『リズムハンター ハーモナイト』
3. リズムを刻むヒント
- 岩田
- あと、このゲームの画面をちらっと見ただけだと、
横スクロールだけのゲームだと思われがちですけど、
ボス戦がかなり変化に富んでいますよね。 - 大森
- そうです。このボス戦が入ることで、
バリエーションを豊かにすることにも
つながったように思います。 - 岩田
- そのボス戦は、通常のプレイと、
どこがいちばん違うんですか? - 大森
- 通常のプレイは、敵が出てきたら、
それをリズムに合わせて、ポン・ポン・ポンと
打っていくゲームなんですけど・・・。 - 岩田
- ジャンプするのと、打つのとを、
ボタンを使い分けて、先に進むわけですね。 - 大森
- そうです。でもボス戦は、
開発中は「
リズムコピーモード」と呼んでいまして、
最初に「A、A、A」みたいなお題を教えられて、
リズムに合わせて、そのとおりに
Aボタンを押す、というモードなんです。
なので、とてもシンプルな操作なんですけど、
ムービーとアクションがマッチしていて、
とてもダイナミックなことをしているように、
遊んでいる人が感じられるんです。
- ジェイムス
- カメラの動きが
とてもダイナミックなんです。 - 岩田
- いきなり3Dの縦スクロールみたいになったりして、
それまでの通常のプレイとは
がらっと演出が変わりますよね。 - ジェイムス
- それは、操作をシンプルにしたからこそ、
そういうことができたんです。
もし操作が複雑で、カメラもダイナミックな動きをすると、
たぶんプレイできない人もいるはずなんですね。 - 岩田
- 確かにそうですね。
3Dのフィールドを駆け回るようなゲームで、
カメラをダイナミックに動かしたりすると、
自分がどっちを向いてるのか、
わからなくなったりしますからね。 - ジェイムス
- そうです。でも、このゲームでは、
お客さんはリズムを聞いて、
ボタンを押すことに集中できるんです。 - 大森
- ボタンを押すだけで、
すごいことができる、みたいな。 - ジェイムス
- そこは、いちばん最初に
企画を考えたことからつながっているんです。
シンプルな操作なんですけど、
冒険感が楽しめるような、派手な映画みたいなバトルを
みんなに楽しんでもらおうということなんです。 - 増田
- ただ、一般的にボスというと、
すごく強いという印象があると思うんですけど、
ちょっとゆるい感じなんだよね(笑)。 - ジェイムス
- そうそう(笑)。
- 岩田
- ボスステージというよりは、
ボーナスステージのような位置づけかもしれませんね。 - 増田
- ええ。
- 岩田
- でも、盛り上がるんですよね?
- 増田
- 盛り上がりますね。映像の力もありますし。
- ジェイムス
- あと、ボスバトルの音楽は
シンフォニーのような曲もあるんですけど、
それでもリズムがとれないといけないので、
サウンド担当には、かなり無理を言って、
わかりやすい感じにしてもらいました。
- 大森
- それに、音楽と、派手なグラフィック、
あと、プランニングの難易度設定というものを
バランスよく組み合わせるために
かなり試行錯誤がありました。 - 岩田
- ふつうゲームをつくるときは
音楽と難易度は関係ありませんからね(笑)。 - ジェイムス
- そうですね(笑)。
- 岩田
- でも、今回は直結しているんですね。
難易度は音楽にかかっているといっても
過言ではないですから。 - 増田
- だから今回、サウンドを担当した人は
すごく泣いていました(笑)。 - 岩田
- やっぱり、このゲームは音楽の担当をした人が
本当に大変だったと思うんですよ。 - 大森
- そうですね。
最後はシンフォニックなボス戦だったんですけど、
そこの難易度調整はすごく難しくて、
ゲームのリズムを刻む音と、
ボタンを押す数の調整を何度もしました。 - 岩田
- で、リズムが合ってなかったら、
増田さんからすぐにチェックが入るんでしょう?(笑) - 大森
- ええ、すごくチェックが厳しいんです(笑)。
- 増田
- (笑)
- 岩田
- もともと増田さんはサウンドが本職ですし、
初代『ポケモン』(※4)のすべての音楽をつくった立場で、
こういうことにも敏感に決まってますから、
やっぱり口を出すことも多かったんじゃないですか?
初代『ポケモン』=『ポケットモンスター 赤・緑』。ゲームボーイ用ソフトとして、1996年2月に発売されたRPG。
- 増田
- 今回の音楽は足立(美奈子)(※5)が担当したので、
そこは任せつつ、という感じだったんですが、
それでも、リズムの難しい部分では
けっこうアドバイスをしました。
それに、デバッグでプレイしたときに、
「どうも自分のリズムに合ってないなぁ」
と感じたこともありまして。
足立美奈子さん=株式会社ゲームフリーク所属のゲーム音楽の作曲家。
- 大森
- あー、ありましたね(笑)。
- 増田
- 「これ、絶対におかしい!」と言っても、
ほかの人は「わかんない」と言うんです。
でも、しっかり調べてみたら、
やっぱり何フレームかずれていて。 - 岩田
- さすがですね(笑)。
でも、そういうのを見つけると、
すごくうれしいでしょう? - 増田
- はい、そうなんです、大好物なんです(笑)。
- 岩田
- あははは(笑)。
- 大森
- なので、アタックモーションとかも
ものすごく細かい調整をしました。 - ジェイムス
- 主人公のモーションとかは、
1フレーム、2フレーム違っただけでも、
印象がずいぶん変わってくるんです。
そもそも、一般的なアクションゲームで、
ここまでピッタリとリズムとアクションをするゲームは
あまりなかったと思うんです。 - 岩田
- そうですね。
純粋なリズム音楽系のゲームでは、
もちろん、そこまでこだわってつくられますけど、
今回のようにアクションの要素が強いゲームでは、
あんまり前例がないでしょうね。 - 大森
- リズムゲームというと、
ふつうはマークがあって・・・。 - 岩田
- マークのあるところにピッタリ合うタイミングで、
ボタンを押す、という遊びですからね。 - 大森
- でも、このゲームにはマークがないんです。
そもそもマークは主人公で、
敵に当たったときにはダメージを食らってしまうので
その手前でボタンを押さなければいけないんですけど、
どこにそのラインをつくるかということでは、
ものすごく時間をかけて、実際に触りながら
自分たちの感覚で調整していきました。
- 岩田
- こういうゲームですから、
主人公や敵のモーションについても
いろいろこだわってつくったんでしょうね。 - 大森
- はい。たとえば走る、というモーションにしても、
ふつうの主人公だと、自然な走りに見えればいいんですが、
このゲームでこだわったところは、
主人公はリズミカルに走るということなんです。
しかもリズムが速いステージでは・・・
(首を上下に振りながら)こうやって走るんですね。 - ジェイムス
- それを見ていると
リズムがとてもとりやすくなるんです。 - 大森
- あとビートに合わせて杖が光ったり・・・。
- ジェイムス
- 下画面のHPのハートも
ビートに合わせて動いているんです。 - 岩田
- だから、お客さんがビートをどう刻むかのヒントを、
画面の中にちりばめているんですね。 - 増田
- そうですね。その結果、
絵とリズムがリンクする気持ちよさ、
みたいなことにつながったと思います。