『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第14回:『初音ミク and Future Stars Project mirai』
3. “未来感のあるものをつくる”
- 岩田
- “未来”という言葉が出てきましたが、
今回の『プロジェクト ミライ』というタイトルは、
どのようにして決まったんですか? - 大崎
- 最初は『プロジェクト ミライ』じゃなくて、
『ミライノトビラ』とか『ミライノドウグ』というタイトルでした。
“未来”というキーワードだけが先に決まっていたんです。
- 内海
- キーワードを“未来”にしたのは、
はじめてニンテンドー3DSを見たとき、
未来の道具をもらったような感覚があったからなんです。 - 岩田
- “未来感のあるものをつくる”
というのがキッカケだったんですね。 - 高部
- はい。それこそアニメの中に出てくるような、
パァッと白く輝いているイメージの未来です。
科学の発展した曇りのない、明るい未来ですね。 - 内海
- 3DSを開いたときの感覚が、机の引き出しを開けて
タイムマシンがあったときの感覚に近いものがある、と
昭和40年代生まれは考えたんです(笑)。
僕らが想像した未来って、
じつはいまの子どもたちにとっても、
ワクワクするものだと思うんです。
そのうち、車が空を走り出すだろうとか。 - 大崎
- チューブでできた道路の中をね。
- 内海
- まあ、ほとんど実現されていませんけど・・・。
- 岩田
- 本当に、見事なまでに、
ほとんど何も実現していないですね。 - 大崎
- それこそ携帯電話くらいじゃないでしょうか。
多分あのころに考えていた未来は、
日本人にとって普遍的な未来の姿のように思うんです。
だから、僕ら昭和40年代の感覚が受け入れられるなら、
そのイメージでいこうと思いました。 - 岩田
- 確かに、未来感を意識しただけあって、
『プロジェクト ミライ』はゲームではあるけれど、
どこか“新しい道具”のような印象も受けました。 - 内海
- 最初に3DSというハードでやってみたいことを
ばーっと並べてみたんです。
AR(※12)、時計機能やアラーム機能、ジャイロセンサー・・・。
「あれやりたい、これやりたい」と言い合った後、
最後に「ゲームはどうする?」
「まあ、リズムゲームだよね」と決まりました。
だから僕は、『プロジェクト ミライ』を
“ゲー玩”と呼んでいるんです。 - 岩田
- “ゲー玩”ですか。
- 内海
- はい。食玩ではなくゲーム玩具です。
食玩みたいにお菓子のオマケとして
おもちゃがいろいろついていて、
一見おもちゃがメインに思えるくらいに、
というのがつくった僕たちの感覚です。
もちろんリズムゲームも一生懸命つくっていますけどね。
AR=Augmented Reality(拡張現実)の略。現実の映像に仮想の情報を重ね合わせる技術。
- 大崎
- それはやっぱり、“未来”という
キーワードが最初にあったからなんですね。
「未来を3DSに詰め込んだらどうなるのか?」を話し合ったら、
3DSでゲームができるのは当たり前だから、
ガジェット(道具)についての意見ばかり出たんです。
なので、できあがったソフトもそれらを詰め込んで
ガジェット感が漂うものになりました。
結果、それがよかったと思っています。
そもそもねんどろいどは机の上に飾るものなんですが、
それと同じような感じで、
ずっとミクを見ていることができるんです。 - 高部
- つまり、デジタルフィギュアです。
デジタルフィギュア遊びで、毎日いっしょにいられます。 - 大崎
- 時計にもなるし、予定も入れられるし。
- 高部
- ラーメンタイマーにもなるし。
- 岩田
- (笑)
- 大崎
- そう、3分経ったら教えてくれるんです。
- 高部
- 「時間だよー」って(笑)。
- 内海
- 以前、
「(ミクが)画面から出てきそうだけれど、
出てこないんだよね」って、
ネットに冗談で書き込んでいる方がいたので、
もっと画面から出てきそうな感じにしたかったんです。 - 岩田
- 確かに、画面から出てきて、
その辺を動き回りそうな感じがします。
手にとって触っているときだけが遊びではなく、
スイッチをつけたまま机の上に置いておくことを
想定されているんですね。 - 高部
- はい。じつは、プレイヤーが
いないときも勝手に動いてるんです。
3DSには顔認識機能がついていますよね。
内側カメラで認識して、プレイヤーがいなくなると、
プレイヤーがいなくなったことをきちんと確認してから、
ミクがそっとこっちの様子をのぞきにくるんです。
「プレイヤーはいないのに、どう確認すればいいんだ?」
って話になりましたが(笑)。
- 岩田
- プレイヤーも、その様子を影からそっと見るんですね(笑)。
- 高部
- そうです。
「あっ、見にきてる!」って
楽しんでもらえればと思っています。 - 大崎
- プログラマーたちも、わかっているはずなのに、
実際に動くのを見ると喜ぶんですよ。 - 岩田
- 今回の『プロジェクト ミライ』は、
3DSの機能をつかった要素がてんこもりで、
まるで3DSでできることのショーケースなんですね。 - 高部
- こんなに面白いおもちゃがあるんだから、
ミク文化と結びつけたら面白いことができるんじゃないか?」
と思って、いろいろ入れてみました。
すれちがい通信(※13)も、ARも、音声認識も意欲的につかっています。
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。
- 岩田
- たとえば、音声認識ではどんなことができるんですか?
