『スーパーマリオ 3Dランド』
開発スタッフ 篇
2. 2Dマリオと3Dマリオのミッシングリンク
- 林田
- 2Dマリオと3Dマリオの間には
「ミッシングリンク(※4)」があると思っています。
マリオの歴史でいえば、
『マリオワールド』(※5)と『マリオ64』(※6)の間に
大きな溝があるような気がしているんです。
ならばそれを埋めるものをつくろうと。
そして出てきたのが・・・ゴールポールです。
ミッシングリンク=失われた鎖。連続性が期待されている事象に対して、非連続性が観察される場合、その比較的顕著な隙間(すきま)を指す。
『マリオワールド』=『スーパーマリオワールド』。1990年11月に、スーパーファミコン用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
『マリオ64』=『スーパーマリオ64』。1996年6月に、NINTENDO64用ソフトとして発売された、マリオシリーズ初の3Dアクションゲーム。
- 岩田
- クリアの条件が2Dマリオと同じ
「ゴールポールにタッチすること」に戻ったんですね。
ずっと3Dマリオは「スターを取ること」が
ゴールになっていましたが。
- 林田
- これは、僕らにとって大きな変更なんです。
いつでもコースの末端にあるゴールポールと違って、
スターはぜんぜん関係ない場所に隠されていることがあるんです。 - 岩田
- コースのすごく深ーいところにあったりしますよね。
- 林田
- それが3Dマリオの“探索”というおもしろさなんです。
広いフィールドのいろいろなところに行ってゴールを探す、
というのが魅力だったんです。
けれど今回はそこはまず捨てて、いちばんはじめの
「
コースのおわりにあるゴールポールにたどりつく」
というゲームにしようと決めました。
- 岩田
- それは大転換ですよね。
宮本(茂)さんは、それについて何も言わなかったんですか? - 林田
- 宮本さんにこれを提案するときは、それはもう・・・
ドキドキしました。
そうしたらあっさりと、
「やっぱりマリオといえばゴールポールだよね」と(笑)。 - 岩田
- 「どんな思いで提案したかも知らず・・・。
こっちはドキドキしていたのに!」という想いでしたか(笑)。 - 林田
- はい(笑)。むしろ、
「クリアしたときに揚がる旗は、
毎回、上まであがるのではなくて、
『ゴールポールにタッチした高さ』までにしてほしい」
という提案ももらいました。
これは、26年前の初代『スーパーマリオ』(※7)で
やりたかったけれど、できなかった仕様だったそうです。
初代『スーパーマリオ』=『スーパーマリオブラザーズ』。1985年9月にファミコン用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
- 岩田
- ゴールポールの印象は、ゲームの印象を大きく左右しますからね。
宮本さんは、ここは力の入れどころだと思ったんでしょうね。 - 林田
- その後、小泉(歓晃)さん(※8)に聞いてみたんですが、
じつは『マリオ64』のときも、
1回ゴールポールを試してみたらしいんですね。 - 岩田
- へえ~、そうなんですか。
小泉歓晃=東京制作部所属。『スーパーマリオギャラクシー2』と『スーパーマリオ 3Dランド』ではプロデューサーを務めている。
- 林田
- ただ、当時は
「3Dでの遊びは何がいちばんおもしろいか?」
を主軸に考えたところ、
やはりいろいろなところに行ったり、
何かを探したりするのがいい、ということになって、
スターを取るってところに行き着いたようなんです。 - 岩田
- いろいろなところに行けるということは、
自由な反面、どこに行けばよいのかわからなくて
“迷う”という宿命を背負うことでもありますからね。
2Dマリオの場合、右に右に行けば必ずゴールポールがあるから、
「このまま先にいっていいの?」という迷いはないですよね。 - 林田
- そうなんです。だからその後は、
従来の2Dマリオのルールを、3Dマリオで展開したとき、
「どういう風にそのゲームを成立させることができるのか」
ということ、つまり「どうやってコースをつくっていくのか」
ということを、イメージしていくことにしました。 - 岩田
- わかりました。
では、次は今回のコースをつくる点で、
気をつけたことを訊いていきましょうか。
辻村さん、お願いします。 - 辻村
- 今回、気をつけたのは、
プレイヤーをきちんと誘導していくコースをつくる、
ということです。
今回の基本的なコースの構成は、
右、もしくは奥に進んでいけば
必ずゴールにたどりつくようになってます。
さらに、
「こちらに進む」という矢印をつけたり、
コースに柵を設けたり、
ゴールまでたどりつくためのギミックを置いていきました。
- 岩田
- それは、プレイヤーがどこへ行けばいいか
わからなくならないように、細部まで
ものすごくこだわった、ということですか? - 辻村
- はい。ものすごく細かいところまで、
最後の最後まで調整しました。
とくにゴールポールに関しては、
遠くのほうにゴールポールが見えるシーンもあるんです。
「あそこがゴールなんだ」ということに気がつけるように。
- 岩田
- ・・・あえて訊きますが、
そうやって一本道のコースづくりをする一方で、
3Dマリオをつくり続けていた人たちからすると
「3Dマリオの良さが失われてしまうのではないか?」
という葛藤があって当たり前だと思うのですが、
そのあたりはどうだったんですか? - 林田
- ・・・僕が答えちゃっていいんですか?
- 辻村
- どうぞ。
- 岩田
- どうぞ(笑)。
- 林田
- じつはこのゲームはですね・・・進んでいけばいくほど、
段々と従来の3Dマリオの遊びになっていくんです。
最初のステージでは、
単純にゴールポールにたどりつけばいいんですけど・・・。 - 岩田
- 一本道のゲームだと思ったら大間違い、ということですか?
- 林田
- そのとおりです。
たとえば今回、「スターメダル」というものを用意しました。
このスターメダルは、『Newスーパーマリオ』(※9)の
「スターコイン」(※10)のようなものなんですが、
あえて名称を変えたのは、スターメダルは
これまでの3Dマリオのスターの役割を持つからです。
フィールドのいろいろなところに行って、
それを見つけるという、“探索の遊び”が
そこに凝縮されているんです。
『Newスーパーマリオ』=『Newスーパーマリオブラザーズ』。2006年5月に、ニンテンドーDS用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
「スターコイン」=『Newスーパーマリオブラザーズ』に登場するアイテム。オールクリアするためには、ゲーム内にあるすべてのスターコインを集めなくてはならない。
- 岩田
- ゴールするだけならゴールポールにたどりつけばいいけれど、
それじゃ満足できない、という人は
スターメダルを全部探してみてください、
という挑戦状にもなっているわけですね。
まさに、「ミッシングリンクをつなぐもの」ですね。
- 林田
- そうなんです!
- 岩田
- うーん、なんだかこれって・・・、
じわじわと、2Dマリオのプレイヤーを
3Dマリオに染めてやろうという
野望が感じられるんですけど・・・(笑)。 - 一同
- (笑)