『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第14回:『初音ミク and Future Stars Project mirai』
1. AM2研
- 岩田
- 今日は『初音ミク プロジェクト ミライ』(※1)の
「社長が訊く」ということで、
セガさん(※2)から3人の方にご足労いただきました。
よろしくお願いします。
『初音ミク プロジェクト ミライ』=『初音ミク and Future Stars Project mirai』。『初音ミク』とは、クリプトン・フューチャー・メディアから発売された、デスクトップミュージック(DTM:パソコン上でつくる音楽の総称)ソフトウェアであり、キャラクター・ボーカル・シリーズの第1弾。あらかじめ録音された人間(声優)の声をもとに、音声合成された歌声をつくることができるヤマハ開発のボーカル音源「VOCALOID(ボーカロイド)2」の技術が使用されている。
セガさん=株式会社セガ。東京都大田区に本社を置くゲームメーカー。
- 一同
- よろしくお願いします。
- 岩田
- では、みなさんが
このプロジェクトで何を担当されたのか、
自己紹介を含めてお話しいただけますか。 - 大崎
- はい。大崎と申します。
『初音ミク Project DIVA Arcade』(※3)のときから、
たぶん、世間一般でいうところの
プロデューサー・・・的なことをしていました。
『初音ミク Project DIVA Arcade』=2010年6月にアーケードに登場した、音楽ゲーム。
- 岩田
- プロデューサー的・・・なことですか(笑)。
- 大崎
- すみません、いきなりこんな感じで(笑)。
今回のゲームは“昔っぽいつくり方”をしていたので、
プロデューサーの仕事もしつつ、現場も担当していました。 - 岩田
- 現場の仕事もするプロデューサーということですね。
“昔っぽい”っていうのは話が弾みそうなので、
後ほどぜひ、おうかがいしたいと思います(笑)。 - 高部
- 高部です。
ディレクターを担当しました。
ゲームの企画書を書いたり、
PVづくりの指示を出したり、現場監督ですね。
お金や人員のことは大崎に任せて、
僕は好きなだけ遊ばせてもらいました(笑)。
- 内海
- 内海と申します。
『初音ミク』に関するすべてのプロジェクトをまとめています。
今回のゲームでは、全体的なプロデュースや製造面の管理、
プロモーションの企画など、総括的に担当しました。
よろしくお願いします。
- 岩田
- よろしくお願いします。
では、みなさんがなぜこの業界に入ったのか、
これまでどのような仕事をされてきたのか、
今回のゲームのバックボーンとなる話を、
昔話も含めて、おうかがいしたいと思うのですが、
大崎さんからよろしいでしょうか? - 大崎
- はい。
じつは、わたしはPCG-1200(※4)がなかったら、
この世界に入っていなかったんです。 - 岩田
- ああ・・・。
- 大崎
- ハル研(※5)の(笑)。
- 岩田
- いや、まさかPCG-1200の話からはじまるとは
夢にも思いませんでした(笑)。
PCG-1200=PCGは、プログラマブル・キャラクター・ジェネレーターの略。シャープ株式会社から発売されていたコンピューター・MZ-1200の周辺機器として、株式会社ハル研究所より発売された。MZ-1200に接続することで、文字や記号しか表示できなかったコンピューター画面上にドット絵が描けるようになる機能を持っていた。
ハル研=株式会社ハル研究所。『星のカービィ』や『スマブラ』シリーズなどを手掛けてきたソフトメーカー。かつて岩田が在籍していた。
- 大崎
- 当時、僕は中学生だったのですが、
まだ文字しか出すことができなかったパソコンで、
PCG-1200をつかってドット絵を描いていたんです。
それが面白くて「ゲーム業界に行きたい」と。
その後、紆余曲折があってセガに入社し、
業務用アーケードゲーム担当の
AM2研(※6)に配属されました。
AM2研=株式会社セガ内に存在する、第二研究開発本部の通称。
- 岩田
- AM2研というと、
『バーチャファイター』(※7)や
『デイトナUSA(※8)』をつくっているところですよね。
わたし『デイトナUSA』よく遊んでました。
『バーチャファイター』=1993年にアーケードに登場した、対戦型格闘ゲームシリーズ。
『デイトナUSA』=1994年にアーケードに登場した、レースゲームシリーズ。
- 大崎
- ありがとうございます(笑)。
それらを経て、2009年くらいから、
『初音ミク』のプロジェクトにかかわりました。 - 岩田
- 『バーチャファイター』と『初音ミク』っていうのは、
一見つながらないように見えるんですが、
大崎さんの中に何かつながりがあるんでしょうね。
そのことも後でお訊きしたいと思います。
高部さん、お願いします。 - 高部
- 僕もやはりパソコン世代というか、
マイコン(※9)世代でした。
マイコン=マイクロコンピューター。パソコンと呼ばれるようになる以前の、マイクロプロセッサーを搭載したコンピューター。
- 岩田
- あのころパソコンという言葉がなくて、
マイコンと呼んでいましたよね。 - 高部
