『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第1回:『レイトン教授と奇跡の仮面』
6. このハードにかけてもいい
- 岩田
- ではニンテンドー3DSについてですが、
最初に日野さんがご覧になったときの印象は? - 日野
- あれは本当に、僕も「おおー!」と思ったんですね。
そこで、瞬時に一般の人はどう受け止めるかなって思ったんです。
3Dは目が疲れるとか、きっといろいろ言われるだろうけど、
このインパクトはそれを補うくらいに大きいだろうな、と。
その瞬間、「このハードにかけてもいい」って思ったんです。
それで、レベルファイブでは、『レイトン教授』をはじめ、
さまざまなタイトルを準備したい、と考えたんです。 - 岩田
- そういえば、こちらからお願いしていないタイトルも含めて、
6タイトルも発表してもらいましたよね。 - 日野
- はい(笑)。その他のタイトルに関していえば、早い段階で
いいソフトを供給できるようにしたいなと考えまして、
どんなものが3DSにあればいいのかと、
いまの商品ラインナップを見直していったんです。
たとえば『ファンタジーライフ』(※24)という作品を、
DSから3DSに移すことにしたんですよ。
『ファンタジーライフ』=「NINTENDO WORLD 2011」でも紹介された、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売予定のファンタジーRPG。
- 岩田
- DSでつくっていたものを、3DSに移行されたんですね。
- 日野
- はい。あの作品は、ネットワーク機能が進化する3DSと、
飛び出して見える立体視というものに対して、
非常に親和性が高いなと感じたので。
基本的に、面白い企画として立ち上がっていたものは、
3DSなら面白い作品になるかどうか、一通り想像してみたんです。
そしたらほとんど3DSでいけるという結果になったというか・・・。 - 岩田
- ああ、いろいろ考えていったら、どれも3DSがいいと思ったので、
結果的に3DSのタイトルがいっぱい並んだかたちになったんですか。 - 日野
- そうです。3DSというハードウェアにほれ込んだときから、
自分のなかで最初からいくと決めているので。
最初の段階から、レベルファイブというメーカーとして
3DSにしっかり取り組んでいるイメージをつくりたかったんです。
だから全社をあげて、3DSの性能をいちばん引き出せる
メーカーになれればいいんじゃないかという考え方で
つくっていますね。
- 岩田
- 日野さんは、3DSのどんなところにワクワクしたんですか?
- 日野
- ひとつはアイテムとしての魅力です。
僕は、DSとDS Liteは別物だと考えているんです。
DSはゲーム機ですが、DS LiteになったDSはアイテムなんですよ。
そういう考え方でものを見たとき、
立体をこの場で見られる3DSというものは時代性に合っていて、
DS Liteと同じようにアイテムになるな、と。 - 岩田
- 3DSが世のなかで話題にしてもらえるアイテムであり、
人から人へ伝わるアイテムであるという状況になれば、
そこに発売されるソフトウェアも話題になりやすいですからね。 - 日野
- 多分、「おおー」という驚きが3DSをアイテムにすると思うんです。
だからゲームに興味がなくても、この「おおー」を体験したいがために、
買いたいと思う人が出てくるかもしれないですし。 - 岩田
- すぐに買っていただけなくても、少なくとも誰かが持ち歩いていたら、
3DSは周囲の方にも見てもらえる可能性は高いですよね。 - 日野
- はい。だから「これは普及するハードになる」ということが、
僕のなかでソフトをつくる要因のひとつですね。
あとはハードウェアに搭載されている「すれちがい通信」(※25)。
これも僕にとって、けっこう大きいですね。
いままでのものは、たくさんの人が一斉に遊ぶソフトには向いていても、
ほかのタイトルには順番が回ってきませんよね。 - 岩田
- そうですね、なかなか相手と出会えませんし。
「すれちがい通信」=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやり取りができる通信機能。
- 日野
- でも3DSなら、すれちがい通信を使って、
ネットはつながっていないけれど、擬似的にネットに
つながっているようなしかけがつくれると思ったんです。 - 岩田
- 持ち歩いているなかで、自然にすれちがいが起こり、
体験することができるというのは、多分すごく大事なことですよね。 - 日野
- そうです。すれちがい通信と立体視のインパクト。
このふたつでハードは成功するという確信、
あとはクリエーターとしての興味。
これらの理由で、一気に展開しようと思いました。 - 岩田
- 『レイトン教授』に関しては、
一度、昨年のE3(※26)のときに日野さんが
「つくり直します」と宣言されたんですよね。
これはE3以降、3DSで出すべき方向性の物差しが、
日野さんのなかで変わったということですか?
