『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』
宮本 茂 篇
5. 世界で評価された“剣と魔法の物語”
- 岩田
- そもそも『時のオカリナ』という商品は、
『ゼルダ』の25年の歴史のなかでも、
特別な存在として記憶している人が多いように思うんです。 - 宮本
- はい。
- 岩田
- じつは、わたしもそのひとりで、
『スマッシュブラザーズ』(※14)の仕上げの頃に
ちょうど京都に来ていて、
11月21日の発売日に製品版を
ワクワクしながら持ち帰った覚えがあります。 - 宮本
- あ、そうでしたか。
『スマッシュブラザーズ』=『ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ』。1999年1月に、NINTENDO64用ソフトとして発売されたアクション格闘ゲーム。開発元はハル研究所。ハル研究所には、岩田が社長として在籍していた。
- 岩田
- あの当時、わたしはハル研究所の人でしたが、
『時のオカリナ』を触って
とにかくビックリしたんです。
もちろん『マリオ64』にも驚いたんですけど、
『時のオカリナ』では、
それまでビデオゲームで味わったことのない
たくさんのものを見せてもらった感じがしたんですね。 - 宮本
- 当時のインタビューとかで
よく言っていたことなんですけど、
“温度”とか“匂い”とか“湿度”みたいなものを
このゲームで描けたという手ごたえが
自分のなかにもありましたし。
- 岩田
- “空気感”を感じることができたんですよね。
「社長が訊く『ニンテンドー3DS』」の
「発売前に宮本さんに、訊いておきたいこと。」
でも言ったことですが、
高いところから、滝に飛び込むときに
足がゾクッとするというのを、
ビデオゲームで初めて感じることができましたし。 - 宮本
- もともとあれは
オートジャンプができるようになったことで、
そのような効果が生まれたんですね。
カリブのダイビングみたいなポーズで頭から飛び込むから、
スーッと落ちていく感じがするんですけど、
もし、バンザイのポーズで足から落ちていったら・・・。 - 岩田
- ただの落ちる人、ですよね(笑)。
- 宮本
- ええ(笑)。
休みの日に、オートジャンプのことを思いついて、
月曜に会社に来るのが
すごく待ち遠しかったことがあるんです。 - 岩田
- 休みの日に思いついたアイデアを
みんなに言いたくてガマンできなかったんですね(笑)。 - 宮本
- そうなんです(笑)。
そこで、月曜の朝にみんなを集めて、
「オートジャンプというのをやるぞ」と宣言すると、
みんなは「ええーっ!?」という反応だったんです。
マリオをつくったチームが
ジャンプボタンを捨てるんですからね。 - 岩田
- それで、道の途中に穴があっても、
ボタンを押さずに自動で跳べるようになったんですね。 - 宮本
- そうなんですが、あれには副産物があって、
跳んだあとのリンクのポーズを
プログラムで操れるようになったんです。 - 岩田
- ああ、なるほど。
- 宮本
- 目の前にある地形を読んで、
どういうジャンプをするかを
決められるようになったんです。 - 岩田
- だから、高い滝の手前でジャンプすると、
頭から飛び込むことができるんですね。
カリブのダイビングみたいなポーズで(笑)。 - 宮本
- そうなんです。
だから、「オートジャンプの仕組みを使うと
いろんなことができるぞ」と、
そこからまた新しいことを考えるのが
すごく楽しかったんですね。 - 岩田
- やっぱり“発見密度の高いゲーム”なんですよ。
- 宮本
- Z注目システム(※15)もそうですしね。
- 岩田
- そのZ注目については、
大澤さんと小泉さんたちが
太秦(うずまさ)映画村(※16)に行って
いろんな発見があったという話もしてました。 - 宮本
- あ、太秦に行った話もしたんですね。
僕は行ってないんですけど。
Z注目システム=Zボタンを押すことで、リンクの真後ろからの視点に変更できるだけでなく、離れた人物と会話したり、戦闘中に敵をロックオンして戦いを有利に運ぶことができる。『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』では、Lボタンを押して注目する。
太秦映画村=東映太秦映画村。東映の京都撮影所の一部を公開し、時代劇のセットやショーなどが楽しめるテーマパーク。
- 岩田
- その話を訊いて面白かったのは、
小泉さんと大澤さんは同じショーを見ていたのに、
それぞれ、別のことに気づいたというところなんですよ(笑)。 - 宮本
- と言うと?
