『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第14回:『初音ミク and Future Stars Project mirai』
2. セガがプロデュースする“初音ミク”
- 岩田
- すみません、長くなってしまって。
内海さんは、どういう経緯で
この仕事をすることになったんですか? - 内海
- 僕は子どものころからずっとゲームが好きで、
ファミコンユーザーだったんです。
「しばらくゲーセンに行くのを我慢するから、
ファミコン買って!」
と親にねだるところがスタートでした(笑)。 - 岩田
- それまでゲーセンに行かないと遊べなかったものが、
ファミコンさえあれば遊び放題でしたからね。 - 内海
- はい、本当に。大人になってからも
ずっとゲームが好きだったのですが、
最初はまったく異なる業界で、
システムエンジニアをしていました。
でも「やっぱりゲーム業界は楽しそうだなぁ」と思って、
3DCGの勉強をして、ゲーム会社に転職したんです。
そのあとセガに入社してから、版権ものの
プロデュースを担当するようになりました。
2007年の夏に『初音ミク』が発売されて、
1~2カ月経ったころ、
たまたま『初音ミク』と別の版権もののうち、
「どっちをやりたい?」と聞かれたので、
「よく知らないから『初音ミク』をやってみようか」と思いました。
- 岩田
- まだ『初音ミク』という存在が、
世の中にあまり知られていなかった時期ですね。 - 内海
- そうです。
『DTMマガジン(※10)』で
体験版のCD-ROMがついた雑誌が
バカ売れしたという記事を覚えていて、
「ああ、この人が“初音ミク”っていうんだ。
きっとモデルがいるんだろうなぁ」とか、
「有名な歌手の人が声を入れているのかな」とか、
そんなレベルのところからはじまりました。
『DTMマガジン』=『DTM magazine』。寺島情報企画から発行されている、月刊音楽雑誌。
- 岩田
- ファンの方が聞いたら怒られそうなくらい、
認識がなっていない状態だったということですね(笑)。 - 内海
- 「あいつ、もぐりじゃん」と思われるかもしれません・・・(笑)。
- 岩田
- でも考えてみれば、
“バーチャルアイドル”は昔から山ほどいたけれど、
この大きさまで育ったものは、ほかにないと思います。 - 内海
- おそらく偶然、いろいろな条件がそろったんだと思います。
一家に1台パソコンがあるのが当たり前の時代に、
ネット環境が進化し、動画投稿サイトが登場し・・・。
そんなときに音楽に興味がある人や、
DTMに憧れていた人が『初音ミク』にふれて、
「これなら好きなことができる」
と思ったのではないでしょうか。 - 岩田
- はい。
- 内海
- 『初音ミク』には詳細な設定がなく、
表現方法に“正解”がないんです。
「パッケージに描かれているかわいい絵」から、
ユーザー先行型でイメージができあがったものですから。
だから僕たちも、ユーザーさんと同じ目線に立って、
「セガがプロデュースする“初音ミク”」
をつくっていこうと考えました。
すでにできあがっている文化の中に飛び込むには、
どのようにしていけばいいのか・・・。
そこからリズムゲームの方向性を決めていったんです。 - 岩田
- 今回、デザインをねんどろいど(※11)にしたのは、
先ほどの「かわいい」を追求しての結果なんですか?
ねんどろいど=アニメやゲームのキャラクターをデフォルメした2.5頭身のフィギュアシリーズ。略称は「ねんどろ」。
- 内海
- いえ、そういうわけでもないんです。
最初、等身大のデザインを3DSに表示させたんですが、
“コレじゃない感”といいますか・・・
「何か違うな」って思ったんです。
3DSを開いた状態の画面とのバランスの問題なのか、
3DSの画面で躍ると初音ミクがより小さく見えてしまったんです。
加えて、そこへリズムゲームの譜面を走らせてみたら、
視点が合わせづらいという問題点もわかりまして。
「じゃあ、ミクを少しデフォルメしてみるか?」
ということで小さくしてみたら・・・
「これ、ねんどろいどじゃん!」となりまして。 - 岩田
- ああ、結果としてのねんどろいどだったんですか。
- 内海
- そうなんです。
ねんどろいどでいくことが決定してからは、
完成までの近道が見えた気分でした。
制作スタッフもみんな、
「かわいいから、いい!」というノリで。
そもそも、『初音ミク』のオフィシャルの二次商品として、
もっともたくさん売られているものが
弊社のゲームソフトなんですけれども、
2番目がねんどろいどなんです。
なので「組み合わせたら最強なんじゃないか?」
とも考えました。 - 大崎
- むしろ後から
「なぜやっていなかったんだろう・・・」
と思ってしまいました(笑)。
- 岩田
- まさにコロンブスの卵ですね。
- 大崎
- はい。4.5頭身くらいの
ミクをつくる案もあったんですけれど、
「やっぱりねんどろいどのかわいさは最強だよ!」
という結論になりました。 - 高部
- 「踊りを見せたいなら手足が長いほうがいいのでは?」
と言われていた時期もあったのですが、
このゲームではいきいきと、まるまるとした動きと、
表情がころころ変わる感じを見せることが大切なんです。 - 岩田
- 確かに表情がすごく、よく見えますよね。
- 内海
- 実際にプレイしていただければ「あぁ、これが正解」
と思っていただけるんじゃないかと思います。
とにかく顔が常に映っていて、
かわいい表情が大きく見えますから。 - 大崎
- このモデルが確定するまでに相当時間がかかりました。
1年弱くらいですかね・・・。 - 内海
- かなりギリギリの確定でしたが、
子どものころに憧れた“未来”のような、
人形が動き出す感じが出せたので、
その部分もよかったと思っています。