『ファイアーエムブレムif』
1. 樹林伸さんがストーリーを
- 岩田
- 今日は『ファイアーエムブレムif』(※1)の
開発に携わったみなさんに集まっていただきました。
よろしくお願いいたします。
『ファイアーエムブレムif』=2015年6月25日に発売予定の『ファイアーエムブレム』シリーズ15作目となる最新作。『白夜王国』と『暗夜王国』の2つのタイトルで発売される。今作は「もしも(if)」がキーワードになっており、「白夜王国」と「暗夜王国」の2つの国の争いを背景に、そのどちら側に立って戦うかをプレイヤー自身が選択することで、シナリオ・マップ・仲間になるキャラクターが異なる対極的な2つの物語が展開される。さらに発売後、大型追加コンテンツとして、「どちらの国にもつかずに戦う」第3のシナリオの配信(有料)が予定されている。くわしくは、公式サイトを参照。
- 一同
- よろしくお願いいたします。
- 岩田
- 前田さんがひとりだけ
「リセット上等」のTシャツ(※2)を着てますけど、
『スプラトゥーン』(※3)に対抗ですか?(笑)
「リセット上等」のTシャツ=このTシャツは、開発スタッフ内製のもので、市販の予定はありません。
『スプラトゥーン』=『Splatoon(スプラトゥーン)』。2015年5月に、Wii U用ソフトとして発売されたアクションシューティング。「社長が訊く」では、スタッフ全員がおそろいのTシャツを着て参加した。くわしくは、社長が訊く『Splatoon(スプラトゥーン)』を参照。
- 前田
- いえいえ(笑)。
- 岩田
- やっぱり『ファイアーエムブレム』は
「リセット上等」を代表するタイトル(※4)ですからね。
「リセット上等」を代表するタイトル=「失った仲間は二度と戻らない」という『ファイアーエムブレム』独特のルールから、それを回避する方法として、戦闘で仲間キャラクターを失った際はリセットしてやり直すという遊びかたがあり、シリーズ第1作(1990年 ファミコン用)からこの遊びかたについてプレイヤーの間で根強い話題となっている。この「リセット上等」の遊びかたについては、制作チーム内でも過去何度も議論されており、その対応のひとつとして、仲間キャラクターが倒されても喪失されず次のマップ以降で使用可能となる「カジュアルモード」が、シリーズ13作目『新・紋章の謎 ~光と影の英雄~』(2010年 ニンテンドーDS用)から導入された。これらの経緯についてくわしくは、社長が訊く『ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 ~光と影の英雄~』 3.「倒された仲間は二度と生き返らない」ことをめぐってを参照。
- 前田
- はい。
- 岩田
- では、自己紹介からはじめていただきましょうか。
- 樋口
- インテリジェントシステムズ(※5)の樋口雅大です。
前作の『覚醒』(※6)では、
プロジェクトマネージャーを担当しましたけど、
今作ではプロデューサーとして、開発にかかわりました。
インテリジェントシステムズ=株式会社インテリジェントシステムズ。『ファイアーエムブレム』シリーズをはじめ、『ペーパーマリオ』シリーズ、『メイド イン ワリオ』シリーズなどの任天堂ソフトや、歴代ハードの開発支援ツールの開発をしている会社。本社は京都。
『覚醒』=『ファイアーエムブレム 覚醒』。2012年4月に、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたシミュレーションRPG。シリーズ14作目。
- 岩田
- プロデューサーは初めてですか?
