『花といきもの立体図鑑』
1. 立体画像で図鑑をつくる
- 岩田
- 今日は『花といきもの立体図鑑』について
開発にかかわったみなさんに集まっていただきました。
今日は、ご足労いただいて、ありがとうございます。
まずはみなさんが何を担当されたかを含めて、
自己紹介からよろしくお願いします。 - 西田
- はい、平凡社(※1)の西田裕一と申します。
2006年10月ごろに
「任天堂さんといっしょに図鑑をつくりたい」
ということで、電話でご連絡をさせていただいたのが
ご縁のはじまりです。
平凡社=株式会社平凡社。東京都文京区に本社を置く日本の出版社。
- 岩田
- 平凡社さんからコンタクトしていただいたことで、
ご縁がつながったんでしたね。
途中で別のソフトでのおつき合いはありましたが、
企画をご提案いただいてから丸5年、
ずいぶん長いプロジェクトになりました。 - 西田
- そうですね。
中身についてはとなりの大石と亀澤が担当しまして、
わたしはソフトのコンセプトづくりや
ディレクションをおこないました。 - 大石
- はい、平凡社の編集部の大石範子です。
わたしは『月刊アニマ』(※2)という
自然雑誌があったころから編集室におりまして、
博物学の図鑑を10年近く担当しておりました。
『月刊アニマ』が休刊になってからも
動物の写真集や植物の図鑑など、
いろいろな分野に携わってまいりました。
『花といきもの立体図鑑』では、
植物写真を集めたり、原稿をつくってもらったり、
ということを担当しました。
『月刊アニマ』=平凡社発行で、1973年に創刊された自然史をテーマとした雑誌。1993年に休刊。
- 岩田
- 平凡社さんといえば“百科事典”というイメージを
多くのみなさんがお持ちではないかと思うんですが、
“何かの図鑑をつくる”ということは
すごく長いサイクルで取り組まれているんでしょうね。 - 大石
- はい。書籍の場合、
10年越しで行うことがけっこうあります。
だから、この企画に関しては
ものすごい短期間で仕上げたな、という印象なんです。 - 岩田
- たしかに、最初にお話をいただいてから
この企画が始まるまでには時間がかかりましたが、
この企画そのものはかなりのスピードで進みましたよね。 - 亀澤
- 平凡社の亀澤洋と申します。
わたしも『月刊アニマ』のころから、
大石とともに動物関係の書籍をつくっておりました。
でもわたしは一時期、平凡社から離れておりまして、
そのときは“環境調査”といって
10年くらい野外で動植物の調査をしていたんです。
- 岩田
- “環境調査”ですか。ではその期間のご経験は、
この商品にそのまま活きたんじゃないですか? - 亀澤
- はい、そう思います。
- 西田
- 花やいきもののつながりを相関図で表した
「
いきものリンク」は、
かなりの部分を彼がつくったんです。
- 岩田
- ああ、謎がひとつ解けました。
「いきものリンク」がとても面白くて、
あれはどうやってつくったんだろうと思っていました。
ここにあのような情報を持つ
生き字引とも言える方がおられたんですね。 - 三田
- はじめまして。
キュー・テック(※3)の三田と申します。
この企画では、すべての静止画と動画の
立体化を担当いたしました。
キュー・テック=株式会社キュー・テック。東京都港区に本社を置く、ポストプロダクションスタジオ事業。
- 岩田
- “立体化”というのは、もともと平面で撮られた素材を、
自然に立体に見えるように加工する技術のことですね。 - 三田
- そうです。ふだんはポストプロダクション(※4)として、
映像の編集や、劇場作品などの立体化を行っていまして、
去年の6月ぐらいにこの話をいただきました。
また、立体画像を360度回転させられる
「くるくるビュー」も担当しました。
ポストプロダクション=映像編集を専門に扱う映像編集会社。
- 岩田
- 「くるくるビュー」は妙にうれしくなる機能ですから
ぜひ、いろいろな方に見ていただきたいんですよね。 - 金子
- パオン(※5)の金子篤と申します。
このソフトではプログラムとデザイン全般の開発と、
「花カメラ」の検索機構を作成しています。
パオン=株式会社パオン。東京都港区に本社を置く日本のゲーム開発会社。
- 岩田
- 「花カメラ」というのは、
“花の写真を撮ったら花の名前がわかる”という
夢のような企画からはじまったものですが、
まあ・・・言うほど簡単なものではなく、
すごく大変なことになりましたね。 - 金子
- すごい・・・ことになりました。
2009年2月ごろ、伊豆野さんにお声がけいただいて
この企画がスタートしたんですが、
最初は5割ほどしか花の名前が当たらなくて、
そこから苦難の道のりがつづくことになります。
花のデータを集めるために平凡社さんにもお願いして、
一時はスタッフ全員で外に出て、植物園などで
とにかく花のデータを集めていました。 - 吉良
- 植物園の方に顔を覚えられたんですよね?
