『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』
サウンド 篇
1. 毎回変化するハイラル平原のサウンド
- 岩田
- 今日はありがとうございます。
よろしくお願いいたします。 - 近藤・横田
- よろしくお願いいたします。
- 岩田
- 今年は『ゼルダの伝説』25周年(※1)ということで、
今日はゼルダミュージックについてお訊きしたいと思います。
「社長が訊く」でおなじみのふたりですが、
最初に自己紹介をお願いします。
『ゼルダの伝説』25周年=1986年2月に、ファミコンのディスクシステム用ソフトとしてシリーズ1作目が発売され、今年(2011年)で発売から25周年を迎える。
- 近藤
- 情報開発本部制作部の近藤です。
よろしくお願いいたします。
- 岩田
- はい、よろしくお願いいたします。
社長が訊く「スーパーマリオ25周年」のとき、
近藤さんが2作目につくったのが
『スーパーマリオ』(※2)だとおっしゃっていましたけど、
『ゼルダ』(※3)の音楽は3作目ということになるんですか? - 近藤
- はい、そうです。
- 岩田
- 任天堂に入社したばかりの新入社員が
2作目に『スーパーマリオ』の音楽をつくり、
3作目には『ゼルダ』の音楽をつくったというのは、
すごい驚きなんですけど。 - 近藤
- あのときは、開発期間がだいぶ接近していて、
確か3カ月くらいしか間がなかったと思うんです。 - 岩田
- 『スーパーマリオ』と『ゼルダ』は
ほとんど同時につくっていましたからね。 - 近藤
- そうです。
- 岩田
- 『ゼルダ』は、ファミコンのあとに出た
ディスクシステムでの開発でしたから、
新音源が使えるようになりましたよね。 - 近藤
- はい。ファミコンで使えたのは3音だけでしたので、
そのときはとても苦労したんですけど・・・。 - 岩田
- 3音から4音使えるようになって、
しかも、新音源はまったく違う音色が出せましたからね。 - 近藤
- ええ。新音源のほとんどは効果音に使ったんですけど、
1音増えただけでも、すごくありがたかったですし、
楽しみながら仕事をしていました。
『スーパーマリオ』=『スーパーマリオブラザーズ』。1985年9月に、ファミコンで発売されたアクションゲーム。
『ゼルダ』=『ゼルダの伝説』。1986年2月に、ファミコンのディスクシステム用ソフトとして同時発売された、アクションアドベンチャーゲーム。
- 岩田
- それでは横田さん。
- 横田
- はい。
- 岩田
- 横田さんは、近藤さんに比べると
『ゼルダ』の開発にかかわった期間は少ないかもしれませんが、
プレイヤーとしての年季も入れると、かなりのものですよね。 - 横田
- それはもう。
- 岩田
- それはもう、ですか(笑)。
- 横田
- 語らせたら長いですよ(笑)。
『時のオカリナ』(※4)を愛してやまないワタシですので。
- 岩田
- じゃあ、語ってください(笑)。
- 横田
- その前に自己紹介を・・・。
- 岩田
- あ、忘れてました(笑)。
最初に自己紹介をお願いします。
『時のオカリナ』=『ゼルダの伝説 時のオカリナ』。NINTENDO64用ソフトとして、1998年11月に発売されたアクションアドベンチャーゲーム。『ゼルダ』シリーズで、初めて3D化された。
- 横田
- 東京制作部の横田です。
わたしはこれまで、この「社長が訊く」の
『マリオギャラクシー』の回に出ていますが、
「どうして今回、『ゼルダ』に出てくるの?」
と思われる方もいらっしゃるように思うんです。 - 岩田
- そうですよね。
- 横田
- じつはこの1年、“ゼルダ漬け”でした。
- 岩田
- “ゼルダ漬け”ですか。
- 横田
- 『ゼルダ』の仕事しかしてこなかったんです。
しかも2本同時に。 - 岩田
- え?2本同時なんですか。
それはわたしも知りませんでした。 - 横田
- 1本が今作の『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』で、
もう1本が『スカイウォードソード』(※5)です。 - 岩田
- それは『マリオギャラクシー2』(※6)の開発が
終わってからですか? - 横田
- はい。その頃からです。
昨年のE3(※7)で『スカイウォードソード』を初出展するとき、
オーケストラの音楽を使おうという話になったんです。
ところが、宮本さんに「いらん」と言われまして。
『スカイウォードソード』=『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』。Wii用ソフトとして2011年発売予定のシリーズ最新作。
