『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』
オリジナルスタッフ 篇 その1
3. 「太秦(うずまさ)映画村に行こう」
- 岩田
- なぜ小泉さんは主観視点の実験をしなかったんですか?
- 小泉
- 僕はリンクのモデルをつくっていたので、
自分のリンクが出てこなくなるのが・・・
どうしても許せなかったんです。 - 岩田
- ああ、そうか。
主観視点にすれば、
リンクの姿は見えなくなりますからね。 - 小泉
- そうです。
かっこいいリンクが
いつでも見られるようにしたかったんです。 - 岩脇
- いや・・・でも、ちょっとだけ
主観視点を僕らは試したような気も・・・。
- 大澤
- 確か、試しにつくってみたら
「絵的に面白くない」という話になったんじゃないかな。
それですぐにやめたんです。 - 小泉
- あ、そうでしたっけ?(笑)
で、客観視点でリンクが出てくるようにしたものの、
絵をキレイにつなぐための案配がすごく大変で、
僕は岩脇さんに、かなり無理を言ったのを覚えているんです。 - 岩脇
- あ、いえいえ(笑)。
- 岩田
- さっそく無茶ぶりをしたんですね(笑)。
- 小泉
- そうなんです(笑)。
そのおかげもあって、
リンクがずっと出てくるようになったんですけど、
すると、カメラをどうするのか、とか、
戦闘をどうするのか、というところで、
主観視点にしておけばとても簡単なことも、
客観視点にしたことで、すごく難しくなってしまったんです。 - 岩田
- 自分で自分の首を絞めてしまったわけですね。
- 小泉
- そうです。
それらの問題を解決するために、
新しい仕組みをいっぱいつくらないといけなくなって、
そのうちのひとつが「Z注目システム」(※11)だったんです。
Z注目システム=Zボタンを押すことで、リンクの真後ろからの視点に変更できるだけでなく、離れた人物と会話したり、戦闘中に敵をロックオンして戦いを有利に運ぶことができる。『時のオカリナ 3D』では、Lボタンを押して注目する。
- 岩田
- その「Z注目」はどうやって生まれたんですか?
- 大澤
- たとえば、『マリオ64』で、
立て看板を読もうとしても、その周りを
ぐるぐる回ってしまうようなことがあって・・・。 - 岩田
- 軸が合わないんですよね。
- 大澤
- そうなんです。
そこで「どうしよう?」ということになって、
小泉さんがチームに入ってきたときに、
「とりあえず、チャンバラをするんだから、
京都の太秦(うずまさ)映画村(※12)に行こうよ」
と言いました。 - 岩田
- えー・・・チャンバラするから、
太秦映画村に行こう・・・ですか? - 大澤
- はい。そう言いました。
太秦映画村=東映太秦映画村。東映の京都撮影所の一部を公開し、時代劇のセットやショーなどが楽しめるテーマパーク。
- 岩田
- わたしには意味がよくわからないんですけど(笑)。
- 大澤
- とりあえず、なにかそこに行けば、
ヒントがあるんじゃないかと思ったんです。
そこで、当時の上司から許可をもらって、
小泉さんと池田さんと僕の3人で
見学に行ったんですけど・・・暑い夏だったよね? - 小泉
- ええ。暑かったですねー。
- 大澤
- それで、いろんなものを見ていくなかで、
あまりにも暑いものですから、
芝居小屋に入って涼もうということになったんです。
そこでは、忍者アクション劇をやっていたんですが、
何人かの忍者が主役のお侍さんを囲んで、
ひとりの忍者が鎖鎌をピャーッと投げたんです。
すると、それを主役のお侍さんが左腕でガッと受けて、
鎖がピーンと張った状態になり、忍者がその周りをグルグルと
円運動をするというアクションをしていたんです。
- 岩田
- え? それがZ注目を生んだんですか?
- 大澤
- そう・・・だったと思います。
- 岩田
- 鎖だから、フックショットではないんですね?