- 金子
- そうなんです。
「ちょっと花の調査を・・・」ってごまかしましたけど(笑)。
花屋さんでもお花を撮らせてもらって、
最初、お店の方は「あ、どうぞどうぞ」
と言ってくれるんですが、
ずーっと撮っているものですから、
そのうち「そろそろご遠慮を・・・」
と言われる始末でした。 - 岩田
- データ集めが大変でしたね。
金子さんは、いつごろから任天堂とご縁があるんですか? - 伊豆野
- ゲームボーイアドバンスで『ぶらぶらドンキー』(※6)を
いっしょに開発したころからのおつき合いです。
『ぶらぶらドンキー』=2005年5月にゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売された、ぶらぶらアクションゲーム。
- 岩田
- ずいぶん長いおつき合いになりますね。
はい、では伊豆野さん、お願いします。 - 伊豆野
- 任天堂、企画開発の伊豆野です。
僕はこの企画のプロデューサーとして、
企画の立ち上げと、商品コンセプトを
“臨機応変”に対応しながら進めていきました。
- 岩田
- いまの“臨機応変”という言葉には、
“商品コンセプトが徐々に最初と形を変えていった”
という深い意味が込められているように感じますよ(笑)。 - 伊豆野
- そうです(笑)。
最初に西田さんがお見えになったとき、
ぼくはその場に立ち会っていなかったんですが、
Wiiウェアの『アクアリビング』(※7)をつくるとき、
平凡社さんに熱帯魚の監修をお願いして、
その制作が落ち着いた頃、
「次は『花』をテーマに平凡社さんと何かやりたいな・・・」と、
僕の中で勝手に思っていたんです。
『アクアリビング』=『アクアリビング テレビでながめる魚たち』。2010年3月、Wiiウェア用ソフトとして配信された熱帯魚鑑賞ソフト。
- 岩田
- では、ご提案をいただいていた“花”をテーマに
今回、ご縁ができたんですね。 - 伊豆野
- はい、それで最初は
「花の名前を楽しく覚えられるソフトができないか」
という切り口で考えていたのですが、行き詰ってしまい・・・。
それで、ちょうどDSi LLが発売された2009年11月頃でしたが、
DSiカメラで写真を撮って、花の名前を当てたら
お客さんはびっくりするに違いないと思ったんです。
けれどまぁ・・・なかなかうまくいかなくて、
開発が難航していたころにニンテンドー3DSの情報が入ってきて、
“立体図鑑”という方向性で動きはじめました。 - 岩田
- そのころ、「立体画像で図鑑をつくると面白そうだ」
という話題も、社内のあちこちから出ていましたよね。 - 伊豆野
- はい。すると
「鳥は入れられないの?」とか、
「動きをつけられないの?」とか・・・
まぁ、後になってさまざまなところから、
いろいろなお話が出てきました(笑)。 - 岩田
- 「花だけのはずが・・・」ということですね。
ただ、そこで立ちはだかった問題は
「立体の素材はそれほど存在しない」
ということだったんですよね。 - 伊豆野
- そうです。
当初は3DS発売直後に出す予定でしたし、
期間的にすべての3D画像を撮ることが難しかったので、
キュー・テックさんにその部分をお願いしました。
このご縁は、となりの吉良さんがキッカケです。 - 吉良
- はい、企画開発の吉良です。
わたしは少し遅れて開発に参加しましたが、
花と植物が得意という自信があったので、立候補しました。
で、先ほどお話にも出ましたが
立体コンテンツをどう集めるかが悩みどころだったんです。
- 岩田
- 当初は秋ではなく、春から初夏にかけて
発売しようという予定だったんですよね。 - 吉良
- はい。でも3DS向けの開発をはじめたのは去年の秋からで、
どう考えても1年間の花が集まらないから、
「オーストラリアまで撮影に行くか!?」
みたいな話も出たぐらいでした。 - 一同
- (笑)
- 吉良
- さすがにそれは無理でしたけれど、
ちょうど別のプロジェクトでお世話になった方から
キュー・テックさんの紹介があって、
ようやく先が見えたという感じでした。 - 岩田
- ああ、そうだったんですね。
キュー・テックさんとのご縁がなかったら
これだけの素材を立体で表示できていませんからね。 - 吉良
- はい。