『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』
オリジナルスタッフ 篇 その1
4. 「ナビィ」という名前が付けられて
- 岩田
- キャラクター同士が向き合おうとすると
軸が合わなくて、ずれてしまうということは、
ゲームを3D化したときに、
ゲームづくりにかかわるあらゆる人が
最初に直面した問題で、
そのことですごく悩んだはずなんです。
でも、おふたりは、太秦映画村に行くことで、
解決策を見つけることができたんですね。 - 小泉
- そうですね。
そのZ注目の流れでいうと、
もうひとつ思い出すことがあって、
注目戦闘の試作をつくっていたときに、
特定の相手に注目していることを
わかりやすく表示したいということで、
マーカーをつくっていたんです。 - 岩田
- はいはい。
- 小泉
- 逆三角形の。
- 岩田
- 注目する相手の頭上に出るようなやつですね。
- 小泉
- はい。でも、僕はデザイナーということもあって、
そのようなありがちのマーカーにするのがイヤで、
別のものをつくろうとしたんです。
そこでひらめいたのが「妖精」でした。
やっぱり『ゼルダ』ですから。 - 岩田
- 順序としては、マーカーをつくろうとして
あとから妖精ができたんですね? - 小泉
- そうです。
ただ、妖精をつくろうとすると、
かわいい女の子にするのがふつうだと思うんですけど、
当時のN64では、処理的に無理だったんです。
そこで、光の球に羽根を付けただけのものにしたんです。 - 岩田
- はい。
- 小泉
- それに「妖精ナビゲーションシステム」と名付けて、
大澤さんに「どうでしょう? これ」と持って行ったら、
即座に「名前は
ナビィにしよう」と言ってくれたんです。
まぁ、そのままなんですけど(笑)。
- 岩田
- そこは、大澤さんの
ベタベタのネーミングセンスが活きたわけですね(笑)。
- 大澤
- 「ナビゲーション」ですから(笑)。
もともと『ゼルダ』って、
元ネタがわかるネーミングが多いじゃないですか。
「リンク」も「結びつける」という意味の
“LINK”だったりしますし、
そのように機能的なシンボルとして、
名付けられることが多いと思うんです。 - 岩田
- 「機能的なシンボル」というのは
まさに、宮本さんの価値観だったりしますよね。 - 大澤
- だと思います。
なので、「ナビィ」と名付けたのも、
僕のベタなセンスだけがそうさせたわけではなくて、
『ゼルダ』のネーミングにあやかって
付けるべくして付けたという感じなんです。 - 小泉
- でも、僕は大澤さんから
「ナビィ」という名前を聞かされて、
すごくうれしくなったんです。というのも、
もともとはシステムのひとつだと考えていたのに・・・。 - 岩田
- つまり、マーカーという無機質だったものが、
名前を与えられることで、命が吹き込まれたんですね。 - 小泉
- そうなんです。
「こいつはナビィなんだ」と思ったら、
いろんなアイデアが次から次に浮かぶようになったんです。
たとえば、行った先で、向かい合う人が
いい人か悪い人かを、色でわかるようにしたりとか、
しゃべるようにすれば、狂言まわしもできますし。
だから「ナビィ」という名前を与えられたことで
すごく拡がりが生まれたんです。 - 大澤
- 攻略のヒントとかもしゃべりますしね。
- 小泉
- なので、大澤さんが書く
テキストの量もすごく増えましたよね。 - 大澤
- あはは、そうだね(笑)。
でも、「ナビィ」が加わることで
シナリオ的なメリットも生まれたんです。
“妖精との出会いと別れ”をひとつの軸にして、
物語にふくらみをもたせることができましたし。 - 岩田
- へぇ~、なるほど。
- 小泉
- メリットが生まれたのは、シナリオだけでなく
システム的にもそうだったんです。
いちばん最初の舞台はコキリの森ですけど、
その村にはたくさんの木が生えていて、
しかも人がいっぱい住んでいるんですが、
それらを同時に表示するのが難しかったんです。 - 岩田
- N64では、性能上の制約もあって、たくさんのキャラクターを
同時に表示することは難しかったんですよね。 - 小泉
- そこで考えたのが、住んでる人たちに、
それぞれ妖精が付いている設定にしようと。
そうすれば、妖精だけを出しておいても・・・。 - 岩田
