5. 「素通りするのはもったいない」
- 岩田
- 今回の『ゼノブレイド』は
Newニンテンドー3DS専用ソフトなんですが、
自分がつくったものが、携帯機で動くのを
初めてご覧になったとき、どう思われましたか? - 高橋
- ちょっとユーザーになった気分でした。
「携帯機で動いてる、すごい」って(笑)。 - 岩田
- お客さんの気分を味わえたんですね(笑)。
- 高橋
- はい。
でも、本当によく移植してくださったなと思いました。
最初に話を聞いたときは「ホントにできるの?」
と思ったくらいですから。 - 岩田
- 移植を担当したのは
わたしたちの長年のパートナーである
アメリカのモンスターゲームズ(※41)さんなんですけど、
以前、Wiiソフトの『ドンキーコング リターンズ』を
3DS向けに移植するという話を聞いたときも、
「動いたらすごいけど、本当にできるの?」
という声が、任天堂の社内からも挙がったくらいなんです。
モンスターゲームズ=1996年に設立された、アメリカミネソタ州ノースフィールドにあるゲーム開発会社。過去に、Wii用ソフト『ドンキーコング リターンズ』をニンテンドー3DS用ソフトに移植した『ドンキーコング リターンズ 3D』(2013年6月発売)の開発を経験し、今作では、Wii用ソフト『ゼノブレイド』をNewニンテンドー3DS専用ソフトとして移植を実現した。
- 高橋
- そうでしょうね。
- 岩田
- ところが、モンスターゲームズの人たちは
ボトルネックになっている部分を、
ひとつずつつぶしていって、
最終的に実速度で動かすことができたんです。
それを見た、Wii版をつくったレトロスタジオ(※42)の
スタッフの人たちがすごく驚いていましたし、
わたしたちも驚くと同時に
「3Dとの相性がすごくいいな」と思いました。
レトロスタジオ=アメリカテキサス州オースティンにあるゲームソフト開発会社。1998年に設立され、これまで『メトロイドプライム』シリーズや『ドンキーコング リターンズ』『ドンキーコング トロピカルフリーズ』などの開発を手がけてきた。
- 高橋
- 立体視できるのがいいですよね。
- 岩田
- そうなんです。
で、今回、モノリスソフトさんは
『ゼノブレイドクロス』の仕上げの時期に入っていましたので
移植の仕事をモンスターゲームズさんにお願いしたわけなんですけど、
本当は従来の3DSに移植できればよかったのですが、
『ゼノブレイド』ほどのタイトルになると
やっぱり難しいんです。 - 高橋
- そうでしょうね。
- 岩田
- 今回、パワーのあるNewニンテンドー3DSだからこそ
実現できたわけなのですが、
もちろん一筋縄で移植できたわけではなくて、
「できるとは思うけど、いつ完成できるかはわかりません」
というような、大変不安な時期もあったんです。
それでも、なんとかやり遂げてくれて、
わたしも、実際に動いているのを見たとき
「あの世界が、そのまんま動いちゃったよ」
と、けっこう衝撃を受けたくらいなんです。 - 高橋
- 僕も本当に驚きました。
「Wii版と遜色なく遊べる」と思いましたし。 - 岩田
- 強いて言うなら解像度だけで。
- 高橋
- そうですね。
- 岩田
- あとはほとんどそのまま入っていますしね。
- 高橋
- それが本当にすごいですよね。
そこで、同時に思ったことがあるんです。
もともと『ゼノブレイド』は、家庭用ゲーム機の
Wii用につくったもので、
携帯機のことは想定していなかったわけじゃないですか。 - 岩田
- 当然、そうですよね。
- 高橋
- でも、いきなり新しい3DSで
『ゼノブレイド』が遊べるようになったことで、
「携帯機におけるロールプレイングゲームの
ハードルが上がっちゃうんじゃないか」と・・・
ちょっとうぬぼれ発言かもしれませんが(笑)。 - 岩田
- (笑)。でも、『ゼノブレイド』を遊ぶには
やっぱり時間もかかりますので
いつでも中断できる携帯機とは、
じつはすごく相性がいいんですよね。 - 高橋
- そうですね。
- 岩田
- だから、ゲーム好きの人で、
テレビの前にどかっと座る時間がなくても、
携帯機ならつきあえるよ、という人には
ぜひ触っていただきたいですね。 - 高橋
- はい。
- 岩田
- では最後になりますが、高橋さんから、
まだ『ゼノブレイド』を遊んでいない人に、
『ゼノブレイド』ってこういうゲームなんです、
という話をしていただけますか? - 高橋
- はい。堅苦しい言いかたをしますと、
僕ら開発者が、これまでに
何かしらの事情であきらめてきたものが、
これには全部入ってますよ、と言いたいです。
「遊んでも絶対に損はさせません」ということを
胸を張って言えるゲームになったと思っています。
- 岩田
- これまでの、ほぼRPG一筋の人生のなかで、
ときには『ファイナルファンタジー』をつくり、
ときには若いメンバーといっしょに
『ゼノサーガ』をつくり、
これまではいろんな事情であきらめてきたことを、
全部やり遂げられたゲームなんですね。 - 高橋
- そうです。僕がこれまで開発に携わってきて、
必要と思われることをすべて入れたものになりました。 - 岩田
- わたしにとっての『ゼノブレイド』は
「遊んでくれたみなさんから
ほめていただける度合いが妙に高いゲームだ」
という印象があるんですけど、
しかも、ほめてくださる場所が、
人によってバラバラなんですよね。 - 高橋
- そうなんですよね。
- 岩田
- そのように
ほめてくださる場所がばらけているところが、
このゲームの豊かさなんじゃないか、と感じています。
人によって違うことを言うと、
「つかみどころのないゲームだ」ととらえる人も
いるかと思うんですけど、そうじゃなくて、
高橋さんがおっしゃっていた、
「タテ軸とヨコ軸がとてもバランスよく、
人によって評価のポイントが違うのではないか」
というのが、わたしの印象なんです。 - 高橋
- そういうことが実現できたのは、
バトルやクエスト、それにストーリーなど
開発にかかわったスタッフの一人ひとりが、
「このゲームには何が必要なのか」をじっくり考えて、
しかも、それぞれが隣の人の仕事の様子を見ながら
つくってくれた結果かな、とは思います。 - 岩田
- 開発の仕事をしていると、
隣の人が何をつくっていようが、
自分だけ突っ走ってしまうケースもあったりしますよね。
とくに、スケジュールに追われていると。 - 高橋
- そうなんです。
でも、「隣がこうやってるから、
自分のところでフォローしておこう」という感じで、
みんなで協力しながらものづくりができた結果、
ヨコ軸の遊びも広がって、
全体として高い水準にまとまったのかなと思います。 - 岩田
- まさに、全員野球の結果なんですね(笑)。
- 高橋
- そうですね。
- 岩田
- それから、先ほど高橋さんが
「携帯機のRPGのハードルが上がるかもしれない」
という話をしていましたけど、
RPGファンを自認する方には、
「これを素通りするのは、もったいないですよ」
と言いたいですね。 - 高橋
- ええ。すごくもったいないと思います。
- 岩田
- では、4月29日にWii Uで発売予定の
『ゼノブレイドクロス』の話は
機会をあらためて、お訊きしたいと思います。
今日はどうもありがとうございました。
- 高橋
- こちらこそありがとうございました。