- 岩田
- 殺陣(たて)のショーを見ながら、
小泉さんは、何人もの人と戦っていても、
順番に襲いかかってくることが決まっていることに気がついて、
それが複数の敵との戦いをつくることに
役立ったと言ってました。 - 宮本
- うん、なるほど。
- 岩田
- で、大澤さんは、鎖鎌のショーを見ていて、
Z注目をしたときに、敵と自分との間に
“見えない鎖鎌”があるようにすればいい、と
そういうところに気がついたそうなんです。 - 宮本
- つまり、敵と円運動をしながら、
相手の後ろに回り込んで攻撃することもできる
ということですよね。 - 岩田
- そうなんです。
- 宮本
- でも・・・なんか変ですよね。
- 岩田
- と言うと?
- 宮本
- これから“剣と魔法の物語”をつくろうとしているのに、
太秦に時代劇を観に行くというのはねぇ(笑)。 - 岩田
- あははは(笑)。
でも、「『ゼルダ』でチャンバラを」という
命題があったわけですから。 - 宮本
- でも、チャンバラは両手で刀を持ちますけど、
剣は片手で持つわけですからね(笑)。 - 岩田
- ああ、確かにそうです(笑)。
- 宮本
- とはいえ、そういうことに気づいたわけですから
結果オーライですよね(笑)。 - 岩田
- ですね(笑)。
ところで、『時のオカリナ』ができたとき、
宮本さんは、どのような手ごたえを感じましたか?
- 宮本
- 新しいことをしたという意味では、
自分がかかわったソフトのなかでも
何番目かに高い手ごたえがありました。
それに、中世のような“剣と魔法の物語”を
僕たち日本人がつくって、
それが世界の人の目にかなった、というのが
すごくうれしかったですね。
太秦の時代劇を参考にしたにもかかわらず(笑)。
実際、海外でも高い評価をいただくことができましたし。 - 岩田
- 99年のE3だったでしょうか、
『時のオカリナ』がたくさんの賞(※17)をいただいて、
宮本さんが何度もステージに上がったり、降りたりしながら
たくさんの部門の賞をいただいたこともありましたよね。
たくさんの賞=1999年のE3と同時に開催された「Interactive Achievement Award」で、『時のオカリナ』は「ゲーム オブ ザ イヤー」など、6部門で受賞した。
- 宮本
- あー・・・ありましたね。
僕としては気恥ずかしかったんですけど・・・。 - 岩田
- 『時のオカリナ』がどうして、
そのような高い評価を得られたんだと思いますか? - 宮本
- ・・・あの当時、アメリカのマーケティングチームが
『時のオカリナ』を
「エピックアドベンチャー」と呼びました。 - 岩田
- 「エピック(epic)」とは
「叙事詩」という意味ですね。 - 宮本
- もちろん新しいシステムもそうなんですが、
その上に乗っかった、物語性も評価されたんでしょうね。
それに、ゲームのタイトルが主人公の名前じゃないという(笑)。 - 岩田
- 世の中には、あの緑色の服を着た人が
ゼルダだと思ってる人もいますからね(笑)。 - 宮本
- それは初代から25年間、
ずっと続いてることなんですけど(笑)。 - 岩田
- でも、それもゼルダらしいですね。
- 宮本
- そうですね。
でも、今度のゼルダ姫は、ちょっといいですよ(笑)。 - 岩田
- 「今度の」って、
『スカイウォードソード』(※18)のことですよね? - 宮本
- はい。
『スカイウォードソード』=『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』。Wii用ソフトとして、2011年発売予定のアクションアドベンチャーゲーム。
- 岩田
- 『スカイウォードソード』については
また改めてお訊きすることにしますね。 - 宮本
- そうですね。わかりました。