- 樋口
- はい。初めてです。
僕は入社してから、ほとんど
『エムブレム』シリーズにかかわってきましたけど・・・。 - 岩田
- 『エムブレム』一筋でつくってこられましたが、
ついにプロデューサーに・・・? - 樋口
- でも、やってることは
プロジェクトマネージャー時代と
ほとんど変わらないです。
ただ、変わったことがあるとすると、
ちょっとだけ心労が増えたかなと・・・。 - 岩田
- 肩書きと心労が変わったんですね。
- 樋口
- はい。そんな感じです。
- 前田
- インテリジェントシステムズの前田耕平です。
今作ではディレクターを担当しました。
『覚醒』のときもディレクターだったのですが、
同時に3本(※7)つくったというのは、
今回が初めてのことになります。
同時に3本=『白夜王国』と『暗夜王国』、そして「どちらの国にもつかずに戦う」第3のシナリオ(後日配信予定の追加コンテンツ)の3本を指す。
- 岩田
- 本当に3本つくりましたからね。
- 前田
- そうですね。
- 岩田
- 3本を同時につくるという、
一見、無謀にも思えるチャレンジが、
どのように進んでいったのか、
あとでじっくり訊こうと思いますけど、
「3本つくるなんて言わなきゃよかった」と、
少しくらいは後悔しませんでしたか? - 前田
- いえ、ぜひつくりたいと思っていました。
- 岩田
- まあ、せっかくつくった舞台ですから、
もっとたくさんの物語がそこでは表現できると、
いつも考えておられたでしょうからね。 - 前田
- はい。
- 岩田
- で、樹林さん、はじめまして。
- 樹林
- はじめまして。
- 岩田
- 今作から加わっていただいたとお聞きしていますが・・・。
- 樹林
- はい。ストーリーを担当しました、樹林伸(※8)です。
樹林伸(きばやし しん)さん=元『週刊少年マガジン』(講談社)編集者で、現在は漫画原作者・小説家として活動。帽子とサングラスがトレードマーク。複数のペンネームを使い分け、『金田一少年の事件簿』『サイコメトラーEIJI』『GetBackers-奪還屋-』『探偵学園Q』『神の雫』『エリアの騎士』『BLOODY MONDAY』などの漫画の原作や、『ビット・トレーダー』『陽の鳥』などの小説、テレビドラマシリーズ『HERO』(フジテレビ系列)の企画協力など、多種多様なエンターテインメント作品を手掛ける。今作『ファイアーエムブレムif』では、ストーリー原案を担当。
- 岩田
- 原作者や脚本家でもいらっしゃる
樹林さんのことを、ご存じの方も多いと思うのですが、
その一方で、作品と樹林さんのお名前が
つながっていない方もいらっしゃると思いますので、
これまでのお仕事を簡単に話していただけますか? - 樹林
- はい。もともと僕は編集者で、
長らく出版社にいたんですけど、
そこから独立して、漫画の原作を・・・
たとえば『金田一少年の事件簿』(※9)や
『サイコメトラー』(※10)、『GetBackers-奪還屋-』(※11)、
それにワインの漫画の『神の雫』(※12)などの
原作を書いたり、編集をしたりしました。
『金田一少年の事件簿』=1992年に『週刊少年マガジン』(講談社)で連載が開始された推理漫画。名探偵・金田一耕助の孫でありIQ180の天才的頭脳を持つ高校生・金田一一(きんだいち はじめ)と、その幼なじみの七瀬美雪(ななせ みゆき)がさまざまな事件に巻き込まれ、祖父譲りの抜群の推理力で次々と解決していく。推理漫画ブームの先駆けとなった本作は、その後のテレビドラマ化・アニメ化などを皮切りに、多種多様なメディアとミックスされ、さまざまなコンテンツが生み出された。原作者の樹林伸さん自らも小説版を「天樹征丸」名義で出版されている。
『サイコメトラー』=『サイコメトラーEIJI』として1996年から連載がはじまった『週刊少年マガジン』の漫画シリーズ。物や人に触れるとそれに残った過去の記憶の断片を読み取るサイコメトリー能力を持った少年・明日真映児(あすま えいじ)が、警視庁の女性刑事・志摩亮子(しま りょうこ)と協力して怪事件を次々と解決していくミステリー。1997年と1999年の2度、テレビドラマ化(日本テレビ系列)されている。漫画『サイコメトラーEIJI』は2000年まで連載され一旦終了したが、2011年から『サイコメトラー』とタイトルを一新され、『週刊ヤングマガジン』で連載が再開された。現在(2015年6月)は一時休載となっている。
『GetBackers-奪還屋-』=1999年から2007年まで『週刊少年マガジン』で連載されたファンタジー漫画。裏新宿を中心に依頼者の奪われた物を取り返す裏稼業・奪還屋「GetBackers」の美堂蛮 (みどう ばん)と天野銀次(あまの ぎんじ)のコンビの活躍とバトルを描いた物語。2002年から2003年にかけて、テレビアニメ化(TBS系列)されている。
『神の雫』=2004年に『モーニング』(講談社)で連載が開始された、「神の雫」と呼ばれるワインを探し出す物語の漫画。2014年に一度連載を終了したが、2015年5月から続編『マリアージュ ~神の雫 最終章~』の連載が開始された。2009年には、テレビドラマ化(日本テレビ系列)されている。