- ええ。ただ、僕の場合はマイコンをいじることよりも、
漫画を描いたり、8ミリ映画を撮ったりすることが
楽しくなってしまったんです。
本当は映画監督になりたかったんですが、
「そのためには広告業界のほうがいいのでは?」
と思って就職活動をはじめました。
でも、いざ受けてみると、やはり狭き門で
「きついなぁ」と思っていたころ、セガにいた友人から
「お前もきたらどうだ?」と誘われたんです。
よくよく調べてみると、ゲームというものは
ストーリーを語ることができて、映像表現ができて、
映画とほとんど同じつくりをしていたんですね。 - 岩田
- ちょうど、映画の技術を
ゲームに応用できるようになった時期でしたからね。 - 高部
- はい。ゲームが映画に追いついてきていたんです。
自分の中で、ふたつが同じ位置づけになったので、
「これはぜひゲームをつくりたい!」
と思ってセガに入りました。
その後は格闘やレース、ロボットものなど、
男くさいものばかりつくっていたんですけれども。 - 岩田
- 確かに・・・男くさいですよね(笑)。
- 高部
- 必ず堅いもの、重いものが出てくるんです。
メカメカしいものとか、オイルの匂いがするものとか、
毎日、筋肉ばかり描いていた時期もありました。 - 岩田
- はい(笑)。
- 高部
- デザイナーより筋肉を描くのが
うまくなった時期もあったくらいで(笑)。
毎日、時を忘れるくらい楽しかったんですが、
今回、こうして大崎に引き抜いてもらう形で、
これまで門外漢だった『初音ミク』の世界に入りました。
ただ、いざ入ってみると、
「あれ? これはすごく僕がやりたかったことでは?」と、
まぁ、自分で言うのもなんですが、適材適所感がありました。
ここにきてはじめて、
「映画監督に近い仕事ができるかなぁ」と思えたんです。 - 岩田
- 映像の勉強が、役に立つチャンスがついにきたんですね。
- 高部
- そのとおりです。しかも、
「これまでに蓄積してきた、ほかの分野の経験も活かせる」
と思いました。 - 岩田
- 大崎さんも高部さんも、
アーケードゲームを担当していたということでしたが、
アーケードは非常に強い“つかみ”が求められますよね。
とにかく「100円入れてみよう」とか、
1ゲーム遊んだ後に「もう1回!」
と思ってもらえないといけないわけですし。
そんなゲームづくりを経験している方は、
鍛えられ方が違うと思うんです。
- 大崎
- アーケードゲームでいちばんに求められるのは、
「何これ、かっこいい!」「ちょっと触ってみたい!」
と瞬間的に思わせる、筐体(きょうたい)の立ち姿なんです。 - 岩田
- ああ、そうなんですね。
筐体そのものが、お客さんに対する
ゲームのプレゼンテーションになる、ということですか。 - 大崎
- そうです。
ゲームをしている自分の姿がかっこ悪くなるなら
そのゲームはやらないだろうし、その逆だったら
「1回くらいやってみようか」となりますよね。
いろいろな感情が生まれることを考えて、
100円を入れてくれる筐体のデザインを考えます。 - 高部
- 岩田さんがお話しされた“つかみ”は、
今回のゲームにも活きていると思います。
『初音ミク プロジェクト ミライ』には、
ボーカロイド曲のPVが20本以上入っているんですが、
オリジナルPVを考えるときは、
出だしの10秒から20秒で、まず一山がきて、
プレイヤーの心をつかむような演出を心がけました。 - 岩田
- なるほど。
- 高部
- あと、筐体をつくるときと同じように、
お店に置かれているのをパッと見たとき、
もしくはコマーシャルなどの映像で見たときに、
誰もが「かわいい!」と思うことを目標につくったんです。
キーワードは“かわいさは正義”でしたから(笑)。 - 大崎
- それがミクのプロジェクトの一貫したキーワードなんです。
- 高部
- 「かわいいミクが嫌い」っていう人は、
まずいないわけですし、
「うっとりするくらいかわいい」
そうなるまで造形にこだわりました。
ビジュアルのファーストインパクトがすべて、
といった意気込みで・・・。 - 岩田
- 筐体のデザインをどうするか、
というつくり方と確かに似てますね。 - 大崎
- そうです。
「このゲームで遊んだら、自分は楽しい思いができそうだ」
ということを、そこはかとなく伝えるのが大事なんです。 - 岩田
- 一般的に広まっているイメージでは、
「AM2研=格闘&レースゲーム」だと思うんです。
「男くさい格闘&レースゲームのチーム」っていうイメージと、
「かわいい初音ミク」という存在とが、
すごくかけ離れたところにいるように感じたのですが、
ゲームのつくり方にそんな共通点があるんですね。 - 大崎
- じつは今回の『プロジェクト ミライ』も、
いつもライブ用につくっている映像もそうですけれど、
あれは結局、全部『バーチャファイター』の技術なんです。 - 岩田
- へぇ~、そうなんですね。
ミライの技術は『バーチャファイター』の技術なんですか。 - 大崎
- そうです。
『バーチャファイター』の演舞に近い感じで、
PVのダンススタンドをつくりました。
初音ミクは髪まで動くので、
そこはシミュレーションを重ねて・・・。
作業している人間もほとんど共通ですし、
根っこにあるものはいっしょなんです。