- そうか。妖精のところに
住人がいるのがわかるんですね。 - 小泉
- そうです。で、その妖精に近寄ると
住人が現れるようにすれば、処理がまかなえると。 - 青沼
- しかも、「もともとリンクには妖精がいない」
というシナリオにつながりました。
- 大澤
- だから、妖精をまず見つけるところからスタートして、
最後には別れるという、“妖精との出会いと別れ”に
つながっていくんです。 - 岩田
- うん、なるほど。
- 小泉
- そもそもそのような設定は
もともと考えていたわけではなく、
言ってみれば、“でっちあげ”なんです。 - 岩田
- はい(笑)。
- 小泉
- でも、でっちあげることは
僕らの仕事で重要なことのひとつだと思っているんです。 - 岩田
- その“でっちあげ”なんですが、
『ゼルダ』をつくるときは、
まずゲームシステムが最優先されて、
「シナリオはあとから」と、よく言われますけど、
シナリオを考えるのは大澤さんの役割でしたよね。 - 大澤
- はい。
- 岩田
- たとえば「こども」と「おとな」といったテーマは
最初から考えていたことなんですか? - 大澤
- いえ、最初は「おとな」だけでした。
- 岩田
- おとなリンクしか登場しなかったんですか?
- 大澤
- そうです。
最初は「おとな」だけでいこうと。
チャンバラをするというシチュエーションからすれば、
やっぱり「おとな」なんですね。
「こども」だと、剣は小さいですし、手も短いですし、
とくに大きい敵と戦おうとすると、絶対不利なんです。 - 岩田
- だからといって、
敵を小さくすることもできませんしね。 - 大澤
- そうなんです。
ところが、開発の途中になって、
「かわいいリンクも見たい」という声が、
宮本さんやスタッフからも出てくるようになったんです。 - 岩田
- すると、シナリオも大きく変わりますよね。
- 大澤
- ええ。そこで、どうすれば「おとな」と「こども」が
同時に存在する世界をつくれるのかを考えて、
マスターソードを抜いたら7年後に行き、
さしたら7年前の「こども」に戻るという
システムを考えたんです。 - 岩田
- 一瞬で行き来できるようにしたんですね。
- 大澤
- はい。なので、このシナリオも後付けなんです。
- 岩田
- でも、そんな大きな変更をして、
よくもまぁ破綻しませんでしたね。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- え? みんなが笑ってる、ということは、
微妙に破綻していたんでしょうか?(笑) - 青沼
- 破綻というか、激論を闘わしていたんです。
- 大澤
- 毎日のように言い合いをしていました。
シナリオを書いても、「これはおかしい」とか、
「こういうことはありえない」みたいに、
つじつまが合わないところは
みんなからどんどん指摘されるので、
僕もどんどんシナリオを書き直していったんです。
直したシナリオを持って、「こうしたけど、どう?」みたいに。
確かみんなに見てもらって、「これなら大丈夫」と
ひとりひとりからOKをもらいながら・・・。 - 小泉
- え? そこまではしてないと思うんですけど・・・。
してましたっけ? - 青沼
- そこまではしてないです。
- 大澤
- あれ? 僕はしたと思うけど・・・。
- 青沼
- それは「した」気持ちになってるだけで(笑)。
- 岩田
- 記憶が書き換わっているんですかね(笑)。
- 一同
- (笑)
- 大澤
- そうかなぁ・・・。
- 小泉
- あの当時は、みんな
自分の目の前のことで精一杯でしたから。
それで、「こども」も出てくるということになって、
僕がいちばん困ったのが、
リンクのモデルやアニメーションなんです。 - 岩田
- つくる量が2倍になってしまうんですね。
- 小泉
- そうです。仕事も2倍になってしまうと。
つくっていたのは僕なので、
「どうしようか・・・?」と。 - 岩田
- そもそも「こどもリンクもつくろう」
という話になったのは、いつ頃だったんですか? - 小泉
- 開発がはじまって2年目くらいだったでしょうか。
岩脇さん、覚えてますか? - 岩脇
- ええ、確か発売の1年半くらい前だったと思います。
- 岩田
- ああ・・・そんな時期だったんですか。