『花といきもの立体図鑑』
4. “UI命”
- 岩田
- 伊豆野さんは、
突然、宮本さんから「図鑑をつくるなら鳥を入れたい」
と言われましたよね?
実際に入れてみた手ごたえはどうでしたか? - 伊豆野
- やはり花だけのものとぜんぜん違いました。
平凡社さんに集めていただいた映像や、
キュー・テックさんが3D化したものの
クオリティがものすごく高くて、
めくっているだけで楽しくなるくらい、
貴重な価値が生まれたと思います。 - 吉良
- あと「
動画を入れたい」という話も出ていたので、
鳥や虫が入れば、動きのある図鑑として動画も活きましたし。
- 西田
- でもね、はじめに吉良さんから
「できるだけ動かない動画をください」
という不思議な要求をいただいたときは
「どういうこと!?」って現場で紛糾したんですよ。 - 岩田
- 動かない動画ですか?
それってどういう意味だったんですか? - 吉良
- 図鑑の写真の代わりとして、
短めの動画でループさせるためにも、
できるだけその場にとどまっている動画が必要だったんです。 - 西田
- それに動きが激しい動画では特徴がわかりづらいですから、
“動かない動画”の意味は、あとからよく理解できました。 - 伊豆野
- それと、身近に見られる花・鳥・虫などが揃ったことで、
身近な花やいきものをチェックして
記録として残しておくという意味合いも盛り込めましたので、
その延長として「
ご当地から検索」という仕組みを
平凡社さんに提案しました。
自分の都道府県にいる花や鳥や名所がわかるのですが、
身近ないきものを見つけるキッカケにできたらいいと思いまして。
また訪れた先でも見つけられたらいいですね。
- 岩田
- キュー・テックの三田さんは、
たくさんの写真や動画の立体化と格闘していく中で、
ソフトの進行をどう見ていましたか? - 伊豆野
- じつはいちばん、進行が見えないかたちで
作業していただいたのが三田さんなんですよね。 - 三田
- はい(笑)。
ひたすら素材を仕上げていました。
図鑑なので、より正確な形にする必要があるため、
ほかの写真を探して別のアングルを見たりして、
全体の形を把握していきました。
それから昆虫の構造や動物の骨格は
左右対称に見えるように、意識してつくっていくんですが、
最近の若いスタッフは実際の虫や動物を見る機会が少ないので、
形の把握がなかなか難しかったようでした。
- 岩田
- とくに都会に住んでいると
本物を見たことがない方がいるんですよね。 - 三田
- ええ、虫や動物が身近にいないので、
そもそも雰囲気がわからなかったんです。 - 西田
- それと、3D画像の校正が難しかったですね。
形がおかしいところを、どう伝えていいかわからなくて・・・。 - 三田
- ああ、そうなんです。
こちらからデータをお渡したら、
返ってくるものに絵が描いてありまして、
修正箇所が丸く囲まれて斜線が引いてあって
「この部分はこんなにへこんでいない」とか
「もう少し出す」とか描いてあるんです。 - 岩田
- 言葉だけでは、立体の説明が難しいんですね。
- 三田
- ええ、なかなか伝えられないので、
そういう難しさも感じました。
でもすごく楽しい作業で、勉強になりました。
うちは40名ほどのスタッフなんですが、
制作期間の中でとても成長できたんです。
少し専門的なお話になりますけれど、
立体像をつくるときは静止画で必要な部分を切りぬいて、
視差(両目で見たときの絵のズレ)をつくるんです。
切ってずらすと、当然モトの画像に穴があいてしまうため、
その穴を埋める技術をいろいろ開発しまして、
かなりクオリティの高いものができたと思います。 - 岩田
- コンピューターの力を借りてつくる一方で、
最後は人の手による職人芸にかかってくるんですね。
わたしもけっこう、しげしげと眺めたんですが、
もともとは2Dだった画像を3Dに加工したという感じが全然しなくて
すごいなと思って見ていました。 - 三田
- ありがとうございます。
- 吉良
- それから3D変換した結果が
「飛び出している」とか「いや、飛び出ない」、