E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。ここでは2010年6月に開催されたE3を指す。
- 日野
- 『レイトン教授』はもともと2Dのソフトでしたので、
E3の時点では擬似立体のような見せ方でつくっていたんですよ。
でもE3で他社さんが出しているものを見たら、
本当にこれでいいんだろうかって思ったんです。
僕がお客さんだったら、3DSと同時に買うソフトは、
そのハードの特性を活かしたソフトだよな、と。 - 岩田
- ハードと同日発売のソフトには、
「このハードで新しく何ができるようになったのか」を
お客さんに見せるという使命があるんですよね。
- 日野
- はい。だからあのままじゃ絶対に売れなかったと思うんですね。
だって、まずは3Dをグリグリさせたいですから!
ひとまずは3DSを人に見せて「おおー」って言われるものを、
買いたいですよね。 - 岩田
- 確かに。人に「おおー」と言わせることも、
最初に買っていただけるお客さんの動機ですからね。 - 日野
- だってストーリーがどんなによくても、自慢できないですから。
- 岩田
- ストーリーを自慢したら、まだ遊んでいない人には
迷惑がられるだけですしね(笑)。
3DSだからできるようになった表現を見てもらわないと、
同時発売するチャンスを活かせないですからね。 - 日野
- はい。だから「おおー」の『レイトン教授』に
つくり替えなきゃいけないと思ったんです。
だからE3でほかの作品を見てよかったですよ。
そうでなければ、全然違うものになっていたと思うので。
背景もアニメに見えますが、全部3Dになっているんです。
内容のボリュームも随一で、過去最高の『レイトン教授』だと思います。 - 岩田
- わかりました。では最後に『レイトン』ファンのお客さんへのメッセージと、
これから日野さんが展開する3DS用のソフトウェア全体に対しての
お客さんへのメッセージをお願いします。 - 日野
- まず、『レイトン教授』ファンのお客さんに対してですが、
3DS登場のおかげで、今回はパズルもまったく新しいものですし、
いままでにない新しいものを遊んでいる感じがすると思います。
3DSという新しいハードに対するつくり手の興味が、
そこに詰め込まれているんですね。
開発スタッフ一同、時間がないのに喜んでやっていますから。 - 岩田
- つくる側がワクワクしてつくっているからこそ、
それがモノに乗り移るんですよね。 - 日野
- はい、だからこそいままで『レイトン教授』を遊んだことがある人ほど、
とくに変わりっぷりを感じてもらえると思います。
あとは、レベルファイブが開発する3DS用ソフト全体を
楽しみにしていただいているお客さんへのメッセージですが、
3DSというのは、ゲーム業界のマンネリ感を
一蹴(いっしゅう)してくれるハードなんです。 - 岩田
- つくり手への新たな挑戦状、という側面を持っているということですね。
- 日野
- だからタッチペンや2画面であることはDSと同じでも、
立体視やネットワーク機能が強化された3DSというものは、
僕はまったく新しいものとして受け取っているんです。
このインパクトはきっと、ゲームを普段やらない方たちにも、
広がっていく気がしているんですね。
世界観への感情移入度の高さとか、
いままでのゲームよりも一歩踏み込んだ深い世界を
ぜひ体験してもらいたいなと思います。
- 岩田
- われわれの新しい携帯型ハードの提案に対して、
こうやってビンビン響いて、「面白い」と言って動いてくれる
つくり手の方がいてくださることは、
すごく恵まれたことだと思っています。 - 日野
- はい。本当に、つくるエネルギーや新しいアイデアのきっかけを
もらえるハードだと思います。
3DSにすごく期待していますし、
会社として一生懸命やっていくつもりなんで、
ぜひみなさんも、3DSでうちのソフトを遊んでみてください。 - 岩田
- 今日はいろいろなお話が訊けて楽しかったです。
どうもありがとうございました。
- 日野
- こちらこそ、ありがとうございました。