを担当することになりましたが、
『スターフォックス64』ですべてを学んだように思います。