『社長が訊く『ファイアーエムブレムif』』
4. 「単純な敵・味方の関係ではない」
- 岩田
- さて、話は前後しますが、
そもそも、3本をつくることになったのは
どのような経緯があったからなんですか? - 山上
- じつは前作の『覚醒』は
シリーズの最後のつもりでつくったんです。 - 岩田
- ええ・・・。
- 山上
- 当時の営業本部長の波多野(信治)さん(※27)から、
「『エムブレム』シリーズは、数字があまり出ないから、
悔いのないように、やりたいことを全部詰め込もう」
と言って、「おれはこれがやりたい」
「自分はこれがやりたい」というのを積み上げていって、
その結果できたのが『覚醒』だったんです。
波多野信治さん=元任天堂専務取締役 兼 営業本部長。過去、社長が訊く「Wii・DSソフト おさがしガイド(仮称)」に登場。
- 岩田
- 「悔いのないように」と言っていたのは
わたしも覚えてます。 - 山上
- その結果、けっこう売れたんです。
- 岩田
- 久しぶりに大きく盛り返すことができましたよね。
海外ではいちばん売れた
『エムブレム』になりましたし。 - 山上
- そうですね。すると波多野さんは
手のひらを返したように言うわけです。
「次はいつできるんだ?」って。
- 岩田
- 「これが最後だぞ」って言ったのに(笑)。
- 一同
- (笑)
- 山上
- 「えっ、最後じゃなかったんですか?」と聞くと
「当たり前だろう。営業というのはな、
売れたら、すぐ次と言うもんだ」と言われまして・・・。
それで、インテリジェントシステムズのみなさんに、
「えらいこっちゃ、すぐに次をつくらなきゃいけなくなった」
という話をしたんですけど・・・。 - 岩田
- 完全燃焼で、燃え尽きてたんですね。
- 山上
- そうなんです。
ネタも出し尽くしちゃったし、
「どうしよう?」ということで、
大慌てで企画を考えてもらったりしたんですけど、
みんなは燃焼したあとでしたから、
インパクトのある案が出てこなかったんです。
そんなとき、僕はあることを思い出して
前田さんに、言ったんです。
「そうだ。おれ、もう1個やりたいことがあったよ」って。 - 岩田
- やりたいこと、というのは?
- 山上
- 『エムブレム』の1作目(※28)のときに、
「2つの村のどっちを行くか」ということで、
アランとサムソン(※29)という2人のキャラクターのうち
どちらかしか選べなくなるという仕様があったんです。
ところが、どちらを選んでも
物語に何の変化もなかったんですね。
そこで、「なーんだ。変わったらいいのに」
と言うと、当時の先輩から
「そんなの容量が少なくてできないんだ」
と言い返されたんです。
1作目=『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』。1990年4月に、ファミコン用ソフトとして発売されたシミュレーションRPG。
アランとサムソン=シリーズ1作目に登場するキャラクター。兵種は、アランがパラディンで、サムソンが勇者。どちらかひとりしか仲間にすることができない。
- 岩田
- ファミコンの時代ですからね。
- 山上
- で、そのときの無念さを思い出しまして、
「前田さん、もし反対側を選んでいたら、
おれはこれがやりたいんだけど!」と言ったんです。 - 前田
- (何度もうなずく)
- 山上
- しかもパッケージを2本にすれば、
買う前から「どっちがいいかな?」と悩んで、
選ぶことの楽しさも味わえるようになると思ったんです。
そこで「僕はそういうことがやりたいんだけど!」と
前田さんに熱く語ったら
「しばらくお待ちください」と・・・。
で、数日後に、前田さんがやってきて、
「山上さん、A国につくか、B国につくか、という
なので、僕は3本をやりたいんです」と。 - 岩田
- さらに増やしたんですね。
- 山上
- そこで、僕は
「また、自分を苦しめる方向に行きますね」
と言ったんですけど、
「どっちにもつかない、というアイデアは
ぜひ、それでいきましょう! 」
というところから、話がはじまりました。 - 岩田
- 前田さん、自分で自分を苦しめることが
わかっていながら、
