『スーパーマリオ 3Dランド』
プロデューサー 篇
2. ファミコンの『マリオ』のようにつくる
- 岩田
- では考古学者のように、そういう思いでつくりはじめて、
林田さんの実際の手ごたえはいかがでしたか? - 林田
- 印象深かったのは、あるスタッフが
「ファミコンの『マリオ』をつくっているみたいだよね」
というようなことを言っていたことなんです。 - 岩田
- へえー、それはどの部分でそう感じたんですか?
- 林田
- そこは、いろんな意味があったと思います。
- 宮本
- たぶん、わかりやすい例で言うと、
2Dのときのような感覚で
「敵を踏む」動作ができるようにしたんです。
『ギャラクシー』や『サンシャイン』でつくってきた
リアルに踏む感じより記号的になりました。 - 岩田
- ということは、ファミコンのマリオで面白かった部分を
きちんと摘出して、つくり込んでいったんですね。 - 宮本
- そうです、だから今回、修正していったところも
ファミコン当時の爽快な処理を思い返しながら直していく、
みたいなことをやりました。 - 岩田
- つまり、最新のものにもう一度、
「原点」を色濃く反映させたといってもいいわけなんですね。 - 林田
- はい。そう思います。
- 岩田
- 一方で、手塚さんはしばらく2Dマリオの担当でしたよね。
3Dマリオについては「宮本さんの領分」ということで、
いままでは少し、距離をとった立場だったように思うんですけど、
今回、積極的にかかわったのは、なぜなんですか? - 手塚
- 確かに、いままでの3Dマリオは宮本さんが直接見ていたので
あんまり口出ししませんでした。
でも今回の『3Dランド』は、
2Dマリオに近い部分をいっぱい感じたので
いろいろと言いたくなっちゃったんですよね。
だから「口をはさませてよ!」っていう感じでした(笑)。
- 岩田
- 前回の「社長が訊く」でも話題になりましたが、
手塚さんが試作品をさわって、
厳しいアドバイスをいろいろしたと訊きましたけど? - 手塚
- あ、はい。
最初に「よくないところはよくない」と
はっきり言ったほうがいいかな・・・と思って。 - 岩田
- 手塚さんに言われたとき、小泉さんはどう感じました?
- 小泉
- やっとか・・・と思いましたけど(笑)。
今回は『マリオ64』(※6)から継承してきた
「探索する」というゲーム性を脱却して、
改めて「マリオ」のもともとの要素を
再構成するつもりでつくったんです。
だから手塚さんも、2Dマリオの流れを
感じざるを得なかったんだと思います。
『マリオ64』=『スーパーマリオ64』。1996年6月に、NINTENDO64用ソフトとして発売。マリオシリーズ初の3Dアクションゲーム。
- 岩田
- 『ギャラクシー』シリーズのように
コース内の星を探しにいくゲームではなく、
ゴールポールをめざして進むという
マリオの原点を反映させたということですよね。
わたしは手塚さんの話を訊いたときに
「えーっ?」って思ったんですけれども。 - 宮本
- 僕はそれを知って、「よーし!」って
逆にファイトが湧いてきましたよ(笑)。 - 岩田
- でも、手塚さんからの数々のアドバイスには
“うれしさ”や“気持ちよさ”が原点にあって、
たとえば、散らばったコインを取りに戻る行為は、
3D空間を動き回ることが普通になってしまった今では、
「ちまちましてる」行為になってしまうんですよね。 - 宮本
- コインの話について少し補足させてもらうと、
僕のなかでもちょっとした変遷があるんです。
『ギャラクシー』をつくっているとき、
最初の現場から出された試作では、
コインがプレイヤーのところに
ピューって勝手に飛んでくる仕様だったんです。
でもそんなひとごとのような感覚がイヤで
“コインを取りにいく”というかたちに修正したので、
その流れが自分のなかでは正当化されていたんです。 - 岩田
- そもそも拾い集めたいと感じてもらうために
コインを出しているわけですからね。 - 宮本
- そうなんです。
でも今回はゴールをめざすゲームなのに、
進行方向と逆にコインが転がってしまっては、
拾い集めるのはめんどうなんです。
だから過去に正しかったことが
今回もそうとは限らないので、
一連の責任を感じて修正するわけです。
- 小泉
- それに加えて今回は
タイマーが入ったりしたので、ゲーム性が変わりました。
そうなると“コインを拾って遊ぶ”という行為の
スピード感やテンポ感が、
このゲームと合わなくなってきたんだと思います。 - 宮本
- それに、タイマーについてもいろいろ変わったよね?
- 林田
- はい。こちらも手塚さんから
「短いです」と意見をもらえて、長くしました。
これも、ちまちましていた理由のひとつだったと思います。 - 宮本
- とくに手塚さんは、横スクロールを信じないで
わざと前後に動いてみるとか、
プレイ中に余計なことをいろいろするもんだから、
さらにクリアタイムがかかっていましたから(笑)。
まぁ、そういうことをしてくれる人にも遊んでほしいので、
最初に設定していたタイムは短かったと思います。 - 岩田
- しばらく3Dマリオから離れていた手塚さんからすると、
このゲームのどんな魅力に引き寄せられたんですか? - 手塚
- やっぱりタヌキマリオかな・・・。
もともと僕が『マリオ3』の
タヌキマリオをつくった張本人なんですが、
2Dのタヌキマリオよりも今回のほうが
ずっと性能が活かされているんですよ。
敵をはじくときにクルッとしっぽが回るんですが、
『マリオ3』だと右か左の敵を倒すだけのところ、
今回は360°敵を倒すことができるんです。
- 岩田
- タヌキマリオが3Dの世界に合っていたんですね。
- 手塚
- そうなんです。
だから「よくぞ、昔つくったものを活かしてくれました!」
っていう気持ちでした。 - 岩田
- 林田博士の考古学による、
タヌキマリオの再発見だったわけですね。 - 林田
- ありがとうございます(笑)。
じつは3Dマリオが苦手という手塚さんに、
今回はエンディングまでプレイしていただけて、
僕はすごくうれしかったんですよ。 - 宮本
- 手塚さんは、
それで3Dマリオが面白いと思うようになったんだよね? - 手塚
- そうです(笑)。
- 岩田
- 林田さん、3Dが慣れていない方に
まず2Dのようなところから入ってもらって、
気がついたら3Dで楽しく遊んでいる・・・
という林田さんの、まさにもくろみどおりじゃないですか。 - 林田
- そうなんです。
まず手塚さんの例から勝機が見えました(笑)。 - 岩田
- 商品発売前に、
すでに実例ができていたわけですね。 - 小泉
- 50歳のおじさんと、60歳近いおじさんが
ワイワイ遊んでいるんだから、
こわがらなくても、もう大丈夫ですよね。 - 一同
- (笑)