『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』
開発スタッフ 篇
4. ロムアップの直前に
- 岩田
- グレッゾのみなさんから見て、
たくさんあるゲームのなかで『時のオカリナ』が
特別な存在になっていた理由は何だったと思いますか? - 石井
- 『時のオカリナ』はポリゴン3Dゲームの代表作ですよね。
「こういうことができる」という可能性に向かって、
エネルギーやチャレンジ精神が爆発した
タイトルだったのではないかと感じています。
シリーズものは通常、重ねていくと
ルールみたいなものが出てきますよね。
でも『時のオカリナ』は、つくり方のルールがなかったんですよね。 - 岩田
- 確かにN64版『時のオカリナ』は2Dから3Dの変換期で、
いままで2Dで使ってきたルールが使えないから
全部ゼロからつくっているんです。
だからみんな、暗闇のなかを手探りで進んでいたはずなんですが、
でもなぜか「ぜったいに明るみに出られる」
という、根拠のない妙な自信と信念があって、
それが全体に乗り移っていたようなんです。
- 石井
- とくにレベルデザインの完成度ですごいと思ったことが、
単純にマップをつくっているだけでなく、
リンクが立ったときにどういうふうに見えるかが、
ある程度、計算されたうえで構築されているんですよね。
ポリゴン3D初期の段階で、
それを考えていたこと自体が驚異でした。 - 岩田
- 青沼さん、当時、綿密に計算していたんですか?
- 青沼
- う~ん、そう言えたらカッコイイんですけどね(笑)。
- 岩田
- 綿密に計算はしてないけれど、何度もトライしたし、
見え方はものすごく追求していましたよね。 - 青沼
- そうです。終わりは自分で決められなかったですから。
- 岩田
- わたしが当時のスタッフに訊いておどろいたのは、
『時のオカリナ』の納期が延びて、
全員が「やった!」って思ったと言うんですよ。
普通はだんだん疲弊してきて、
「まだマラソンはつづくのか・・・」
って思う人が出てくるものなんですが、
当時のチームは楽しくて仕方がなかったらしいんです。 - 青沼
- 身体はきつかったはずですが、楽しかったですね。
- 石井
- お客さんに認められたタイトルを開発している
クリエーターの方々と話をすると、たいてい
「苦しいけれど・・・楽しかった」と言われるんです。
そのゲージが両方とも高いところが、
『時のオカリナ』も一致しているのかなあと感じます。 - 岩田
- 外岡さんはどうですか?
- 外岡
- そうですね・・・、
過去のプログラムをいただいたとき思ったことは、
とにかく気合いの入ったクリエーターの方々しか
いなかったんだな、と思いました。
じつは(ソースプログラムの)コメント欄の中にですね、
「納期が延びた。ちょっとボーナスが心配だ。
でもそのおかげでこれをつくることができる」
というようなものがあったんですよ(笑)。 - 岩田
- えっ! そうだったんですか?
- 外岡
- はい(笑)。
そのコメントで、当時プログラマーだった方々の現場の熱意が
そのまま僕らに伝わってきたんです。 - 岩田
- 確かに、それを見せられては、たまらないですよね。
- 外岡
- ええ、たまらないです(笑)。
だから僕らも、ものすごくこだわりました。
あと『ゼルダ』シリーズ全部がそうなのですが、
“手づくり感”があると思います。
通常、プログラマーはシステムやルールをつくりたがるのですが、
『ゼルダ』は、おとなしくそれらに納まるゲームではないんです。
実際に、『時のオカリナ』のソースも
細部にいたるまで本当に手づくりなんですね。 - 岩田
- システィマティックなつくりではなく、
職人ひとりひとりがていねいにつくったものの集合体なんだけど、
トータルで破綻(はたん)しないように見せているんですね。 - 外岡
- はい。お客さんが手にとったとき、
そういうところがクリエーターの思いとして伝わるから、
評価されるんじゃないかなと思いました。 - 岩田
- 守屋さんは『時のオカリナ』をどう感じましたか?
