『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第1回:『レイトン教授と奇跡の仮面』
4. 「これはゲームじゃなくていい」
- 岩田
- では『レイトン教授』についてお話をお伺いします。
ニンテンドーDSというゲーム機ができたから、
『レイトン教授』シリーズが生まれたといっていいと思うんですけれど、
どういうプロセスで『レイトン教授』が生まれたんでしょうか? - 日野
- きっかけは『ドラクエVIII』をつくった後、
自社で売るものをつくることが目標として生まれたんです。 - 岩田
- つまり、それまでゲームの開発を請け負う
ゲームデベロッパーだったレベルファイブさんが、
自社の商品を販売するパブリッシャーをめざされたんですね。 - 日野
- そうです。パブリッシャーをやるなら、
アイデアをかたちにしやすいニンテンドーDSが最適だと思ったんです。
でも正直にお話ししますと・・・。
「任天堂さん以外のソフトは売れづらい」という声もあり、
僕はそれがなぜなのかを考えたんですよ。
そこで僕が出した結論は
「必ずしもゲーム好きな人がDSを持っているわけじゃない」
ということでした。 - 岩田
- 『脳トレ』(※20)や『nintendogs』(※21)のときに
広がった時点でのDSを指していえば、
そうかもしれないですよね。
『脳トレ』=『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2005年5月発売。
『nintendogs』=ニンテンドーDS用ソフトとして、2005年4月発売。
- 日野
- 『レイトン教授』の企画時は、まさにその時点だったんですよ。
とくにDS Liteを持っているライトユーザーの方は、
ゲームにおける最高のドキドキとクオリティを求めるというより、
アイテム感覚でゲーム機を所持していると分析したんです。
だからパブリッシャーとしてのデビュー作を成功させるには、
『脳トレ』の次のソフトをつくることが必要だと思ったんです。
もちろんDSを遊んでいる方にはゲームファンもいるけれど、
『脳トレ』を遊んで次のソフトをまだ持っていないという
ライトユーザーの方の層が、意外と多いんじゃないかと。
- 岩田
- つまり、ビデオゲームとして『脳トレ』しか遊んだことのない方でも
受け入れられるものをつくろうということを考えたんですね。 - 日野
- はい。それで『脳トレ』を遊んだ方たちが
満足しない部分は何だろうと、さらに分析したんです。
『脳トレ』を毎日やっている方ももちろんいるんですが、
満足できない部分もあると思ったんですね。
そこで『脳トレ』にないものを取り入れつつ、
その延長線上として遊べるようなイメージにしたんです。
それからライトユーザーの方には女性の方も多いと感じたので、
声優としてタレントさんを使えば話題性があるかなと思いました。
当時は、外ではDSの音を消して遊ぶことが多い状況だったんですが、
あえて、超豪華声優陣にしようと。
そして小さい画面でも、映画レベルの映像を入れようと。 - 岩田
- まだ世のなかでやっていなかったことを
積極的に強調することで、
『脳トレ』の次の1本として、新しい体験を
感じてもらえると考えたんですね。 - 日野
- そうです。有名な方たちが声優をやっているとか、
映画のような映像を見られるといったゲームの仕様が、
プロモーションのときに使えることが重要だったんです。
『レイトン教授』1作目の裏パッケージも、
普通なら画面写真を載せて説明するものですけど、
タレントさんの写真やインタビューが入っているんですよ。
これは女性誌の誌面をベースにしたんですけど。 - 岩田
- 女性誌とかも研究したんですか?
- 日野
- いえ、女性誌の誌面をイメージしてやってほしいって、
僕は指示を出しただけです(笑)。
要は、手に取ったときにゲームという感じではなくて、
ライトユーザーの方たちにも自然と受け入れられる商品にしたかったんです。
それらがうまくかみ合って、ヒットにつながったんだと思います。 - 岩田
- その当時、『脳トレ』の次として、
いわゆる教養トレーニング系のソフトはたくさん登場しましたが、
ほかにこういうアプローチをしているソフトはなかったと感じました。 - 日野
- ゲームデザインに関しても、最初にあがってきたものは
ほぼボツにしました。開発のチームには
「これまでのものとは違うから、ウィンドウを開いちゃダメ」
「次にやることは全部、上画面に出そう」と言いました。
RPGでいえば、次に何をすればいいのかが、
つねに指示されている状態ですね。 - 岩田
- それはゲーム的には本来、ありえない構造ですよね。
「そんなことしたら、お使いをしているみたいで興ざめだよ」と
言われてしまいかねないような構造を、
ゲームに慣れておられないお客さんが迷わないようにするために、
意図的に選んでいるんですね。
- 日野
- そのとおりです。『レイトン教授』をつくるとき、
DSのアドベンチャーゲームを研究したんですよ。
そこで何が起こったかというと、一度プレイした後、
忙しくて3日くらい放置してしまうと、次にやるときに
何をしたら進めるのかがわからないんです。
どうすれば、次に進めるのかわからないから、
再開したら、延々どうすれば次に進むのかを探す作業になるんですね。 - 岩田
- どうすれば次に進めるのかわからない人にとっては、
それはもう、ゲームでなくて作業ですからね。 - 日野
- そうなんです。『レイトン教授』は携帯ゲーム機なので、
いつやめなきゃいけないかわからないから
そういう配慮は必要だと感じたんです。
だから、つねに次の目的を出せばいいと思ったんです。
スタッフからは「そこまでしたらゲームと呼べないじゃないですか」
と言われたんですけど、
僕は「これはゲームじゃなくていい」とまで答えましたから。
結局、その「フラグが次に立つ場所がわかる」システムは、
『イナズマイレブン』や『二ノ国』にも
踏襲(とうしゅう)されているんです。 - 岩田
- 「そんなことをしたらぶち壊しじゃないか」という考えは、
その当時のつくり手の思い込みに過ぎなかったということですね。
現に、「興ざめだよ」とは、ほとんどのお客さんは
おっしゃっていないわけですから。 - 日野
- そうなんです。次の目的がわかっていても、
そこで寄り道ができるようにしてあればいいと思ったんです。 - 岩田
- ナゾそのものは、ちゃんと頭を使って考えられますしね。
- 日野
- そうです。僕らが新しい土地に観光に行ったとき、
自分が最終的に行くべき場所がわかっているから
安心していろんなところに寄り道できるのであって、
もしかして迷っているかもしれない・・・と思いながら、
楽しい観光はできないじゃないですか(笑)。 - 岩田
- 最後、ホテルに帰ってご飯が食べられることが
わかっているからこそ、楽しく観光できますからね(笑)。 - 日野
- そうなんです、その考え方といっしょなんです。