『スターフォックス64 3D』
6. 「加速と減速をいかに使うか」
- 岩田
- 天野さんは当時のお客さんとして、
『スターフォックス64』をどう感じていましたか? - 天野
- 僕がボイスで印象に残ってるのは、
「スリッピーがよくしゃべるなあ」と。
たとえば・・・。 - 高野
- 「フォックス、助けてよ~」。
- 宮本
- 「ケロケロ」。
- 高野
- 「ケロケロ」とは言ってないです(笑)。
最初は「助けてケロ~」とか言ってたんですけど、
宮本さんが「かっこわるい」と言うから外したんです。 - 宮本
- ああ、そうやった(笑)。
- 一同
- (笑)
- 天野
- そんな感じで、よくしゃべることが
印象に残っているんですが、
いちばん最初に触って感じたのは
「やっぱり難しいな」と。 - 岩田
- N64版も難しいと思いましたか。
- 宮本
- そもそも『スターフォックス』というのは、
「加速と減速をいかに使うか」というゲームなんですね。
だから、向こうから壁が来ても、流星群に入っても、
イケイケドンドンみたいな気持ちで遊んでいると、
ただズボーン、ズボーンと衝突してしまって
情けないプレイになります。 - 岩田
- よけるだけでもダメなんですよね。
- 宮本
- そうなんです。
だから、壁とか流星群が来たら、
こんな感じで・・・(背もたれにのけぞりながら)
ググーッと減速して、うまくよけることができたら
加速でゴー、みたいな気分で遊ぶと面白いんです。
まあ、高校1年生の天野少年には
わかんなかったでしょうけど(笑)。
- 天野
- ・・・・・・はい。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- 天野さんは、今村さんに対して
「新作をつくってください」と言っていたくらいなのに、
「難しい」と感じたのはどうしてなんですか? - 天野
- いえ、慣れたら面白くなったんです。
『スターフォックス』って、
パッと見がシューティングゲームなので、
最初は敵を撃つことが目的だと思ったんですけど、
何度か遊んでいるうちに、
じつは狭いところをくぐり抜けるのが
楽しいということに気づいたんです。
- 岩田
- 鳥居をくぐることから
フォックスが生まれたくらいですからね(笑)。 - 天野
- はい(笑)。
それに、いま宮本さんが言われたように、
「加速と減速をいかに使うか」ということがわかって
アーウィンを自在に操作できるようになると、
すごく楽しくなったんです。 - 岩田
- じゃあ、高校1年生の天野少年にも、
面白さのツボは理解できたんですね(笑)。 - 天野
- はい(笑)。
- 宮本
- それは失礼しました(笑)。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- つまり、高校時代に自分で難しさを乗り越えて
『スターフォックス』の面白さに気づいたので、
「いまの機械でこのシリーズをつくったらどうなるか
見てみたい」という気持ちが、
今村さんに声をかけることになったんですね。 - 天野
- そうです。
それに、シューティングゲームというのは
マニアックなジャンルじゃないですか。 - 岩田
- そうですね。
もともとシューティングは
ゲームの王道だったんですけど、
だんだんそう言われるようになっていったんですよね。 - 天野
- でも僕は、N64版を初めて触ったときに、
テレビの向こう側に世界が拡がる感じがしたんです。
だから、「マニアックな世界にとどめておくのはもったいない、
もっと多くの人に、その楽しさを知ってほしい」と思って、
今村さんに「つくってください」と言ったんです。 - 岩田
- なるほど。
- 天野
- で、ゲーム開発にかかわるようになった
いまだからわかるんですけど、
ひとこと「難しい」と言いますけど、
じつは“ゲームそのものが難しい”ということと、
“操作に慣れるという難しさ”というふたつがあるんですよね。 - 岩田
- ええ。
- 天野
- で、今回の3DS版では
直感的な操作ができるようになりましたので、
“操作に慣れるという難しさ”という部分では
難しさが減ったのかな、と自分では思っているんです。 - 岩田
- はい。天野さんがうまくつないでくれましたので(笑)、
今回の3DS版の話題に入ることにしますね。
いま天野さんが話した、「直感的な操作」については
のちほどお訊きすることにして、
そもそも宮本さんが、3DSで
『スターフォックス』をつくろうと決めたのは
いつ頃だったんですか? - 宮本
- わりと早かったです。
- 岩田
- 3DSの方向性が決まってすぐですか?
- 宮本
- ええ。3DSのテーマのひとつとして、
「奥行きに対しての遊び」がありますけど、
たとえば、アーウィンから発射されるレーザーは
とても長くて巨大なんですね。 - 岩田
- 長い棒のようなものが発射されるんですね。
- 宮本
- そうじゃないと、狙ったものに
なかなか当たらないんです。
それが3DSで、奥行きがはっきり見えるようになると、
レーザーで狙い撃ちすることに対して、
もっと面白く遊べるようになると思ったんです。
それから、先ほども言ったように、
『スターフォックス64』では、飛行機もののかっこよさを
描きたいと思ってつくりましたので・・・。 - 岩田
- そのかっこよさを立体で見てほしいということですね。
- 宮本
- そうです。
戦闘機が編隊を組みながら飛んでいて、
コックピット越しに見えるパイロットが
手で合図をしたあとで、急降下するようなシーンとか、
ピラミッドの上空にいる巨大UFOから、敵の群れが
ゾロゾロ湧き出してくるようなシーンが
立体で見られるとうれしいと思ったんです。 - ディラン
- もともとこのソフトは
映画的な演出がとても多いですからね。 - 宮本
- だから、3DSでつくろうと思ったんですけど、
天野さんが望むように
『スターフォックス』の新作をつくろうとしたら、
「完成するのは3年後になってしまう」、
でも「3DSで早くほしいよね」ということで、
運よくディランさんの仕事が
ちょうど一区切りついたタイミングだったので、
彼にすぐ電話したんです。 - 岩田
- ディランさんは宮本さんから電話を受けて、
どんなことを考えながらつくりはじめたんですか? - ディラン
- ゲーム内容は
N64版を忠実に再現するという方針でしたので、
グラフィックをよくすることに集中しようと。
そこで、ノーマルマッピングもしっかり使いまして。 - 岩田
- ノーマルマップというのは、
法線マッピングとも呼ばれるもので、
平たい1枚のポリゴンに対しても、
でこぼこがあるように陰影を付けて描く技術のことで、
N64の時代にはまだなかったんですよね。 - ディラン
- ええ。そのノーマルマッピングを使うと、
3DSでは立体のグラフィックになりますから、
ほかのハードと比べて、すごい効果的なんです。
で、つくりながら感じたことなんですけど、
3DSだと、横にも奥行きのようなものがありまして。
- 岩田
- 縦への奥行き感だけでなく、横にも感じるんですか?
- ディラン
- そうなんです。
いろんな物体の横を通過するとき、
無意識に感じられるものがあるんです。
そこで、グラフィックのディテールを
どんどん追加で足すようなこともしていました。 - 天野
- そうやって、グラフィックの密度が濃くなればなるほど、
3Dとしての存在感がどんどん出てくるんです。
たとえば、空中に浮かんだ輪っかをくぐるのも
とても簡単にできるようになったんです。 - 岩田
- 絵がキレイになって、しかも立体に見えるから、
位置関係が把握しやすくなるんですね。 - 天野
- はい。なので、
縦に3個、アイテムが並んでいて
それを宙返りで取るところがありますけど、
3Dだとけっこう簡単に取れるんですが、
2Dに戻すと、なかなか取れなくなってしまうんです(笑)。
- 岩田
- へえ~、それは面白いですね。