ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』
開発スタッフ 篇
3. 教授のキャラで試行錯誤
- 岩田
- 開発テーマを切り替えて、
どのようなことを具体的にしたんですか? - 河本
- たとえば、これまでの『脳トレ』だと、
トレーニング中に教授が出てくることは
ありませんでしたが、
今回は
マンツーマンで登場するんです。
- 北村
- 正解すると、教授がほめてくれたり、
くじけそうになると、励ましてくれたりします。 - 河本
- そういった演出は、
わりと開発の中盤になってから
詰め込んでいきましたよね。 - 北村
- そうですね。
- 高橋
- でも、僕も教授の演出が入った頃に、
ガッツリとモニターをしてみたんですけど
・・・計算できなかったんです。 - 岩田
- それはどうしてですか?
- 高橋
- 「はいっ」とか「へえ」とか、
教授の合いの手がいっぱい入りすぎていて・・・。 - 岩田
- ああ、計算に集中できなかったんですね。
- 高橋
- そうなんです(笑)。
だから・・・(サッと手を払うような仕草をして)
「あーもう、うるさい!」って(笑)。
- 岩田
- でもたぶん、声がないと味気ないし、
その一方で、しゃべりすぎると・・・。 - 高橋
- すごくじゃまになるんです。
- 河本
- あまり上手じゃない家庭教師みたいになるんですよね。
- 北村
- 教授のキャラクター設定はすいぶん苦労しました。
- 岩田
- 最初は火山でしたしね(笑)。
- 北村
- その火山のときから、
音声を入れることは決めていたんです。
そこで、どういう口調にして、
どういう見かけがいいのか、
検討をはじめたんですけど、
最初は、鬼教官とか鬼体育教師みたいな
本当に怖いイメージだったんです。
セリフは全部、伊藤さんに
お任せしていたんですが・・・。 - 岩田
- 伊藤さんが教授のセリフを書いたんですか。
- 伊藤
- はい。まずは、
「どんなセリフにしたらいいんだろうか?」
ということで、4パターンくらい考えて、
スタッフからアンケートをとってみたんです。
「すごく厳しい」のと、
「そこそこ厳しい」のと、
「やさしい」のと・・・
「すごくイヤミなタイプ」と。 - 岩田
- はい。
- 伊藤
- すると「そこそこ厳しい」が票を集めたので、
それで開発を進めたんですが、
そのあと、別の人たちにモニターをやってもらったら、
大不評だったんです。 - 岩田
- それはなぜなんですか?
- 伊藤
- 「厳しすぎるし、教授の上から目線がイヤだ」
「なんか、怒られてるみたいでイヤだ」と・・・。 - 岩田
- あの・・・話の途中ですが、
これをお読みのみなさまにお伝えしたいのですが、
このあたりの話は、川島教授ご本人との人格とは
いっさい無関係ですから、くれぐれも
誤解なきようにお願いいたします。 - 高橋
- そうですね(笑)。
川島先生は、任天堂が
先生のキャラを創作することに対して、
大らかに対応していただいていて、
すごく救われています。 - 河本
- 川島先生はすごく寛容な方なので、
初代の『脳トレ』のときから
ずいぶん助けられていますよね。 - 岩田
- で、「そこそこ厳しい」でも、
教授から怒られているように感じたわけですね。 - 伊藤
- はい。そこでセリフを少し丸くしてみたら、
「まあまあ好き」という回答が増えたんですが、
それでも「すごくイヤだ」
という意見はなくならなくて。
- 岩田
- 何がいけなかったんでしょうか?
- 伊藤
- 「どこが気に障るのかな?」と思って、
いろいろ考えたんですけど・・・。
やっぱり上から目線ということに
すごく敏感な方たちがいらっしゃるんです。
ゲーム機の中のキャラクターが
対等な言葉づかいで話してくることに
違和感があるのかなと。 - 岩田
- たとえばどんなセリフに違和感があるんでしょうか。
- 伊藤
- たとえば「すばらしい!」というほめ言葉でも、
言いかたによって、バカにされたような・・・。 - 岩田
- 同じ言葉でも、
言いかた次第でイヤミに聞こえるんですね。 - 北村
- 文字だけなら読み飛ばせたものが、
音声だとどうしても耳に入ってくるので、
ちょっとした言い回しでも気になるんだと思います。 - 高橋
- しかも最初は、声優さんではなく、
社員の声を仮で入れていたんです。なので、
「しっかりとした間合いを取るために、
プロの声優さんを早めにセッティングしたほうがいいよ」
というアドバイスをしました。 - 伊藤
- はい。そのアドバイスをもらって・・・。
- 北村
- すぐに声優さんで仮録りして、
デバッグを開始したのですが、デバッグスタッフの中でも
「ちょっとイヤだ」という感想があったんです。
そこで、本収録までに、伊藤さんが
テキストをいろいろ調整して・・・。 - 伊藤
- はい、声優さんの本収録のときは
セリフの一つひとつを聞きながら、
「いまのところがちょっと気になるから」と
何度も何度も録り直しをお願いしました。 - 北村
- その甲斐あって、製品に入っている音声は
ずいぶんよくなったと思います。 - 岩田
- わたしも実際にやってみて
けっこう自然にできる感じがしましたよ。 - 伊藤
- そこに関しては、じつはセリフを直しただけでなく、
演出の面でもちょっとした工夫をしているんです。
最初は正解していくと、
教授が「いいですね!」とか言ってくれたりしますけど、
プレイヤーが集中してきたタイミングで
いつの間にか出てこなくなるようにしました。
- 岩田
- あ、そうかそうか。
教授はずっとしゃべり続けるんじゃなくて、
調子が良くなると、静かに見守ってくれるんですね。 - 伊藤
- そうなんです。
で、ちょっと失敗すると、また励ましてくれて、
そのあと調子にのってくると、静かになる、
という流れにしています。 - 高橋
- だから「教授、うるさい!」みたいなことは
感じられなくなったと思います(笑)。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- でもそうやって、
教授とマンツーマンであることで
「鬼トレ」の厳しさが軽減されていて、
続けやすくなっている、ということなんですね。 - 高橋
- はい、そのとおりです。