『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』
オリジナルスタッフ 篇 その2
3. ボスや敵をつくる
- 岩田
- それでは滝澤さんに、
ボスや敵のデザインについてお訊きします。 - 滝澤
- はい。
- 岩田
- 『ゼルダ』のボスは、
どんなふうにつくりはじめるんですか? - 滝澤
- 基本的な流れをお話しすると、
まず最初に青沼さんから敵の仕様書をもらって、
そこでじっくりデザインや機能を検討して、
ある程度、仕様が固まった段階になってから
SRDの森田さんのところに行って、
実際に動かしてもらうようなことをしていました。
- 青沼
- でも、僕が滝澤さんに渡したのは
“起承転結”の部分だけだったんです。 - 岩田
- つまり、どんなふうにボスが登場するのかが“起”で、
ボスがどのような攻撃をしてくるのかが“承”であり、
どうやって倒すのかが“転”、
そしてラストの部分が“結”になるんですね。 - 青沼
- そうです。
そのようにフレームだけ渡して、
そこに肉を付けていくのは
森田さんや滝澤さんの役割でしたから、
僕としては、それができあがってくるのを
楽しみに待っていたんです。
ただ、開発の最初の頃は
つくり方を模索した時期もあって、
自分でイメージイラストを描いていたこともありました。 - 岩田
- え? 青沼さんがイラストを描いていたんですか?
- 青沼
- はい、僕も昔はデザイナーでしたから(笑)。
ただ、ある日、いつものように
滝澤さんに「こんな敵にしてほしい」と
僕が描いたイラストを渡したら、
「青沼さん、絵はもう描かないでもらえませんか」と
ぴしゃりと言われてしまったんです。 - 岩田
- それはどうしてなんですか?
- 青沼
- 僕も「え? どうして?」と思って、
「おれの絵って、そんなにへたくそ?」って聞いたんです。
そうしたら、
「イメージが固定しちゃうので・・・自由に描かせてほしいんです」
と言われたんです。 - 岩田
- 滝澤さんとしては、真っ白な状態から
ボスを描きたいと思ったんですね。 - 滝澤
- すみません・・・そうなんです。
- 青沼
- でも、自分としては
「こんなデザインにしてほしいのに・・・」
という想いが強かったので、
そのときは・・・すごく凹んだんです(笑)。 - 岩田
- (笑)
- 滝澤
- ああー、本当にすみません・・・。
当時は若くて、鼻っ柱が強かったものですから・・・。 - 青沼
- いやいや、でもそのような強い気持ちがあったから
ユニークな敵がたくさんできたわけですし、
実際、滝澤さんと森田さんがつくると、
僕が考えるものを超越したものが
どんどんできあがっていったんです。 - 岩田
- 滝澤さんと森田さんのやりとりは
どのように進められたんですか? - 滝澤
- まだ新人同然だった僕にとって、
森田さんは、その当時から大ベテランでしたので、
胸を借りるような気持ちで
SRDさんに通っていました。 - 岩田
- 旧本社(※7)の時代ですね。
旧本社=現在、京都リサーチセンターが所在(京都市東山区)。任天堂本社は、2000年に現所在地(京都市南区)に移転。
- 滝澤
- そうです。
わたしたちの情報開発部とは別の棟にSRDさんがあって、
裸足で入ることができましたので、
それが気持ちよくて、いつもおじゃましていたんです。 - 岩田
- 素足で気持ちがいいから(笑)。
- 滝澤
- はい(笑)。
そこで森田さんに、敵について説明すると、
すぐにプログラムを組んでくれたんです。
それを見て、「ここはこうしたほうが・・・」と言うと、
15分くらい待ってるうちに、
また新しい動きを見せてくれて。
そのようなことをずっと繰り返していたんですけど、
あの時間の濃いやりとりは
すごく自分の実になった、といまも思います。
キャッチボールのやり方を学んだというか。 - 岩田
- 当時は入社4年目くらいだったんですか?
- 滝澤
- 3年目でした。
- 岩田
- 3年目、4年目とかだと、
ものすごく貴重な経験ですよね。
ファミコン黎明期から仕事をしている森田さんに、
言わば弟子入りするようなものですから。
- 滝澤
- まさにそうでした。
- 岩田
- 師匠の胸を借りて、球を投げると
すごい球が返ってきたりするわけですよね。
ただ相手は先輩だけども、どこかで
「ぎゃふんと言わせてやろう」という、
若さゆえの鼻っ柱の強さもあったんでしょ?(笑) - 滝澤
- ええ、そのとおりですね(笑)。
胸を借りているという気持ちがありつつも、
「負けたくない!」という想いが強かったので、
森田さんに、まさに「ぎゃふんと言わせたい」と
いつも思っていました。 - 森田
- でも、ゲームとはぜんぜん関係ない
雑談をしながらやってましたよね。 - 滝澤
- あ、そうですね。
釣りのことも教えていただいたりとか(笑)。
ただ、雑談をするなかで
プログラムの話を聞いたりしても、
僕はそっち方面の勉強をしてきたわけではありませんので、
すべてを理解できるというわけではなかったんです。
でも、すごい動きを見せられると、
どうしても聞きたくなってしまうんですね、
「これって、どうやってるんですか?」って。 - 岩田
- 滝澤さん、プログラマーという人種は
「これ、どうやってるんですか?」と聞かれると、
けっこううれしいものなんですよ(笑)。 - 滝澤
- そうなんですか?(笑)
- 岩田
- ええ(笑)。
- 滝澤
- 「わからんくせに、聞くな」とか
思われているんじゃないかと・・・。 - 岩田
- いやいや、なんとかわかるように
説明してあげたいと思うんじゃないでしょうか。 - 森田
- そうですね。
まあ、もちろんものによりますけど・・・。 - 岩田
- 確かにかんたんには説明できないこともありますね。
- 滝澤
- たとえば、『時のオカリナ』に
竜の姿をしたヴァルバジアというボスが出てきますよね。 - 岩田
- はい、炎の神殿にいるボスですね。
- 滝澤
- ヴァルバジアは竜ですから
くねくねと、うねるような動きをするんですけど、
僕は竜のモデルのパーツしか渡さなかったのに、
森田さんはアッという間に動かしてくれたんです。
それがすごく不思議で。 - 岩田
- 「何だかよくわからないけど、すごい!」
と感動したんですね。 - 滝澤
- そうなんです。
そこで、「これ、どうやってるんですか?」と
思わず聞いてしまったんです。
そしたら『スターフォックス64』でつくった
プログラムと同じなんだよと。
戦闘機のアーウィンが別の戦闘機に
追尾されるシーンがありますけど・・・。 - 岩田
- (間髪入れずに)
あ、あれですね。
そうです、おんなじですね。 - 滝澤
- さすが岩田さんはすぐにわかるんですね(笑)。
- 春花
- やっぱり、そこはプログラマー同士だから(笑)。
- 滝澤
- でも僕は、そのとき話を聞いて、
まったくピンとこなかったんです。
ただただ、「なんかすげえな・・・」と思っただけで。 - 岩田
- 戦闘機がうねりながら舞うように飛ぶのと、
ヴァルバジアの動きはまるで同じですからね。 - 森田
- 戦闘機を竜に置き換えるだけで、
かんたんに動かすことができたんです。 - 滝澤
- そんな感じで、僕にとっては
「すごい!」「そうなんだ!」と
いろいろ感心しながら仕事をするような、
本当に楽しい毎日を送っていました。