- 守屋
- 僕は残念ながらオリジナルを当時は遊んでいないのですが、
今回開発を担当して、プレイしていて、純粋に
「このゲームには冒険があるな」という感想を持ちました。
プレイをしていて、何だかふと、
子どものときに遊んだ裏山を思いだしたので
お客さんもそういうのを感じているのかなあと。
このゲームが愛されている理由がわかる気がしました。
- 岩田
- なるほど。今回のプロジェクトは
『時のオカリナ』のリメイクとしてはじまったものの、
結果的には、3DSのために新たにつくられた
“3DSならでは”の要素が多く入りましたよね。
まず思いうかぶのは、
3DS内蔵のジャイロセンサーを使った
リンクの視点操作ですが、なぜ入れることになったんですか?
- 外岡
- 昨年のカンファレンス(※9)の前に、
青沼さんから「ジャイロが入ってなきゃダメですよね」
っていう話をいただいたんです。 - 清水
- 確か1週間くらい前でしたよね?
昨年のカンファレンス=任天堂カンファレンス2010。2010年9月29日に、幕張メッセでゲーム業界の関係者向けに開かれた発表会。
- 岩田
- ・・・1週間前だったんですか。
それでジャイロを使って、
青沼さんは具体的に何がしたかったんですか? - 青沼
- スティックでカメラを動かしたくなかったんです。
これはWiiの『トワイライトプリンセス』(※10)の
ポインティングでの視点移動に通ずる話なんですが、
スティックをどっちにたおしたらカメラが上に動くのか下に動くのか
答えがふたつあって、ジャイロだとそれをひとつに統一できるんですね。
これは宮本さんが昔からなんとかしたいと
言い続けてきたことだったんです。
『トワイライトプリンセス』=『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』。2006年12月に、Wiiおよびゲームキューブ用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャーゲーム。
- 清水
- まあ、ジャイロだけだと困るときもあるので
スティック移動もできるよう、両方進めていったんですよね。
そしたら守屋さんがジャイロでもスティックでも、
シームレスに切り替えられるようにしてくれました。
オプションでオンオフを選択して遊べるようにもなっています。 - 青沼
- でも、最後にね、宮本さんがね・・・。
- 生田
- そう、ひと押しがありました・・・(笑)。
- 青沼
- 最初、ジャイロセンサーの視点操作ができるのは、
アイテムを使う主観モードのときや、
リンクの視点でカメラを動かすときだけだったんですよ。
でも開発終盤、最終ロム出しまで2週間という直前の時期に
「普段、リンクを動かしているときも
ジャイロで視点を動かせないのか?」
と宮本さんのほうから話がありまして・・・。 - 岩田
- え? でも、それは全シーンに影響するじゃないですか。
それはマスターアップ2週間前に言うことではないですよね。 - 守屋
- はい、最初、みんな同じ反応でした(笑)。
- 青沼
- でもまあ、やれるところまでやってみた結果、
L注目でリンクがロックオンせずに移動するとき
カメラがリンクに追従していくんですが、
そのときにジャイロを使って周囲を見渡せるようになりました。 - 守屋
- まずは全解放でジャイロの視点操作をできるようにして、
そこからまずいものをけずっていくというやり方で進めました。
とにかく3日以内に結論を出さなければならなかったので・・・。 - 青沼
- そう、ロムが遅れてしまいかねない状態でしたからね。
いやあ、あれは宮本さんに試されている感じがしましたねー。 - 外岡
- でもじつは、最初に青沼さんからそのメールをいただいたとき
「こうしたい!」というのがものすごく具体的だったから
「これ、きっと青沼さんがやりたいんじゃない?」
って僕らは言っていたんですよ(笑)。 - 青沼
- え・・・あ、すいません。
じつは・・・半分そうだったんです(笑)。
リンクの移動中にジャイロでカメラを動かすというのは
じつは僕も考えていたんですけど、
「ロムアップ直前だし、無理だよな~」と思っていたんです。
- 岩田
- では、言いだせなかったことを宮本さんから言われたので、
これ幸いにとお願いしてみたということなんですか? - 青沼
- えー・・・そうです。
ちょっと・・・共犯しちゃいました(笑)。 - 岩田
- でも周囲を見まわすという行為で、あれほど世界に
リアリティを感じるというのは、意外なほどでしたよね。 - 青沼
- ハイラルという世界が、画面の奥に360度バーッと広がっていて、
それをのぞいている感覚なんですよね。
結果的に入れられて、本当によかったと思います。