1. 「JRPGのマスターピースをつくりたい」
- 岩田
- 今日はNewニンテンドー3DS専用ソフトの
『ゼノブレイド』についてお訊きします。
そもそも一般的なRPGの場合は
発売した直後に「どーん」と売れるものの、
そのあとすぐにしぼんでしまうケースも少なくないのですが、
5年前に発売されたWii版の『ゼノブレイド』(※1)は
このゲームのつくりこみのすごさなどが
あとからあとから、どんどん話題になり、
口コミという形で大きな広がりかたをしたタイトルです。
そんな『ゼノブレイド』が
Newニンテンドー3DS専用ソフトとして
よみがえることになりました。
そこで、モノリスソフト(※2)の高橋さんに、
『ゼノブレイド』とはいったいどんなゲームだったのか、
という話をお訊きしようと思います。
高橋さん、今日はよろしくお願いいたします。
『ゼノブレイド』=2010年6月に、Wii用ソフトとして発売されたRPG。2015年4月2日には、Newニンテンドー3DS専用(ニンテンドー3DS/3DS LLでは、遊ぶことができません)となって発売。
モノリスソフト=株式会社モノリスソフト。1999年に設立されたゲームソフト制作会社。『ゼノサーガ』シリーズや『バテン・カイトス』シリーズ(ニンテンドー ゲームキューブ)のほか、『ディザスター デイ オブ クライシス』(Wii)や『ソーマブリンガー』(ニンテンドーDS)なども開発。本社は東京・目黒区。
- 高橋
- こちらこそよろしくお願いいたします。
- 岩田
- まず、Wii版の『ゼノブレイド』を
つくりはじめたころ、どんなことをイメージして
あの世界がつくられていったのか、という話から
ちょっと振り返ってみたいのですが・・・。 - 高橋
- はい。まず自分のなかには
「JRPG(※3)と言われるもののなかで、
マスターピース(最高傑作)をつくりたい」
という想いがあって・・・。
それを実現するために、たくさんの必要な要素を
ていねいに積み上げていきながら
ゲームの完成をめざしました。
JRPG=日本産のRPG(ロールプレイングゲーム)のこと。コマンド式の戦闘スタイルなどが特徴。
- 岩田
- JRPGというのは
日本で独自の進化を遂げた日本製のRPGのことで、
日本で使われるよりも、海外の人たちが
ゲームジャンルの呼称として使っている言葉なんですが、
Wii版の『ゼノブレイド』が発売されたあと、
「ここ数年の間に出たJRPGのなかで、
『ゼノブレイド』は傑出した出来栄えだ」と
おっしゃる方がたくさんいらっしゃったように
わたしは感じていました。
その意味で「マスターピースをつくろう」という目的・・・
野望と言ってもいいかもしれませんが、
それはある意味、達成できたとも言えるんじゃないでしょうか。 - 高橋
- そうですね。
- 岩田
- たとえば「あの世界にずっと居たくなる」とか、
100時間以上もプレイ(※4)したのに
「終わるのが惜しい」という声も聞かれましたし・・・。
100時間以上もプレイ=Wii版『ゼノブレイド』のプレイ時間表示は99時間59分でカウンターストップする仕様になっていたが、本作のNewニンテンドー3DS版『ゼノブレイド』は、100時間プレイしても表示が対応(999時間59分まで)している。最新作『XenobladeX(ゼノブレイドクロス)』も、300時間以上遊んでも表示に対応できることが、すでに発表されている。くわしくは、公式Twitter「@XenobladeJP」を参照。
- 高橋
- 本当にありがたいです。
- 岩田
- それって、つくり手冥利につきる言葉ですよね。
わたしも『MOTHER2』(※5)をつくったときに
「終わるのが惜しい」と言われたときは
ものすごくうれしかったですから。
でも、高橋さんが『ゼノブレイド』をつくったとき、
そういった高評価をしてもらえると思っていましたか?
『MOTHER2』=『MOTHER2 ギーグの逆襲』。1994年8月に、スーパーファミコン用ソフトとして発売されたRPG。当時、ハル研究所社長として在籍していた岩田が、プログラム開発にかかわっている。
- 高橋
- 正直な話、国内での反応については
ある程度、予測はついていました。 - 岩田
- 開発中から、それだけの手ごたえがあったんですね。
- 高橋
- はい。ですけど、海外のお客さんの評価については、
僕としても意外なところがありまして・・・。 - 岩田
- どこが意外でしたか?
