『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』
宮本 茂 篇
3. みんな馬が大好きだった
- 岩田
- そもそも宮本さんは『ゼルダ』をつくるとき、
ストーリーに関しては
どのように考えているんですか? - 宮本
- ゼルダにとってのストーリーというのは
シリーズを何本もつくり続けていくと、
つじつまが合わなくなりますよね。
そのつじつま合わせのために、
ものすごく無駄な時間を、じつは使ってるんです。
なので、お客さんが
「もうそんなことはどうでもいいから」
と言ってくれたら、すごく楽になるんですけど(笑)。 - 岩田
- (笑)
宮本さんとしては、物語づくりに時間を費やすより、
ゲームづくりのほうに
エネルギーを注ぎたいと思っているんですよね。 - 宮本
- そうです。
たとえば「ヨッシーはオスかメスか?」
みたいな問いかけがあったりしますよね。
「たぶんオスだろう」と答えたら、
「じゃあ、オスはタマゴを生むんですか?」みたいな(笑)。 - 岩田
- あははは(笑)。
- 宮本
- でも、「タマゴを生むから、ヨッシーはメスね」
と言った瞬間に、
「声はもっと女の子っぽい声にしないとダメ」
とか言われるようになるでしょ?
けど、そのような設定をあまり気にせずに
ものづくりをしたい、と僕は思っているんです。
たとえば、アニメの『ポパイ』(※12)なんかがそうですけど、
昔のキャラクターマンガでは、
毎回役割が違っていますよね。
- 岩田
- そう、毎回、舞台設定が違うんですよね。
『ポパイ』=アメリカで制作されたテレビアニメシリーズ。主人公のポパイ、恋人のオリーブ、そしてライバルのブルートの3人が織りなすコメディで、日本では1959年から1965年まで放送された。
- 宮本
- 毎回、舞台設定が違っても、
いつもおなじみのキャラクターが出て役を演じる。
まあ、『マリオ』がそういう構造になっているんですけど、
『ゼルダの伝説』のほうも、
リンクとガノンとゼルダの関係性を保ちつつも、
どんな舞台でもOKですよ、みたいになれば
すごく楽なんですよね。 - 岩田
- でも、シリーズをこれだけ重ねてくると、
なかなかそうもできないですよね。 - 宮本
- そうなんです。とくにゼルダのようなお話は
あまり興ざめなこともできない、ということで、
『時のオカリナ』では、
過去のシリーズとのつながりも考慮しながら
話を決めていったんです。 - 岩田
- 宮本さんがこだわっていた
登場人物の役割を伝えることで主人公を表現するという点では、
ムービーも重要な役割を果たしましたよね。 - 宮本
- そうですね。
ムービーをリアルタイムに処理する、ということも、
『スターフォックス64』からはじめた
新しいチャレンジのひとつでした。 - 岩田
- 宮本さんは、「ムービーをつくるのもいいけど、
やるなら、完成の前日も直せるようにしてよね」
というようなことを言っていたそうですね(笑)。 - 宮本
- ええ(笑)。
ロム出し直前に、ゲームを変更するという特性が
僕にはありまして。 - 岩田
- それって“特性”なんですか?(笑)
- 宮本
- ええ(笑)。
それくらい相性が悪いんです。
プリレンダリングムービーというものと僕のゲームづくりは。 - 岩田
- あの当時はプリレンダリングムービー・・・
つまり、あらかじめ用意された映像を
そのまま流すという技法が流行りましたけど、
いったん映像をつくってしまうと、
あとからかんたんには修正できなかったんですよね。 - 宮本
- だから、「ここを直して」と言っても、
「あと1カ月ないと、直せません」とか、
ひどい話になると
「ムービーができてるので、もう直せません」と。 - 岩田
- はい(笑)。
- 宮本
- 「えっ?」って。
「こうしたほうが面白くなるのに、どうして直さないの?」
「いや、ムービーができないから」って。
「お客さんはムービーと面白いのと、どっちが大事なの?」
と思うんですよね。
なので、ムービーをリアルタイムに処理できる
方式を採用したんです。 - 岩田
- そのリアルタイムムービーは
河越(巧)さんの担当だったんですよね。 - 宮本
- 河越さんはプログラマーだったんですけど、
もともと映画の大ファンで、
カットとかシーンにすごく興味を持っていたんです。
そこで映画のような本格的なカットを
つくってもらおうということで、
ムービーパートをお願いしたんです。
任天堂専用の絵コンテ用紙をつくったのも、
その頃じゃなかったでしょうか。 - 岩田
- 宮本さんも絵コンテを描いたんですか?
