『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第14回:『初音ミク and Future Stars Project mirai』
5. “みんなのミクがある”
- 岩田
- ここまでお話をうかがって、『初音ミク』のゲームが、
どうしてミクファンたちに受け入れられてきたのか、
なぜあのAM2研の人たちがつくっているのか、
いろいろと謎が解けてきました。 - 内海
- おそらく、いきなり
「『初音ミク』のゲームをつくりました!」
っていう感じで告知していたら、
受け入れてもらえなかったかもしれないです。
発売より1年も前に、
「こんな感じでつくってみたんですけれど・・・」
という動画をひとつ出してみたことで、
心を開いていただけたのではないかと思います。
いっしょにつくっていくような気持ちも、
もっていただけたのかもしれません。 - 岩田
- 注目度が高いうえ、インターネットの世界で
お客さん同士の交流から生まれてきた『初音ミク』だからこそ、
こっちが「新しいことをやろう」「驚いてもらおう」
と思って投げたボールに対して、
たくさんのフィードバックが返ってきたんでしょうね。
みなさんは、こんなにもみんながファンになってしまう、
『初音ミク』の魅力ってなんだと思いますか?
- 大崎
- うーん、なんですかねえ・・・。
- 内海
- ひとつは「入り口がたくさんある」ということかもしれないです。
イラストが好きな人、3DCGが好きな人、
フィギュアが好きな人、ボーカロイド楽曲が好きな人・・・
どこからでも入っていけるんです。 - 岩田
- 動画サイトを見つづけていて、
見つけることもあるでしょうしね。 - 大崎
- 女子高生か誰かがカラオケで歌っているのを聴いて、
そこから好きになるっていうケースも多いんですよ。 - 内海
- 自分の好きなところから入り、
最終的に“核”である『初音ミク』にふれ、
また別の入り口に分岐していく・・・という流れですね。 - 岩田
- 入り口をふやそうというのは、
意図的にしたことなんでしょうか? - 内海
- いえ、おそらく、「コントロールする前にふえた」
というのが正直なところじゃないかなと思うんです。
かなり前に、ミクの3DCGモデルをつくれるツールが、
ファンによって無料配布されたんですけど、
そんなふうに普通ではありえないことがあるんです。 - 岩田
- ファンの方の草の根パワーはすごいですね。
- 高部
- はい。スタッフたちの中にも、
いろんな意味でのファンがいます。
イラストのファンもいれば、
「僕はこの曲が好きだから、PVを担当させてください」
というスタッフもいましたし。 - 内海
- あともうひとつ、
ファンの方やクリエーターが、
おたがいにおたがいを否定し合わないというところも、
このムーブメントの魅力だと思っています。 - 岩田
- ああ、そうなんですね。
「『初音ミク』はこれが正しくて、これが邪道」
という人はいないということですね。 - 内海
- そうなんです。
たとえば、原作派、アニメ派、コミック派・・・
みたいな派閥がないわけです。 - 岩田
- 確かに、人気になればなるほど
そういったことが起こりがちなことですからね。 - 大崎
- “みんなのミクがある”というルールが
みんなの意識の根底にあるように思うんです。
普通だったら「CGモデルをひとつに統一しよう」
となりがちなのに、ミクの場合はなりませんでした。 - 内海
- 今年で『初音ミク』は5周年を迎えますし、
これからまた変わっていくのかもしれませんけれど。
「これが好き」「嫌い」という意見も、
だんだんふえていっているようなので、
もっと違う形でのファンも出てくるかもしれないですね。 - 岩田
- わかりました。それでは最後に
「お客さんにこれだけは伝えておきたい」
ということがあれば教えてください。
内海さんからどうぞ。 - 内海
- この『プロジェクト ミライ』は、毎日3DSを開いて、
ワクワクする楽しみがあるゲームだと思います。
いつまでも楽しんでいただけるゲームなので、
ぜひ遊んでいただきたいな、と思います。
- 岩田
- まさに、“ゲー玩”ですね。では、高部さん。
- 高部
- さっき、新しいことにチャレンジするという話がありましたが、
文化って、同じところでぐるぐる回っていると、
どんどん収縮していってしまうものだと思うんです。
だから、今回はあえて、いままでと違うほうを向きました。
「もっとたくさんの人にふれてもらいたい、遊んでもらいたい」
と思っています。
「ミクにはあんな魅力もありますよ、こんな魅力もありますよ」
ということを提案する意味も込めました。
- 岩田
- このゲームが結果的には、
初音ミクというキャラクター自身や、