なぜそういう提案をしたんですか? - 前田
- はい。「A国につくか、B国につくか」
という究極の選択は
とてもおもしろいと思ったのですが、
お客さんの気持ちになって考えると、
「どちらにもつかない」という選択肢も
きっとほしくなるのでは、と思いました。
どちらの勢力にもつかないことで
この世界がいったいどうなるんだろう
と考えるだけでもワクワクしますし、
自分のなかでは、3本をつくることは、
極めて自然の流れでした。
- 岩田
- おもしろさのために、
ディレクターとして腹をくくったわけですね。 - 前田
- ええ。しかも、一部を変えるのではなく、
3本それぞれ、全部を変えようと考えましたので、
「物量的な覚悟をある程度しないといけないな」
ということを、その時点で考えていました。 - 岩田
- そこで、ストーリーを
樹林さんにお願いすることになったんですね。 - 前田
- そうなんです。
- 山上
- でも、ストーリーを樹林さんにお願いしても、
たいへんなことになることは予想がつきましたので、
たとえば戦場でも、同じマップを流用するようにして、
A軍の場合はこっち側から、
B軍の場合はその反対側から攻める、
というつくりかたをすれば、
マップをひっくり返すだけでいいですし、
それでかなり節約できると思ったんですね。
ところが、最終的に、そういった流用が
ほとんどなかったんです。 - 岩田
- 愚直に3本それぞれに
新しいマップをつくったんですね。 - 前田
- はい。とくにストーリーについては、
一切、流用できなかったんじゃないかと思います。 - 山上
- そのストーリーなんですが、
僕は最初、A国とB国は
正反対に描かれると思っていたんです。
ところがそうじゃなくって・・・。 - 樹林
- 悪の側についたつもりでも、
じつは悪じゃなかったりするんです、全部が。
その一方で、善の側についても、
全部が善でもないので・・・。 - 山上
- なので、正反対というよりも
斜め45度から見たようなところがあるんです。 - 岩田
- 斜め45度、というのは?
- 山上
- 要は、単純な敵・味方の関係ではない
ということなんです。
どちらの国にもいい人がいますし・・・。 - 岩田
- 単純な正義と悪の物語ではない、
ということなんですね。
どちらにも理があって、どちらの立場から見ても、
そこに正義があるという・・・。 - 山上
- そうなんです。
そこに登場する人物たちは、
それぞれの主張を信じて疑わない、
素朴でいい人たちばかりなんです。
ところが、自分はどちらかにつかなきゃいけないので、
身もだえするくらいの葛藤があるんですね。
だから、物語を進めていっても
ずっと後ろ髪を引かれる思いがありまして・・・。 - 岩田
- 樹林さん、今回、物語を書くにあたって
いちばん重視したのは何だったんですか? - 樹林
- どうしても入れたかったのは泣ける要素です。
- 岩田
- 『エムブレム』という舞台は
それに向いてるのかもしれないですね。 - 樹林
- 舞台としては向いていますね。
とくに今回の話は、「どっちにもつきたいし、
どっちにもつきたくない」ところから入るので、
泣ける要素や感動する要素はけっこう入れやすかったんです。
どっちにしても、裏切りになりますしね。 - 前田
- そうですね。選ばなかったほうが、
敵にまわってしまうわけですから。 - 横田
- すると、敵の言葉がぐさっと刺さるんですよね。
- 山上
- そう、刺さるんですよ、これが。
- 横田
- 「裏切りやがって」みたいに。
- 樹林
- だから、自分で物語を書いていても、
だんだん主人公の気持ちになっていって、
「自分は最低なことをしてしまったなあ」と
思ったくらいなんです(笑)。 - 一同
- (笑)
- 樹林
- それに、人々を裏切ってしまって
「もう戻れない道に進んでしまった」という
もやもやとした気持ちはあるんですけど、
「でも、なんとか解決したい」
という気持ちも生まれてくるんです。
それが前に進むちからになると思っています。 - 岩田
- それは両方、やりたくなりますよね。
- 樹林
- いえ、3本やりたくなると思いますよ(笑)。