- 宮本
- 僕はあんまり描かないです。
かんたんなコマ割りは描きますけど
どちらかというと、
現場で実際にものを動かしながら
「もっとこうして」とか、
「あっちを見せて」とかやっていて・・・。
たとえば、いちばん最初に
ゴーマというボスと戦いますけど。 - 岩田
- デクの樹サマのダンジョンですね。
- 宮本
- はい。そのボスの部屋に入ったとき、
ゴーマは天井からぶらさがっているので、
普通だったら、気がつかないですよね。
ガサガサと音をたてたとしても。
そこでまず、ゴーマのほうがリンクを見ている視点にして、
怖がっているリンクにカメラをグーッと寄せて、
そのあと視点を変えて、
リンクのほうから天井の上のゴーマを見ると・・・。 - 岩田
- そうすると、ゴーマの位置がわかりますね。
- 宮本
- そのように、ボスの位置を映像で説明したりとか、
ゲームでしか考えないようなやり口で
ムービーを使うのがとても新しくて面白かったんです。 - 岩田
- 大澤さんから訊いたんですけど、
馬でロンロン牧場の柵を越えるムービーシーンには
とてもこだわったそうですね。 - 宮本
- まあ、こだわったというよりは、
N64というハードでけっこう無理をしてつくっていたので、
できるだけおかしくないよう、
ちょっとでもかっこよく見せたいと思っていたんです。
牧場の好きなところから勝手に出て行かれると
アラの部分がばれてしまうので、
無理やりイベントで演出を考えたんです。 - 岩田
- あれは無理やりだったんですか?(笑)
- 宮本
- ええ。牧場にはインゴーという男がいますよね。
- 岩田
- はい。あまり性格のよろしくない、
ルイージに似た外見のキャラクターですね(笑)。 - 宮本
- そうです(笑)。
そのインゴーとリンクが競馬で勝負して、
それに勝つと、エポナ(馬)が手に入る代わりに
インゴーが牧場の入口をふさいでしまうと。 - 岩田
- そこで、馬で柵越えして脱出するんですね。
- 宮本
- そうです。
でも、もともとは
逆上したインゴーが牧場に火をつけて、
燃えさかる炎をバックに
柵越えさせるシーンをイメージしていたんですが、
「あとで牧場に戻ってきたとき、どうするんですか?」
と言われて・・・諦めました(笑)。 - 岩田
- (笑)
先ほど、「こどもリンク」に
こだわった話を訊きましたけど、
そこまで「馬」にもこだわったのはどうしてなんですか?
- 宮本
- それは僕らが西部劇で育ってるからでしょうね。
- 岩田
- かつて、西部劇は
テレビの人気番組のひとつでしたね。 - 宮本
- だから、その影響をすごく受けてるんです。
それに、小学校の水飲み場とかに
アルマイトのコップが必ず置いてあって、
それを裏返しにして、片方ずつ持って、
コンクリートとかにリズムよく打ちつけながら
遊んでいたでしょう?
「パカラッパカラッパカラッ」と鳴らして(笑)。 - 岩田
- はいはい、やっていました(笑)。
- 宮本
- そんな遊びをしていたくらい、
子どもの頃はみんな、馬が大好きだったんですよ。
あのリズムは体に染みついています。
だから、『時のオカリナ』では、
どうしても馬に乗れるようにしたかったんです。