ファンの人たちが、新しいエネルギーを生み出す
きっかけになるかもしれませんね。 - 高部
- そういうポジティブな効果が出るとうれしいです。
それと、発売日でもある3月8日と、翌日の9日に、
「ミクの日大感謝祭」というコンサートイベント(※17)を行います。
ファンの方のゲーム所持率は高いと思うので、
すれちがいまくれるのではないかなと思っています。
「ミクの日大感謝祭」というコンサートイベント=2012年3月8日(木)、9日(金)の2日間に渡って、TOKYO DOME CITY HALLにて開催されるコンサートイベント。コンサートの模様は、「ニコニコ生放送」や全国の映画館でも生中継される。「ミクの日大感謝祭」について、詳しくはこちら。
- 岩田
- なるほど、それは期待したいですね。
では、大崎さん。 - 大崎
- はい。ちょっと想像していただきたいんですけれども、
「もっているだけでうれしい」
「箱を開けたらニヤッとできる」
「自分の机にあると生活が豊かになった気がする・・・」、
そんな商品がありますよね。
そういう、手にするだけでワクワクする感じを、
ミクのかわいさからはじまり、
いろいろなところに注ぎ込んだつもりです。
- 岩田
- “あなたの生活を変えるかもしれないもの”
という新しい提案なわけですね。 - 大崎
- ああ、まさにそうです。
たとえば、目覚まし時計機能もついているので、
時間になるとミクが起こしてくれます。
起きないと、最後は怒られるんです(笑)。
3月7日までは自分で起きていたのに、
3月8日以降はミクに起こされる。
それって、生活の変化なんですよね。
ちょっと偉そうかもしれないですけど・・・。 - 一同
- (笑)
- 大崎
- でも、そんなふうに生活は変わるし、
持っていてうれしくなるデザインと仕様で、
ミクはかわいいです(笑)。
ぜひ、そばに置いてあげてください。
あと、もちろんリズムゲームも1曲1曲、
こだわってつくりました。
いわゆるリズムゲームでは、
曲のリズムに合わせて操作するものが多いですが、
今回はミクたち歌姫が主役のゲームですから、
彼女たちといっしょに歌うように、
歌詞に合わせてボタンを押していく、というのが特徴です。
歌詞に合わせてボタンを押すと
上手にプレイできるように調整していますので
歌を覚えるくらいやり込んでもらうと
きっと、このリズムゲームの気持ちよさを
体験いただけると思います。
上手にプレイできているときは、かなりいい音が出るんです。
もともと3DSって、音がいいですよね。
「おしっ!」とガッツポーズしてしまうような喜びがあります。 - 岩田
- こうしてリズムゲームをつくってみると、
「音がいい」ということは、
ものすごく意味があることだとわかるんですよね。 - 大崎
- そう思います。
音から伝わる気持ちよさにもすごくこだわったので、
ぜひお試しいただきたいです。 - 岩田
- 今日は、『初音ミク』のプロジェクトが
どうはじまったのかということから、
わたしがゲームセンターで散々遊んでいた、
超男くさいゲームをつくるAM2研の方々が、
どうやってバーチャルアイドルと向き合ってきたのか、
ファンのみなさんからもらう豊かなフィードバックと
どう向き合ってきたかなども含めて、
本当にいろいろな謎が解けて楽しかったです。 - 大崎
- 確かに、ここまでしゃべったのは
はじめてかもしれないですね・・・(笑)。 - 岩田
- いや、非常に面白かったです。
今回のお話を訊いていて、このゲームが、
まだミク文化にふれたことのない人たちにとって、
『初音ミク』に興味をもつキッカケになったり、
ファンがふえるお手伝いができたら・・・と思いました。
それでこそ、3DSでミクが出る意味があるし、
プラスになりますから。 - 大崎
- そうですよね。
- 岩田
- たとえば、低年齢層の女の子たちは
ねんどろいどのミクに好感をもつ割合が高いと思うんです。
一方で、「ミクに起こされたらうれしい!」
という男性もふえるかもしれませんし(笑)。 - 大崎
- あのデザインは誰が見ても、
かわいいと思ってくれるんじゃないかと思います。 - 内海
- 今回、CERO「A」を目標にしたのも、
そういう意味合いがあるんです。
「低年齢層の女の子たちにも、ぜひ遊んでいただきたい」
と思っているので・・・。 - 大崎
- そう、それもチャレンジでした。
でも、こういうことは1回やってみないとわからないので、
「割れそうで割れない、薄い氷の上に飛び込んでいく」、
そんな気分なんです(笑)。 - 岩田
- いま、氷に向かって?
- 大崎
- はい。飛び込んでいるところです(笑)。
- 岩田
- 今日は本当にどうもありがとうございました。
- 一同
- ありがとうございました。