『マリオギャラクシー2』=2010年5月に、Wii用ソフトとして発売された3Dアクションゲーム。
E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、年に1度、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。ここでは2010年6月に開催されたE3を指す。
- 岩田
- そもそも昨年のE3のときは、新しい『ゼルダ』の操作性を
来場者のみなさんに見ていただこうということでしたから、
「すぐにはいらん」ということだったんですよね。 - 横田
- そうなんです。
ですから、夏休みの終わりくらいから
「オーケストラをやろう」という話になりまして、
開発チームに入ることになりました。 - 岩田
- そもそも横田さんは、ゼルダミュージックの
オーケストレーション担当みたいなところもありますからね。 - 横田
- そうですね。
『トワイライトプリンセス』(※8)のときも
オーケストラの曲を担当しました。
『トワイライトプリンセス』=『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』。2006年12月に、Wiiおよびゲームキューブ用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャーゲーム。
- 岩田
- それでは、『時のオカリナ』への愛を
ぞんぶんに語ってください(笑)。 - 横田
- はい(笑)。もちろんわたしは、初代『ゼルダ』から、
シリーズは全部プレイしていますし、
ほとんどコンプリートしているんですけども、
『時のオカリナ』で、目覚めてしまったんです。
より高いレベルのゲーム音楽の素晴らしさに。
そこで、ゼルダの曲をピアノで弾いたりしていました。
何曲も、何曲も・・・。 - 岩田
- ・・・なんかピアノで弾いた話は、
社長が訊く『スーパーマリオコレクション』(※9)のときに
訊いたような覚えがありますね(笑)。 - 横田
- え? そうでしたか?(笑)
わたしは『時のオカリナ』が出た当時、
別の会社で働いていたのですが、
『時のオカリナ』のサウンドがどれだけすごいことをやっているか、
ということを、周りの人に力説もしていたんです。 - 岩田
- いまの話も訊いたような・・・。
まるでデジャヴのようですね(笑)。 - 横田
- えー、すみません、パターンがおんなじで(笑)。
確か、『マリオサンシャイン』(※10)の曲でも
そんなことを言っていたかも・・・。 - 一同
- (笑)
『スーパーマリオコレクション』=『スーパーマリオコレクション スペシャルパック』。スーパーマリオ25周年を記念して発売されたWii用ソフト。『スーパーマリオ』など4つのタイトルを遊ぶことができた。
『マリオサンシャイン』=『スーパーマリオサンシャイン』。2002年7月に、ゲームキューブ用ソフトとして発売された3Dアクションゲーム。
- 横田
- で、『時のオカリナ』の話なんですけど、
メインの舞台であるハイラル平原で、
ダンジョンの冒険から、そこに戻ってくると、
聴こえてくる音楽が毎回違うんです。
曲の流れ自体は、そんなに変わらないんです。
でも、流れてくるメロディが、
いつも同じタイミングでこないんです。
しかも、リンクが立ち止まっていると、静かな曲になったりと、
絶え間なく曲が変わっていくんです。 - 岩田
- あそこでは決まった音楽を
ずっと流しているんじゃないんですよね。 - 横田
- そうなんです。ハイラル平原では
「普通」と「戦闘」、そして「静かな」という、
3パターンの曲が切り替わるんです。 - 岩田
- サウンドに割り当てることができる
メモリの制限が厳しかったあの時代には、
一般的に事前につくった音楽を
ストリーミングという技法で流すことが多かったのですが、
『時のオカリナ』で絶え間なく曲が変わっていくようなことができたのは、
NINTENDO64でロムカセットの特長を活かして
音楽を状況に合わせて合成していたからだったんです。
ただ、ハイラル平原のサウンドで
近藤さんがそのような仕掛けを入れていても、
あの当時、それに気がついて、
意識的に語れる人は少なかったかもしれませんね。
- 近藤
- 実際、気づいてくれる人は少なかったです。
- 岩田
- やっぱり、そうなんですね。
だから、近藤さんは気づいてくれると、
ちょっとうれしいんですか?(笑) - 近藤
- (本当にうれしそうに)うれしいです(笑)。
- 岩田
- (笑)
- 近藤
- 「ああ、わかってくれた」って。
- 岩田
- 「もっと、言って言って」という感じですか?
- 近藤
- ええ、それはもう、うれしいです(笑)。