- 岩田
- テレビのお仕事もされてるんですよね。
- 樹林
- そうですね。たとえば『HERO』(※13)という
木村拓哉くんのドラマの企画をやってみたり、
映画の企画をやったこともあります。
また、小説もけっこう書いていまして、
『ビット・トレーダー』(※14)や『陽の鳥』(※15)、
それに、まだ本にはなっていないんですけど、
『ドクター・ホワイト』(※16)を
角川書店さんの『野性時代』に連載しています。
『HERO』=フジテレビ系列にて、第1期が2001年に、第2期が2014年に放送されたテレビドラマシリーズ。SMAPの木村拓哉さんが演じる久利生(くりう)検事の型破りな捜査活動を、同僚検事たちの巻き起こすコメディを交えて描かれている。
『ビット・トレーダー』=2007年に幻冬舎から発刊。株のデイトレードを題材に、人生も株も「底」を打った男が、家族の絆を取り戻すための人生をかけた大勝負に挑む、経済犯罪を描いた小説。
『陽の鳥』=2011年に講談社から発刊。生命科学のタブーであるヒト・クローン技術を題材に、ある霊長類クローン研究者の「生命倫理と家族愛」を描いたメディカル・エンターテインメント小説。
『ドクター・ホワイト』=株式会社KADOKAWAが発行するエンターテインメント小説誌『小説 野性時代』で、現在(2015年6月)連載されている樹林伸さんの小説。
- 岩田
- はい。
- 樹林
- あとは、たまに舞台の仕事もしていまして、
市川海老蔵(※17)くんといっしょに、
『石川五右衛門』(※18)という
歌舞伎のストーリーを担当しました。
そのように、基本的には、
物語を考える仕事をやっています。
市川海老蔵さん=十一代目 市川海老蔵さん。日本の歌舞伎役者。テレビや舞台などで俳優としても活躍。
『石川五右衛門』=2009年8月に、新橋演舞場にて上演された歌舞伎。樹林伸さんがストーリー原案を担当し、主演の市川海老蔵さんと共に、新しい視点で石川五右衛門が描かれている。2015年1月には、新たな五右衛門の冒険譚(ぼうけんたん)を追加した新作も上演されている。
- 岩田
- 樹林さんは、
いろんなエンターテインメントのなかで、
メディアの形態を問わず
物語を考える仕事をされてきたんですね。 - 樹林
- そうです。メディアが違っても
物語を表現することは同じだろうと考えています。 - 岩田
- で、ゲームの世界では・・・?
- 樹林
- ゲームの仕事では、いくつか、
ちょっとずつかかわったことはあります。
でも、今回のように、こんなに深く、
本格的にストーリーをつくったのは初めてです。 - 岩田
- いろんな分野で活躍されている樹林さんが、
ゲームの物語を書くにあたって、どんなことを感じたのか
とても興味がありますので、
のちほどお訊きしたいと思っています。 - 樹林
- はい。ぜひ。
- 岩田
- では、横田さん。
- 横田
- 『覚醒』に引き続き、
任天堂側のディレクターをしました、横田弦紀です。
- 岩田
- アウトプットの時期がちょうど
『ゼノブレイドクロス』(※19)と重なりましたね。
『ゼノブレイドクロス』=『XenobladeX(ゼノブレイドクロス)』。2015年4月に、Wii U用ソフトとして発売されたRPG。横田はこのタイトルでもディレクターを担当している。くわしくは、社長が訊く『XenobladeX(ゼノブレイドクロス)』を参照。
- 横田
- そうですね。それで、ちょっと苦労しましたけど、
楽しく開発ができたと思っています。 - 岩田
- 前作の『覚醒』は、ポジティブな評価を
たくさんいただけたところがありましたので、
いいムードでつくることができたんじゃないですか? - 横田
- はい。かなりいいムードでした。
なかには厳しいご意見もいただきましたので
そこは真摯に受け取って、
前田さんとバトルを繰り返しながら
今作をつくりました。 - 山上
- 任天堂のプロデューサーの山上仁志です。
- 岩田
- 山上さんは、久しぶり(※20)になりますね、
「社長が訊く」に出るのは。
久しぶり=山上がこの「社長が訊く」インタビューに登場するのは、2013年8月に掲載された、社長が訊く『Nintendo×JOYSOUND Wii カラオケ U』篇に登場。
- 山上
- そうですね。
やっぱり、若手がどんどん育ってきていますので、
僕は後ろのほうに引っ込んでいてもいいかなと。
でも、今回の『if』では、
ゲームの根幹にかかわるところで
意見をしたりしましたので
久しぶりに出てみようと思いました。 - 岩田
- はい。
それでは最初に、物語の部分で
樹林さんに加わっていただくことになった
ご縁や経緯の話からお訊きしたいのですが・・・。
どうやって樹林さんに行き着いたんですか?
というのも、樹林さんは、
原作を書かれている作家さんのなかでも、
そうとうお忙しい方だと思いますので・・・。 - 樋口
- そうですね。
では、どこから話しましょうか・・・。 - 山上
- まずは、シナリオがダメだった話から・・・。
- 樋口
- はい?
- 山上
- 『覚醒』のシナリオが批判された話から
はじめてもいいんじゃないでしょうか? - 樋口
- あっ、はい。そうですね・・・。