『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』
4. 美しいチーム関係で
- 岩田
- その4回目のプレゼンで
宮本さんからオッケーをもらったとき、
四方さんと毛利さんは、
まだWii Uのプロジェクトにいたんですよね? - 四方・毛利
- はい。
- 青沼
- でも、プレゼンの時は、
彼らにも必ず参加してもらっていたんです。
で、宮本さんも
「これなら新しい『ゼルダ』ができるよね」
と言ってくれて、それから本格的に
開発がスタートするんです。 - 四方
- けど、真上からの視点では
けっこう試行錯誤がありましたよね。 - 青沼
- そうそう。
- 四方
- というのも、真上から見ると、
リンクの帽子しか見えなくて、
なんだかわからない緑色の物体が
動いているようにしか見えなかったんです(笑)。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- 真上見下ろし視点というのは、
じつはいろんな問題があって、
そのまま正直につくってしまうと、
見た目がまったくおもしろくないものになりますからね。 - 四方
- そうなんです。
- 岩田
- だから、いい意味での
ウソをつく必要があるんですね。 - 青沼
- はい。そこでウソをつくことにしまして・・・
10月にニューヨークでコミコン(※15)が開かれて、
僕はそこでパネルセッションをしたんですけど、
その時に・・・。
コミコン=Comic-Con。毎年ニューヨークやサンディエゴで開催されているコミックや映画などのカルチャーイベント。2013年のニューヨーク・コミコンには任天堂も出展した。
- 岩田
- 種明かしをしたんですね。
- 青沼
- はい。その時に、今作の画面を
真上からだけでなく、横から撮った写真も
『ゼルダ』ファンの人たちに見てもらったんですけど、
リンクも斜めだし、ルピーも斜めなんです。
- 岩田
- わたしもその画面写真を見ましたけど、
「なんという世界だ(笑)」と言いたくなるくらい
すごく不思議な世界ですよね。 - 青沼
- ええ。真上から見たときに、
リンクたちの顔や体が見えるように
わざと奥のほうに傾かせていますので。 - 岩田
- そうすることで、
なんだかわからない緑色の物体ではなく、
リンクとして見えるようになったんですね。 - 四方
- はい(笑)。
- 青沼
- あと、それに加えて、もうひとつの課題で
自分たちの首を絞めることになったんです。 - 四方
- 秒間60フレーム(※16)のことですよね?
秒間60フレーム=1秒間に表示される画面数が60コマのことを指す。コマ数が増えるほど、映像の動きがなめらかになる。
- 青沼
- そうです。ある時、毛利さんが
「今回は60フレームにしませんか?」と言うので、
「え? 『ゼルダ』というゲームは
30フレームで動かしても大丈夫だよ」
と答えていたんです。
ところがしつこく「60フレームで」と言うので、
「なんで? なんで?」と聞いたら、
「立体視がすごく安定するんですよ」と。 - 岩田
- 通常は30フレームのものより
コマ数が2倍に増えるので、
絵がスムーズに見えるようになるんですね。 - 青沼
- そうなんです。
その結果、立体視の焦点が
とても合わせやすくなると言うんです。
そこで、試しに30フレームで動いているものと、
60フレームで動いているものを
ふたつ並べて見せてもらったんですけど、
その差がもう歴然だったんです。 - 毛利
- なかには「画面が輝いて見える」なんて
言った人もいるくらいで。 - 岩田
- 画面が輝いて見えるんですか?
プログラマーの発言とは思えませんけど。 - 毛利
- いえ、まったく根拠はないんですけど(笑)。
- 一同
- (笑)
- 青沼
- でも、その違いが一目瞭然だったので
僕としても、ぜひ実現させたいと思ったんですけど、
『ゼルダ』の世界を60フレームで表現するのは、
なかなか厳しいものがありまして・・・。 - 岩田
- それをやると、普通は絵のクオリティーなどが
犠牲になってしまいますからね。 - 青沼
- そうなんです。
「それをやると自分たちの首を
絞めることになってしまうけど、大丈夫?」
って聞いてみたら、
「最初にそうつくると決めたら大丈夫です」
と、毛利さんがすごくハッキリ言うんです。 - 岩田
- 60フレームに
途中から変更するのは厳しいですけど、
最初からそうと決まっていれば、
それに収まるようにつくることができるんですね。 - 毛利
- はい。
- 青沼
- そこで、「じゃあ、任せよう」と。
- 岩田
- 毛利さん、正直に答えてほしいんですけど、
一度も後悔したことはありませんか? - 毛利
- 僕はないです(キッパリ)。
- 岩田
- おお、言い切りましたね。男らしい(笑)。
- 毛利
- やっぱり、自分で触っても
ぜんぜん違いましたから、
苦労するのはわかっていても
今回は60フレームで進めるべきだと思いました。
でも、デザイナーさんには
ちょっと苦労があったかなと・・・。 - 岩田
- なるほど。とばっちりは
やはり、デザイナーにも行くんですね? - 高橋
- いえ、デザイナーとしても
60フレームに魅力を感じていました。
- 岩田
- とばっちりとは思わなかったんですか?
- 高橋
- はい。仮に
3Dボリュームをオフにした状態で遊んでも、
手触りがまったく違いましたし。 - 岩田
- 立体視でなくても違うんですね?
- 高橋
- はい。やっぱりコマ数が多いので、
リンクが剣を振る動きがなめらかになって、
敵をバーンとやっつけたときも、
きめ細やかな表現でやられてくれるんです。
なので、60フレームの導入については
とてもポジティブに受け止めていました。 - 岩田
- でも、処理負荷を軽くしながら
きれいに見えるようにつくらないといけないので、
デザインは大変になりますよね。 - 高橋
- そのへんはプログラマーさんたちが
うまく最適化してくれましたので、
僕らはいつものようにつくれた印象なんです。 - 岩田
- なんか・・・美しいチーム関係ですね(笑)。
- 毛利
- そう言われるほど、
美しい関係だったかは、わかりませんけど(笑)。 - 高橋
- いや、美しかったです(笑)。
- 青沼
- ま、そういうことにしておきましょう(笑)。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- そうやって60フレームにすることで、
どのようなメリットが生まれたんですか?
3Dの立体視が安定したり、
剣をスムーズに振ることができたり、
画面が輝いて見えること以外に(笑)。 - 青沼
- (笑)。たとえば、
下のタッチスクリーンを使って
アイテムを変更したりするんですけど、
今回はドラッグ&ドロップで
アイテムのセットができるようになりました。 - 岩田
- 直感的な操作で
アイテムがセットできるようになったんですね。 - 青沼
- はい。本当は『時のオカリナ 3D』の時に
やりたかったんですけど・・・。 - 岩田
- 『時のオカリナ 3D』は
30フレームでしたからね。 - 青沼
- だから、厳しかったんです。
30フレームだと、タッチペンの動きに
追いついてこないところがあったんですけど、
60フレームにすると
すごくスムーズに操作できるようになりました。
そのほかのところでも、いろんなところに恩恵があって、
でも、その一方で、本当に最後まで
破綻せずにつくることができるのか、
ずっと不安だったんです。 - 岩田
- でも、できたわけですよね?
- 青沼
- はい。
なので、ものすごくうれしいです(笑)。
それはやっぱり、最初にやると決めた毛利さんが、
最後の最後まで絶対に折れることなく、
信念を貫き通したおかげだと思っています。 - 岩田
- やっぱり・・・美しいチーム関係ですね(笑)。
- 一同
- (笑)