- 高橋
- 西洋の人たちに好まれるのは、
高品質な映像で、リアルなゲームが多いですよね。 - 岩田
- はい。しかも、スケールがすごく大きくて、
自由度も高かったりしますしね。 - 高橋
- そういうゲームに慣れ親しんでいるお客さんに
手にとって遊んでいただけた、ということが、
意外に思ったところなんです。 - 岩田
- 日常的にそういったゲームを遊んでいる彼らに、
『ゼノブレイド』のようなJRPGが通じるのかどうか
よくわからなかった、という感じだったんですか? - 高橋
- そうですね・・・
「JRPGはもう飽きられちゃったんじゃないかな」
という思いがありました。 - 岩田
- ああ、なるほど。
JRPGというジャンルは、1990年代に
世界中のゲームファンを巻き込むことができていましたけど、
その後は、西洋では以前ほどの高い評価が得られなくなっていたので
『ゼノブレイド』も手にとってもらえないのではないかと
考えたんですね。
- 高橋
- そうです。
- 岩田
- でも、実際はそうではありませんでしたよね。
「やっとJRPGの進化した姿を見ることができた」
と、彼らに言ってもらえたように感じているんですけど、
何が彼らをそう感じさせたんだと思いますか? - 高橋
- もしかしたら、お客さんたちのなかに
“渇望感”があったのかなと、
あとから振り返ってみると、思いました。 - 岩田
- かつて90年代のゲームファンの人たちが思い描いていた
“自分たちのRPGの未来像”が
なかなか出てこなかったところに、
高橋さんたちが投じた『ゼノブレイド』から、
彼らは「RPGの未来はこうなるんじゃないか」という
希望の光を見いだしたようにも思えるんですけど。 - 高橋
- そうかもしれません。
それに、海外製のゲームとの違いもあると思うんです。
ひとつはJRPGがもともと持っていた、
ヒロイック的なもの・・・自分がヒーローになれる、
主人公になれる、という部分を
ゲームのなかにうまく入れられたように思っているんです。
一方で、海外のゲームはというと、
・・・これはあくまで個人の見解なんですけど
すごく細かいところまでよくできているのですが、
ストイックなところが多くて、
ヒロイックなところが
脇に置かれていると感じることもあるんです。 - 岩田
- たしかに海外製ゲームの主人公は、
見た目からして、特別に強そうですからね。 - 高橋
- ええ。
- 岩田
- でも、JRPGでは、
ごく身近にいてもおかしくない、
そんなに強そうでない主人公が、
たまたまそういう運命のもとに生まれて、
自分を導いてくれる何かによって、
当初はありえなかったことを成し遂げていくと・・・。
でも、もし西洋の人たちが、
そういう設定が本当に嫌いだったら
『スター・ウォーズ』(※6)が
あんなにウケるはずはないと思うんですよね。
あの映画はまさしくそういう物語ですから。
『スター・ウォーズ』=1977年に第1作が公開された、ルーカスフィルム製作のSF映画の人気シリーズ。
- 高橋
- そうですね。
あと、自分が日本独自の
コミック文化に育ったこともすごく大きいと思います。
幸運にも、コミックのなかにある魅力を、
ゲームの世界にうまく取り込むことが
できたように思うんです。 - 岩田
- 最近は西洋の人にも
日本のコミックが人気だったりしますしね。 - 高橋
- そうですね。だから、その魅力を
向こうの人も感じてくれたんじゃないかと思うんです。
- 岩田
- もちろん、日本のコミックやアニメを好きな人たちが
『ゼノブレイド』に強い反応を示したようなことは、
わたしもたしかに感じています。
でも、そこだけにとどまってない気もするんです。 - 高橋
- はい。
- 岩田
- そのもうひとまわり、外側にいる、
ゲームジャンルとしてのJRPGを楽しんでくれる人たちが、
「やっと次世代のJRPGがきた」
という感じで、喜びをもって受け止めてくれたような
印象があるんです。
でないと、日本の販売本数よりも海外のほうが多い
なんてことは起こらないはずですから。 - 高橋
- たしかにそうですね。
- 岩田
- いま、コミック文化の話が出たことですし、
ここでちょっと脱線して
高橋さんがどんな文化に影響を受けてきたのか、
という話を訊いてもいいですか? - 高橋
- はい。