『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』
2. 「僕たちのことは忘れないで」
- 岩田
- 自分ではおもしろさがわからないまま、
四方さんが“壁に入る”というアイデアを出して、
そのあと、どういうことになったんですか? - 毛利
- そのあと、
“壁に入る”アイデアについて話し合いを続けても、
言い出しっぺの四方さん自身が
あまり釈然としていないようだったので、
普段は温厚なもうひとりのプログラマーが
「僕は“壁に入る”アイデアは
ものすごくおもしろいと思うんです。
それのどこがおもしろくないと言うんですか!?」と、
怒って言ったんです。
- 岩田
- 温厚なのに?
- 毛利
- はい(笑)。
彼はさらにヒートアップして、
「ここはこのプロジェクトが
迷走するかどうかの分かれ道だから、
僕は絶対に譲りません!」
「何があってもつくりますから、
何をすればいいか、教えてください!」と。
すると、四方さんは
「ポイントは壁の角を曲がるところかなあ・・・」と
自信なさそうに言うので、
「じゃあ、オレが試作をつくってやる」と
僕は言ったんです。 - 四方
- 最初は「1週間くらいかかります」
と言っていたんですけど・・・。 - 毛利
- そこは意地もあって、1日でつくりました。
で、翌日の朝、「どうや!」と見せたんです。 - 岩田
- 四方さんの反応はどうでしたか?
- 毛利
- (3DSをのぞき込む仕草をして)
「おおーっ! これだっ!!」って(笑)。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- 自分でアイデアを出しておきながら、
実際に動くものを見たら、ものすごく驚いたんですか? - 四方
- はい。それを見た瞬間、
「これでいける」と確信しました。 - 岩田
- 頼りになる仲間って、ホントにありがたいですね。
- 四方
- はい(笑)。
しかも、その試作をもとに、
いろんなアイデアがわいてくるようになったんです。 - 岩田
- “壁に入る”アイデアが生まれて、
それまでは3Dだったリンクが
“壁に入る”ことで、2Dになって、
壁の角もスムーズに曲がれるようになると、
いままで行けないところに行けるようになったり、
さらに新しい謎づくりや、仕掛けの材料にもなって、
いろんな応用が利くことになったんですね。 - 四方
- そうなんです。
- 岩田
- その試作をつくったときは、
『神々のトライフォース』のように、
真上からの視点だったんですか? - 四方
- いえ、『大地の汽笛』のように
斜め上からの視点でした。 - 青沼
- 当時は、まだ
DSソフトの延長でつくっていましたから。 - 四方
- それで今日は、
その試作を持ってきたんですけど、
岩田さん、ちょっと触ってもらっていいですか? - 岩田
- はい。(3DSを渡されて)
リンクは『大地の汽笛』と同じ感じですね。
- 青沼
- そうです。この時はまだ
ネコ目のリンクだったんです。 - 四方
- で、Aボタンを押すと・・・。
- 岩田
- ああ、壁に入りました。
これも見たことのない感じがしますね。 - 青沼
- 僕も今日、久しぶりに見たんですけど、
意外といいんですよね(笑)。 - 岩田
- (しばらく無言でプレイして)
・・・そうですか・・・
これを意地になって一晩でつくりましたか・・・。 - 毛利
- いや、これを全部、
一晩でつくったというわけではなくって、
その時は壁の角を曲がるところをつくりました。 - 青沼
- で、このような、それなりに
手ごたえのある試作ができたら、その時点で
「これを元に本格的に開発に入りましょう」
という状況に、普通はなりますよね。 - 岩田
- はい。
- 青沼
- でも、それが許されなかったんです。
- 岩田
- なぜ許されなかったんですか?
- 青沼
- そこはディレクターから。
- 四方
- はい。宮本さんにこれを見せたら、
「よしやろう」と言ってくれまして、
僕らも「やるぞ」という気持ちになったんです。
ところが、それから半月も経たないうちに、
Wii Uのローンチタイトルに
かかわることになったんです。 - 岩田
- それはいつ頃のことだったんですか?
- 四方
- 2010年の10月頃です。
- 岩田
- Wii U発売のほぼ2年前ですね。
- 青沼
- Wii Uのローンチタイトルに
どうしても人手がほしいという話になったんです。 - 岩田
- じゃあ、このプロジェクトのコアメンバーが、
ほかのプロジェクトにさらわれていったわけですね。 - 四方
- はい、全員さらわれてしまいました(笑)。
- 青沼
- ですから、ある意味、このチームが
解散した状態になってしまったわけです。 - 四方
- だから、その時は絶望しました。
そもそも、「いったん動きはじめた
プロジェクトが解散をして、
そのあとに戻ってくる」という話は、
ほとんど聞いたことがありませんでしたので。
- 岩田
- せっかくいいネタができたのに、
これはもう日の目を見ないのではないのかと? - 四方
- はい。そう思っていました。
- 青沼
- でも彼らは、チームが離ればなれになるとき、
置き土産をしていったんです。 - 岩田
- 置き土産というのは?
- 青沼
- 試作の入った3DSに、
開発コード名を印刷したシールを貼って、
まるで、卒業式のときに
お世話になった恩師に贈り物を渡すように、
僕と宮本さん、それに手塚(卓志)さん(※10)に
その3DSを1個ずつ渡してくれたんです。
手塚卓志=情報開発本部 制作部 統括。『スーパーマリオ』シリーズや『ヨッシー』シリーズ、『どうぶつの森』シリーズなど、数多くのゲーム開発にかかわる。過去、E3 2012 特別 篇 社長が訊く『New スーパーマリオブラザーズ 2』に登場。
- 岩田
- ああ・・・。
- 青沼
- 言葉では言わなかったですけど、
「これを見て、こんな企画があったことを
いつか思い出してほしい」みたいに(笑)。 - 岩田
- 「僕たちのことは忘れないで」
みたいに?(笑) - 四方
- はい(笑)。
- 岩田
- でも、なんだか泣かせる話ですね(笑)。
- 青沼
- ですから
「これは絶対に忘れちゃあいけないんだ」
と思いましたけど、僕自身は当時、
『スカイウォードソード』の開発がありましたし・・・。 - 岩田
- 四方さんと毛利さんは?
- 四方
- そのあと僕は『Nintendo Land』(※11)に、
毛利さんは『New スーパーマリオブラザーズ U』(※12)の開発に
かかわるようになりました。
ちなみに、僕は『Nintendo Land』で
『ゼルダの伝説 バトルクエスト』(※13)を
つくっていたんです。
『Nintendo Land』=Wii Uの同時発売ソフトとして、2012年12月に発売されたテーマパークアトラクションゲーム。
『New スーパーマリオブラザーズ U』=Wii Uの同時発売ソフトとして、2012年12月に発売されたアクションゲーム。
『ゼルダの伝説 バトルクエスト』=『Nintendo Land』に収録された、任天堂のゲームタイトルをモチーフにした12種類のアトラクションのひとつ。「協力クエスト」では、Wii U GamePadで操作する弓使いのリンク、またはWiiリモコンプラスで操作する剣士のリンクとなって、複数人で協力しながらモンスターと戦いステージクリアを目指す。
- 岩田
- じゃあ、『時のオカリナ』から続いた
『ゼルダ』開発の経歴は途切れなかったんですね? - 四方
- はい。ですから、Wii Uに
『ゼルダ』に対する情熱をぶつけていました。 - 一同
- (笑)