『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』
宮本 茂 篇
6. “ゼルダ漬け”の1年に
- 岩田
- それでは最後に
『時のオカリナ 3D』についてお訊きします。
「社長が訊く『ニンテンドー3DS』」の
「発売前に宮本さんに訊いておきたいこと」のときにも
話していただきましたが、
改めて、『時のオカリナ 3D』がこうやって完成して、
宮本さんは、どのような期待と手ごたえを感じていますか? - 宮本
- ひとことで言うと、
3DSでつくり直して本当によかったと思います。
先ほど、N64版のときに
ハイラルの“温度”や“匂い”みたいなものを
描くことができたと言いましたけど、
今回はそれが立体になって、
情景がさらに伝えられるようになったと思います。
そこは、グレッゾ(※19)さんが
すごく頑張ってくれたおかげなんですけども。
- 岩田
- そうですよね。
グレッゾ=株式会社グレッゾ。2006年に設立されたゲーム開発会社。石井浩一氏が代表をつとめる。本社・東京。
- 宮本
- テクスチャーもかなり貼り替えていますし・・・。
- 岩田
- だから、単純リメイクではないんですよね。
- 宮本
- そうです。
ポーティング(移植)でもありませんし、
ホントにホントのリメイクですよね。 - 岩田
- ゼロからつくり直しているわけですからね。
- 宮本
- それから、ジャイロセンサーへの対応も
かなりうまくいったと思います。 - 岩田
- パチンコや弓を使うときはリンク視点になるので、
そのときにジャイロセンサーを使うと、
的(まと)が狙いやすくなるんですね。 - 宮本
- はい。それに、広大なハイラル平原を見渡すと
すごく気持ちがいいです。
なので、以前遊んでくださった人にとっても、
快適に遊んでもらえると思います。
ただ、ジャイロを使うときは3DSを動かすので、
立体視がちょっと見えにくかったりするんです。
なので、僕は最近、ジャイロを使って遊ぶときは、
開き直って3Dボリュームをオフにしています。
で、デモ映像がはじまったり、
じっくり景色を味わいたいときは
3Dボリュームをオンに戻すようにして遊んでいます。 - 岩田
- オン/オフの切りかえが、ささっとできるのが
3Dボリュームの利点ですよね。 - 宮本
- そうですね。
スライダーを上げ下げするだけで切りかわるから、
すごく便利ですよね。
それから、今回は清水(隆雄)さんたちが頑張って、
ちょっとした「ヒント映像」を入れてくれました。 - 岩田
- 『ゼルダ』というシリーズは、
どうしても謎が解けなくて、
それで行き詰まってしまうケースが
少なくなかったようですからね。 - 宮本
- そうなんです。
なので、理想を言うと、全部を遊んでみせてくれる
攻略ヒントがあればいちばんいいんですけど、
今回は、シーカーストーンに聞くと、
ヒントが映像で見られるようにしました。
ただ、ネタばらしになるとやっぱり面白くないので、
正解をそのまま見せるのではなく、
「こういう感じですよ・・・」というカットを
かなり厳選して選びました。 - 岩田
- そのヒント映像はどのくらいあるんですか?
- 宮本
- どんどん数が増えて、130本以上になりました。
- 岩田
- え、130本以上、ですか?(笑)
- 宮本
- はい(笑)。
いいヒントになるものがたくさん入っています。
N64の『時のオカリナ』は
最後まで遊べなかった人もいたと思うので、
今回は最後まで遊んでほしいですよね。 - 岩田
- あと、ハイラルが3Dで見えるようになって、
宮本さんはどう思いましたか?
- 宮本
- それはもう、馬で走ってるだけでも
本当にうれしいですよ。
「こういうことをしたかった」というのに
近づいたなあと感じましたし。 - 岩田
- 宮永さんが言ってたんですけど、
「丘が丘に見える」んだそうです(笑)。 - 宮本
- 当時苦労してつくった丘でしたからね(笑)。
ハイラル平原の起伏を
はっきり感じることができますし、
時の神殿に入って、内部を見渡すだけでも
すごくうれしいんですよ。
それに、最後のガノン城は
N64版のときは殺風景な印象もあったんですけど、
今回は、ガーンと3Dで迫ってくるような迫力を
すごく感じられるようになったと思います。 - 岩田
- 村の傾斜もハッキリわかりますしね(笑)。
- 宮本
- なので、ニワトリにつかまって飛ぶのが
さらに楽しくなりました(笑)。
それから水の神殿も・・・。 - 岩田
- 『時のオカリナ』いちばんの難所ですね。
- 宮本
- ええ。N64のときは
水底を歩くためのヘビィブーツに履き替えるのに、
ちょっと手間がかかって、
それで苦労した人も少なくなかったと思うんですけど、
今回はタッチスクリーンで、ササッと
履き替えることができるようになりましたので、
もう大丈夫です。 - 岩田
- はい、青沼さんの積年の心残りも
ついに解消されるみたいです(笑)。
アイテムは下画面で
いつも見られるようになりましたからね。 - 宮本
- もともと『時のオカリナ』は
わりと女の人にも遊んでもらえたゲームなんです。 - 岩田
- 確かに女性のリンクファンも多かったですよね。
- 宮本
- そうなんです。
で、今回は、絵の仕上がりがキレイになって、
それこそ、小泉さんの奥さんが望んでいたような
リンクのイケメン度が、さらにアップしたと思いますので、