- 大崎
- まず、声で曲を選ぶことができます。
たとえばプレイヤーが「『悪ノ娘』!」と
遊びたい曲を言うと、曲目リストが勝手に動くんです。 - 高部
- 曲がふえると、目当ての曲を探すのが大変になりますよね。
でも音声認識なら、起動ボタンを押して、
「『逆さまレインボー』!」って言うだけで、
パッと曲が出てきます。 - 岩田
- はじめてパソコンや携帯電話で、
音声検索ができたときに感じた未来感と似ていますね。 - 高部
- どちらも便利なだけじゃなくて、
ちょっとワクワクする感じがあるんだと思います。 - 内海
- まぁ、なくても困らないものだとは思うのですが・・・。
- 大崎
- そう、なくても困らないんだけれど、
“すごい”からいいんです!
だってプレイヤーの言葉を認識して、
そのとおりに動くんですから。 - 高部
- 技術自体は昔からあるものなんですけど・・・。
- 岩田
- でも、その技術を「こんなふうに組み合わせるのか」
というところに価値があるんですよね。
昔、『脳トレ』(※14)をつくったとき、
音声認識や手書き文字認識に
とても驚いていただけたのですが、
これらの技術は任天堂が独自に開発したものではなく、
あの時点でDS上で動かせる技術を集約したんです。
これまでそんな技術があることを知らなかった方でも、
自分が興味のある物事とくっつけて示されると、
心にグッと入ってくるんですよね。
『脳トレ』=『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2005年5月発売。
- 高部
- 今回のゲームがそれこそショーケースで、
本当にいろいろなギミックが入っているのに、
1本のゲームとして破綻しないのは、
“未来”という“軸”がとおっていて、
「じゃあこれも未来、あれも未来」
と自然に受け入れられたからなんだと思うんです。
“初音ミク”で“未来”という軸があったから、
これだけいろいろなギミックを入れても、
ブレないゲームにまとめられたんじゃないかと思います。 - 大崎
- あの・・・ゲームをつくっていて、
「うまくいってないなぁ」っていうときってありますよね。 - 岩田
- はい。うまくいっていないときはすごくわかります(笑)。
- 大崎
- ただ、それがわからないときもあるんですよね。
うまくいっているのかどうなのかが。
岩田さんも経験されているんじゃないかと思うんですが、
『バーチャファイター』なんかは特にそうだったんです。 - 岩田
- ああ、未知のものをつくっているときは、
そういう感覚になりますよね。
確かに、『脳トレ』をつくったときも、
「これは絶対うまくいく」なんて思っていなかったです。
ただ、「明らかにいままでと違うものをつくっている」、
という手応えがあって、できていくに従って、
「これって、いままでゲームにぜんぜん
興味を示さなかった人にも面白がってもらえるかもしれない」
という手応えが少しずつふえていったんです。
でも、確信なんてないんですよね。
- 大崎
- そうなんですよね。
少なくとも今回の商品は僕らにとって、
「わからない」んです。
岩田さんが『脳トレ』のときに感じていた
「わからない感」を僕らもちょっと・・・。 - 内海
- くらべますか、そこと(笑)。
- 大崎
- あ、その10分の1くらい・・・、
感じているんじゃないかなと思っています(笑)。