- 大澤
- ええ。
- 青沼
- あれ? みんな、目が点になってますけど(笑)。
- 一同
- (笑)
- 小泉
- それはちょっと違うような(笑)。
わたしから改めてお話ししますと・・・。 - 岩田
- はい(笑)。
- 小泉
- もともとZ注目については
『マリオ64』をつくっていたときから、
「正面の敵をうまく叩ける仕組みが欲しいよね」
みたいな話は出ていたんです。 - 岩田
- でも、実現することができなかったんですね。
- 小泉
- そうです。
それで、『ゼルダ』をつくることになって、
敵戦闘のカメラシステムをつくったときに考案したものです。
太秦の映画村に行ったときに僕が参考になったのは、
殺陣(たて)なんです。
お客さんのために、ヒーローが悪漢たちを倒すショーを、
定期的に見せてくれていたのですが、
その殺陣を見ていて「あれ、おかしいな」と思ったんです。
なぜかというと、20人もいる敵に囲まれているのに、
ひとりで戦って倒せるわけがないですよね。 - 岩田
- 多勢に無勢ですからね。
- 小泉
- そこで、絶対に仕組みがあるに違いないと思って、
しっかり見ていたんですけど、
それはとても当たり前のことで、
殺陣なのでシナリオと段取りがちゃんとあるんです。
悪漢たちは一斉にヒーローに斬りかかるのではなくて、
まず最初にひとりが斬りかかるようになっていて、
ほかの悪漢たちは待機しているんです。
で、最初の人がやられたら次の人、みたいになっていて・・・。 - 岩田
- ちゃんとひとりずつ順番に斬りかかるような
筋書きがあるんですね。 - 小泉
- はい。で、僕はその以前から
Z注目で解決したかったことがひとつあって、
それは「複数の敵とどう戦うか」ということだったんです。
ふつうにつくろうとすると、
プレイヤーに対して、敵が一斉に集まってくるので、
わやくちゃになっちゃうんです。 - 岩田
- はい。
- 小泉
- それで、太秦のショーを見たことが
解決の糸口になったんですが、
要はZ注目をすると、
特定の敵にフラグを立てることができるので、
ほかの敵には「待て」という状態がつくれるんです。
- 岩田
- 殺陣の段取りのように、
待機する状態になるんですね。 - 小泉
- まずその他の敵には待たせておいて、
最初の敵と戦い、それを倒した瞬間に、
次の敵にZ注目のポイントを移して戦うことができると。 - 岩田
- つまり1対多であっても、
1対1の戦闘を複数回繰り返すようにしたんですね。 - 小泉
- そう、そんな感じです。
そこで実際につくったのがあって・・・
覚えてますか? 岩脇さん。 - 岩脇
- はい。2体のガイコツ・・・
スタルフォスとの戦闘ですよね。 - 小泉
- ええ。
2体のスタルフォスそれぞれと戦う
場所が「森の神殿」のなかにあるんですけど、
その仕組みがうまくできたのは、
太秦のショーで見たことがすごく活きているんです。
- 岩田
- では、太秦映画村に行かなければ・・・?
- 小泉
- もし、行かなければ複数体との戦闘システムを
ひらめかなかったかもしれません。
ただ、大澤さんの見方は
僕とはちょっと違っていたのかもしれないですけど・・・。 - 岩田
- 大澤さんは鎖鎌なんですよね。
- 大澤
- ええ、僕はそうでした。
鎖鎌のショーを見てひらめいたのは、
Z注目をしたときに、
“見えない鎖鎌”をつくればいいと思ったんです。 - 岩田
- “見えない鎖鎌”というのは?
- 大澤
- Z注目をすると、リンクと敵との間に
“見えない鎖鎌”が存在するようにして、
スティックを前に倒せば、
ゆっくり距離を詰めることができたり、
スティックを横に入れれば、
円運動のように横移動して、敵の裏側に回り込みながら、
相手のスキを突いて・・・。 - 岩田
- ジャンプ斬り。
- 大澤
- そうです(笑)。
- 岩田
- なるほどねぇ。
つまり、同じものを見ても、
人によって気づくことが違うということなんですね。 - 小泉
- そうですね。
- 岩田
- それにしても京都に
太秦映画村があってよかったですよね。 - 小泉
- そうですね。すごくタメになりました。
- 大澤
- あのショーをやっていた小屋には、
偶然、導かれたかのように入ったんですよ。 - 小泉
- 暑かったですからね(笑)。
- 大澤
- 暑いから「涼みに行こうや」って(笑)。