これを機会に、リンクのファンが増えるといいな、
というのが、僕のいちばんの望みですね。 - 岩田
- ありがとうございます。
では、最後にもうひとつ。
ゼルダ25周年についても訊かせてください。 - 宮本
- はい。昨年はマリオ25周年で、
「25周年記念パック」(※20)というのをつくったりと
いろんなことをしましたけど、
今年はゼルダ25周年ということで、
同じように、緑のゼルダ記念パックをつくっても、
ちっとも新しいことじゃない感じがして・・・。
「25周年記念パック」=『スーパーマリオコレクション スペシャルパック』。『スーパーマリオブラザーズ』25周年を記念して、2010年10月に発売されたWii用ソフト。初期のマリオタイトルが4本遊べるほか、記念ブックレットやサントラCDも付いている。
- 岩田
- NOA(Nintendo of America)からは、
「『ゼルダ』の記念パックをつくりませんか?」という
提案もあったりしましたよね。 - 宮本
- そうなんです。
でも、2年連続で同じようなことをするのは
もっとも任天堂らしくないんじゃないかと。 - 岩田
- はい。宮本さんもわたしも、
このNOAの提案に対しては、
それぞれ別々に「任天堂らしくない」って言っていましたよね。 - 宮本
- ええ、それは勝手な“任天堂しばり”
みたいなものなんですけど、
新しいことをしないと楽しくない。
それでいろいろな企画を考えてみたのですが、
そもそも僕がつくるゲームの音楽で
いちばん最初にオーケストレーションをやったのは、
『ゼルダ』だったんですよね。 - 岩田
- はい、『トワイライトプリンセス』(※21)のときが
初めてでしたよね。
『トワイライトプリンセス』=『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』。2006年12月に、Wiiおよびゲームキューブ用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャーゲーム。
- 宮本
- そうです。
それに、今度の『スカイウォードソード』では、
シリーズ最大の曲数をオーケストラ録音しているんです。
そこで、すでにE3で発表しましたが、
日米欧各地域でそれぞれ、
ゼルダの伝説25周年を記念したオーケストラコンサートを
開催することになりました。
日本では、10月10日の体育の日に、
東京のすみだトリフォニーホールで行います。
演奏は東京フィルハーモニー交響楽団で、
指揮者はおなじみの竹本泰蔵さん(※22)です。 - 岩田
- 竹本さんは、スマブラコンサート(※23)や
『マリオギャラクシー』シリーズ(※24)の
オーケストラの曲を指揮された方ですよね。
- 宮本
- はい。ただし、コンサートは日本では1回だけの予定ですし、
ご希望の方全員に直接ご参加いただけないかもしれません。
でも、できるだけたくさんの人たちに
『ゼルダ』の曲を楽しんでいただきたいので、
このコンサートのCDをつくる企画も考えています。 - 岩田
- CDは、現時点でふたつのCDの企画がありますよね。
- 宮本
- はい。
ひとつは、『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』を買っていただいて、
クラブニンテンドーに7月31日までに登録していただくと
全員にプレゼントすることになった
「オリジナルサウンドトラックCD」です。
そしてもうひとつが、オーケストラコンサート、
「ゼルダの伝説 25周年 シンフォニー」を収録したCDです。
これをみなさんにどのようにお届けするかは
改めてお知らせすることになると思います。 - 岩田
- つまり、ゼルダ25周年は
音楽を軸として展開されるということですね。 - 宮本
- そうですね。
あと、『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』、
それから年内発売予定の『スカイウォードソード』、
6月8日からニンテンドーeショップで配信を開始した
バーチャルコンソールの『ゼルダの伝説 夢をみる島DX』、
9月にDSiウェアとして無料配信予定の
『ゼルダの伝説 4つの剣』(※25)など、
25周年の今年は、何タイトルかの『ゼルダ』を
楽しんでいただけるよう計画しています。 - 岩田
- 今年は“ゼルダ三昧”の年になりそうですね。
- 宮本
- そうですね・・・。
いや、『ゼルダ』だけでなく
3DSで『マリオ』の新作もつくっていますので、
みなさんには楽しみに待っていてもらいたいですね。
- 岩田
- (笑)
竹本泰蔵さん=クラシック音楽を中心に、映画音楽、ゲーム音楽など、幅広いジャンルで活躍する指揮者。
スマブラコンサート=2002年8月に東京で開催された、「大乱闘スマッシュブラザーズDXオーケストラコンサート」のこと。任天堂とハル研究所が主催。
『マリオギャラクシー』シリーズ=『スーパーマリオギャラクシー』と『スーパーマリオギャラクシー 2』。ともに、Wii用ソフトとして発売された3Dアクションゲーム。1作目は2007年11月、2作目は2010年5月発売。
『ゼルダの伝説 4つの剣』=2003年3月にゲームボーイアドバンス用として発売された『ゼルダの伝説 神々のトライフォース&4つの剣』の『4つの剣』のこと。