というやりとりも最初にありましたよね。 - 三田
- はい。もともと、うちは映画をメインでつくっていましたので、
大きい画面だとそれだけ視差が広くなるんですが、
携帯画面では視差も小さくなるため、
いつもより強調してつくらないと
あまり立体感が出てこないんです。
開発初期はまだ実機がなかったものですから、
つくっては直しながら格闘していました。 - 岩田
- 開発初期には、実機をお渡しできる段階ではなかったので
ずいぶんご不便をおかけたでしょうね。ありがとうございました。
実際にできあがったものをご覧になって、
どの部分が面白かったですか? - 三田
- はじめの「ビジュアル目次」です。
図鑑データがたくさんそろっていることを
フィールド上で確認できるところが面白くて、
はじめて見たときちょっとゾクッとしました。
同時に、「これだけつくったんだ・・・」と、
改めて感慨深くもなりました(笑)。 - 伊豆野
- めくってもめくっても、
見たことのない画像が出てきますからね。 - 岩田
- そして、それを全部つめこんだのが、
パオンの金子さんです。 - 金子
- はは・・・(笑)。
UI(※8)が何度も変わりましたねぇ。
UI=ユーザーインターフェイス。ユーザーが操作する、コンピューターのシステム。
- 岩田
- UIの変更の量はすごかったですね。
- 金子
- つくっては壊し、つくっては壊しをくり返して、
だんだんしぼられていきました。 - 岩田
- この商品に関しては
延々とさわりつづけることにストレスを感じると
商品のボリュームが逆にマイナスになってしまうため、
“UI命”で、決して妥協できないポイントでしたからね。
今日ここには来ていませんけど、
部長の高橋(伸也)さん(※9)が一番厳しく見ていたところでしたから、
変更に次ぐ変更で、大変だったでしょうね。
高橋伸也=任天堂企画開発本部企画開発部部長。過去、社長が訊く『Wiiリモコンプラス バラエティパック』に登場。
- 金子
- そうですね。
それから「いきものリンク」も、
紙の上に描いてあるものは面白いんですが、
それを3DSの下画面に
おさめるところがまた、一苦労でした。 - 伊豆野
- 最初はリンクの線を
7本も出していたんですよね。 - 金子
- はい。ゴチャゴチャしていました。
それを4本に削って上画面にフォローを入れたことで、
すごく見やすくなったと思います。
あれが分岐点だったというか・・・。
毎回、分岐点がいっぱいあったんですけれど(笑)、
変わるごとに面白さは増していって、
ゴールに近づいている感じがしました。 - 岩田
- パオンさんのチームのみなさんは、
前進しているという手ごたえを
感じていましたか? - 金子
- そう思います。
ただ、わたしの最初のソフトのイメージは、
“花の図鑑に探しやすい機能がついている”
というイメージだったんですが、やっていくうちに
鳥とか動画とか「くるくるビュー」とかが
どんどん入ることになって(笑)。 - 伊豆野・吉良
- (苦笑)
- 岩田
- いや、そのご理解は間違っていないんです(笑)。
任天堂が後から鳥を入れよう、動画を入れよう、
くるくるまわそう・・・と手応えを感じたことを
どんどん勝手に追加していきましたので。 - 金子
- はい(笑)。
それが、いままでにないものになっていく感じで、
大変ではありましたが、非常に楽しみでもありました。 - 岩田
- それから避けて通れない話題として、
金子さんのチームは仙台にあったので、
東日本大震災の影響をものすごく強く受けられました。
この図鑑は当初考えていたより開発に時間がかかりましたが
UIの改善を繰り返したことだけでなく
当然、そのこともあわせて大変なご苦労があったはずです。 - 金子
- そうですね。
言葉では表せないほどの状況で、
そこから開発が止まってしまうんですが、
伊豆野さんや吉良さん、西田さんからも
メールで温かい気遣いをいただいたり、
いろいろな方から義援金や支援物質を送っていただけて、
何とか開発を再開することができて、
こうやって完成するところまでたどりつけたんです。